おとな女子登山部 登山レポート 谷川連峰縦走

谷川連峰縦走

登ったところはこんな山

谷川連峰

茂倉岳の山頂から望む谷川岳。右手奥がトマの耳(1963m)で、左がオキの耳(1977m)。双耳峰とはよくいったもので、その地形が手に取るようにわかる

こちらが一ノ倉沢の大岩壁。多くのクライマーたちが命を賭して登り続けてきた岩場である。遭難防止条例が設定され、事前に申請をしなければクライマーでも岩場に近づくことはできない

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」と、あまりにも有名な一節にある「長いトンネル」は、この谷川連峰の山並みの下を、南東から北西の方向へと貫いている。そのトンネルのちょうど真ん中のあたりの位置は、一ノ倉岳や茂倉岳といった谷川連峰の主稜線が連なる部分と重なっている。そして、この主稜線上を北に南にたどっていけば、それがそのまま上越国境線となる。
 今回のトレイルは、まさにこの上越国境をなぞったもの。谷川岳ロープウェイの天神平から谷川岳のふたつの「耳」を踏み、そのまま稜線を北上して一ノ倉岳、茂倉岳を経て武能岳から蓬峠をめざした。そのまま足を延ばせば、いわゆる馬蹄形ルート(蓬峠から七ツ小屋山、清水峠へ向かい、そこから方向を東に、南に転じて朝日岳、白毛門へと続く。地図上のルート形状が馬の蹄のかたちに似ていることから)へとつながっているものの、今回は途中の蓬峠から湯檜曽川へとくだって、一ノ倉の大岩壁を望むショートカットルートを選んだ。
 一ノ倉といえば、言わずと知れた日本三大岩場のひとつ。世界で死者数のもっとも多い山として、ギネスブックにも記録されている“悪名高き山”というイメージが強くあるものの、それは一ノ倉沢でのこと。クライミングルートではなく、いわゆる一般ルートはそのイメージとは掛け離れた場所で、歩きやすくかつ歩き甲斐のあるとても魅力的な山域となっている。このあたりは、紅葉の名所とも言われるエリアで、荒々しい岩峰とさまざまに色づいた樹葉がつくりあげる純日本的な景観は「あっぱれ」のひとこと。東京からもほど近い山だけに、谷川岳の人気が高いのもよくわかる。
 さらに。この谷川連峰には、南北に連なる主稜線のほかに、谷川岳から万太郎、仙ノ倉、平標山へと連なる東西に長い稜線もある。こちらもそのまま上越国境線となっており、その山深さは北アルプスにも劣らないほど。これらのルートを東西南北とつなげば、ダイナミックな大縦走を組み立てることもできる。谷川連峰は、本当に奥深い。

コースマップ

谷川連峰縦走コースマップ

参考コースタイム

【1日目】歩行計/2時間45分
天神峠(45分)熊穴沢避難小屋(45分)天狗の溜まり場(40分)谷川岳肩の小屋(10分)トマの耳(10分)オキの耳(15分)谷川岳肩の小屋[泊]
【2日目】歩行計/3時間50分
谷川岳肩の小屋(20分)オキの耳(50分)一ノ倉岳(20分)茂倉岳(1時間40分)武能岳(40分)蓬ヒュッテ[泊]
【3日目】歩行計/4時間10分
蓬ヒュッテ(1時間)白樺避難小屋(1時間30分)JR見張小屋(15分)旧道(30分)一ノ倉沢(25分)マチガ沢(30分)谷川岳ロープウェイ土合口駅

山行アドバイス

 ロープウェイのアクセスのよさもあり、谷川岳の登頂のみをめざすなら、日帰りでも往復できる。百名山の一座に数えられているためか、メインルートである天神尾根は無雪期の週末ともなれば、大渋滞が発生することもしばしば。ただし、最高地点であるオキの耳から先の稜線は、訪れる人もグッと少なくなり、しずかな山歩きが楽しめるエリアとなる。このあたりは国境稜線というだけに、日本海側と太平洋側の天気の境目ともなる山塊。雲がぶつかりやすいエリアなので、天候が変わりやすいことでも知られている。たとえ入山時に天気が安定していても、風雨に対する備えは怠るべからず。とくに秋の季節は注意が必要に。寒気が入れば、いつ雪となってもおかしくはない。紹介ルート上にある有人小屋は、谷川岳肩の小屋と蓬ヒュッテのみ(ただし、冬期は閉鎖)。一ノ倉岳の山頂と白樺尾根の中程には避難小屋が建てられているものの、どちらも数人が泊まれるだけのシェルターである。ここを拠点とした山行計画は立てるべからず。※取材は2015年10月5~7日。11月以降、降雪があれば雪山登山となる可能性も高いので要注意。各山小屋の営業も終了している。

アクセス

 歩き始めの起点となるのは、谷川岳ロープウェイと天神峠ペアリフトを乗り継いだ地点となる天神峠。そして、ロープウェイの乗り口となるのは麓の土合口駅となる。

【公共交通機関】  JR上越新幹線上毛高原駅から土合口まで関越交通バスの「谷川岳ロープウェイ行き」で約50分。JR上越線水上駅からは同じく「谷川岳ロープウェイ行き」バスで約25分。JR上越線土合駅から土合口までは、徒歩で20分ほど。
天神平からはリフトを乗り継いで天神峠へ。リフトを使わずに天神平から歩き始めることもできる

【マイカー】  関越自動車道水上ICから国道291号線経由で14km、約25分で土合口。谷川岳ロープウェイ土合口駅に有料の駐車場がある。
【ロープウェイ】  谷川岳ロープウェイ 土合口~天神平 片道1,230円/天神平ペアリフト 天神平~天神峠 片道410円
※谷川岳ロープウェイおよび天神峠ペアリストは、11月下旬から冬期営業となるため、営業時間および料金体系に変更あり。詳しくは、谷川岳ロープウェイのHPへ
http://www.tanigawadake-rw.com/index.php

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八ヶ岳の縦走レポート

DAY1 錦秋の谷川連峰、オキの耳のてっぺんに立つ 天神平~谷川岳肩の小屋~オキの耳

天神峠の歩き始めから、この紅葉! まさに季節は、秋まっ盛り。テンションはのっけから最高調!!

臙脂に黄色に紅、朱に。樹々の色づきは、ひとつとして同じものはない

トマの耳の肩部分に建つ谷川岳肩の小屋。谷川岳登山のベース基地である

 谷川岳は群馬と新潟の県境の山。東京からほど近いこともあって、朝に都内を出発してもその日のうちに谷川岳の山頂に立つことができるのが魅力のひとつ。なので、週末ともなれば、いつでも大賑わい。でも今回取材に入ったのは、10月5日の月曜日。平日だけにさすがに人も少なかろうと思っていたけれど、これが大間違い。運よく、紅葉はズバリのタイミングだったけれど……考えることはみな同じなんですよね。秋は短いからなぁ。
 なっちゃんもあややも、谷川岳経験者。でも、秋は初めてというおふたりだけに、どんな印象を持つのか楽しみ楽しみ。集合は土合口。さっそくロープウェイのチケットを購入し、空中散歩に出発。谷川岳はロープウェイで楽々と山稜まで上がれてしまうので、登山者としてはちょっと後ろめたい気分にもさせられるが、昼の時間の短い秋山では“時間短縮”は重要なポイントのひとつ。このアドバンテージは大切に使わせてもらっちゃいましょ。そのぶん、ゆっくりと歩みつつ、樹々の紅葉も楽しめるというもの。
「でも、ホントにいいときに来ましたよね」と、声を揃えるふたり。「前に来たときは西黒尾根を下から登ったんです」と、あやや。聞けば真夏の猛暑のときだったらしく、「正直言って修行でした」と笑いながら話している。その西黒尾根を右手に見ながら、ロープウェイはグングンと標高を上げていく。「楽だぁ~」。
 眼下には赤、朱、橙、黄、浅黄とさまざまな色味が交じり合い、まるで錦絵のよう。天神平でリフトに乗り換え、天神峠に降り立った。目の前には谷川岳へと続く細い一本の道が、紅葉の樹木の間をくねくねと延びている。あそこを歩けるとは、なんてラッキーなんだろう。さすがに、取材チーム全員のテンションがあがります。これだけの紅葉はなかなか見られないよね、と。しかも初日は肩の小屋までなので、のんびりゆっくりと歩を進めればよし。途中、天狗の溜まり場の手前にある岩場では行き交う人たちであふれ返っていたものの、待ち時間もさほど気にはならなかった。圧倒的な秋に浸っていると、なんだかそれだけでも楽しいようで、あややもなっちゃんもずっ~と笑顔のままでした。
 まだ日暮れまでには時間があったので、小屋に荷物をデポして山頂へ。トマの耳、オキの耳の双方を踏んで、肩の小屋での一泊と相成りました。

秋の夜長の星空観察。いやはや、なにもかもが圧倒的

DAY2 こっちは上州、あっちは越後。上越国境稜線を行く 谷川岳肩の小屋~一ノ倉岳~茂倉岳~武能岳~蓬ヒュッテ

青空に映えるトマの耳にて。この一瞬あとには、濃い霧が全体を覆ってしまうのだが

かわいいカマボコ型の避難シェルター。一ノ倉岳の山頂にある避難小屋。泊まれるのは3人まで

 この日も天気は安定しているものの、眼下には雲海がビッシリと広がっている。午後にはこの雲、上がってくるかもなぁと思いつつ、昨日登ったオキの耳へ。期待していた一ノ倉沢の眺望はなく、大岩壁には墨を掃いたような濃い霧がねっとりと張り付いている。この足元がスパッと切れ落ちていると思うと、背筋がゾクッとするような寒気を覚える。場所が場所だけに、おとな女子のふたりの顔にも昨日の笑顔はなく、ちょっとだけ緊張した顔つきだ。
 このまま一ノ倉から茂倉、武能岳へと歩むわけだが、上州側の視界がまったくない代わりに、越後側はスッキリとした青空が広がっている。まさに国境稜線、この山並みで天気がスパッと割れているようだ。そして青空の下では、背の低い樹々の多様な色味と笹原の緑が鮮やかなコントラストを立てていた。絶景って、こんな景色のことをいうのかもしれない。
「ここまで来ると、さすがに人が少ないですね」とあやや。たしかに、朝からすれ違った人は数人しかいない。昨日の黒山の人だかりを思えば、なんだかちがう山域を歩いているかのようだった。「わたしは雪の季節に登ったんですよ、谷川岳」となっちゃんは言う。「あの真っ白い世界が嘘のようですね。それこそ、別の山に来たみたい。しかも冬はオキの耳までしか登っていないので、この稜線は初めてなんです」
 そんな話をしながら急な坂道を登っていくと、いつしか一ノ倉岳の山頂に着いてしまった。ここから茂倉岳へ向かう稜線は谷を隔ててしまうので、一ノ倉沢の岩壁を上から見ることはもうできない。「結局見えませんでしたね。ちょっと残念。でも、まぁ、下からも眺められますからね」なんて、少し寂しい気持ちをなぐさめつつ、先へと進む。
 一ノ倉岳から先は、ガラリと景色が変わる。あの大岩壁を擁している山だとは思えぬほどに、一ノ倉の山頂はのどかな笹原となっていた。そのまま、茂倉岳から武能岳までの稜線にも笹原が広がっている。おもしろい植生だなぁ、と感心しつつ武能岳の山頂に立つと、眼下には笹原の中の一本道が見える。高い木がないからか、とても広くて、なんだか北海道かどこかの草原に立っているような錯覚を覚えてしまう。この日に泊まる蓬ヒュッテが、その一本道の先に小さく見えていた。

DAY3 たおやかな草原から雄々しい大岩壁へ 蓬ヒュッテ~一ノ倉沢~谷川岳ロープウェイ土合口駅

蓬ヒュッテはランプの灯る山小屋らしい山小屋

蓬峠から湯檜曽川へと下っていくルートには、いくつか足場の悪い箇所も

一ノ倉沢の駐車場に到着。あの岩壁の上辺を縁取る稜線が歩いて来た道

 予報では晴れ間が続くはずだったが、この日は朝から濃い霧のなか。霧というよりは、雲のなかにいるようだ。風も強く、ちょっと冬のにおいを感じさせる朝だった。蓬ヒュッテから蓬峠まで戻り、そこから湯檜曽川方面へと下っていく道をとる。白樺避難小屋までは足場の悪い沢を何ヶ所か越えねばならないが、さして長い距離ではない。紅葉はこのあたりまで下りて来ているようで、避難小屋の周りも美しく色づいていた。ただ、稜線の紅葉とはちがってこちらはブナの巨木の森となっている。そのせいか、森全体がどことなく黄色い。
「谷川岳がこんなに紅葉がきれいな山だとは思っていませんでした。なんだか、近くていい山ですよね」と、関東在住のなっちゃん。関西在住のあややは少しうらやましそうな顔を見せている。でも、この紅葉には大満足の様子で、歩がなかなか先へと進まない。
 湯檜曽川の河原まで下りると、気持ちのいい河原でなっちゃんがキノコとシーチキンのホワイトスープをつくってくれた。みなで、ほっこりと温まったあと、旧道経由で一ノ倉沢をめざした。旧道は幽ノ沢、一ノ倉沢、マチガ沢を経て土合口へとつながっている。一般車輛は通行止めとなっているが、車も通れる道だけに、もう気分のなかでは山登りは終了している。帰りの林道歩きをしているような感覚で、ポクポクと歩を早めていく。
 そして、何度目かのカーブを大きく曲がったその先で、突然、大岩壁が目に飛び込んで来た。いつ見ても、その迫力に負けそうになる。周りの岩場には、いくつもの追悼レリーフがはめ込まれている。みな、あの岩壁に命を掛けて挑んでいったクライマーたちのメモリアルだ。
 あややもなっちゃんも、言葉少なく岩場を見つめていた。自分たちの歩いて来た稜線を目で追いながら、はたして何を思っていたのやら……。一ノ倉沢には、昨日の濃霧が嘘のようにクリアに晴れわたった秋の空が広がっていた。
 谷川岳はいろいろな意味で、本当に奥が深い山だ。

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登ったのはこの2人

左がなっちゃんで右があやや。ふたりとも、超がつくほどの健脚なり

あやや&なっちゃん  おとな女子登山部の創部当初から活動を続ける初期メンバーのおふたり。販売促進部に所属のあややとなっちゃんは、もちろん大の山好き、そしてともにすこぶる健脚。すらりと背の高いふたりの立ち姿や足裁きは、もはやプロフェッショナルの域に。撮影も手慣れたものです! 今回の山旅では、あややとなっちゃんに、それぞれ2日目と3日目のランチづくりを依頼。さて、どんな料理が登場するかな?

  • あやや’s レシピキノコと野菜たっぷりのクスクス

    あやや作「キノコと野菜たっぷりのクスクス」。
    やるな~おとな女子!

     キレイにパッキングされたお料理ボックスから現われたのは、なんとクスクス。世界最小のパスタともいわれるクとスクスは手早く調理できるので、たしかに山の料理に最適。炒めタマネギに生トマト、パプリカ、マイタケ、魚肉ソーセージなど具だくさん。オリーブオイルで炒めて、バターやカレー粉、粉チーズにパセリまで。そして決め手の、レーズン投入! オシャレなうえにオイシいし、お腹も満足♡

  • なっちゃん’s レシピキノコとシーチキンのホワイトスープ

    おたまでスープを掬えば、
    ほら、キノコがこぼれんばかり

     なっちゃんがつくってくれたのは、この季節にピッタリのあったかスープ。なんと、重~い牛乳を500ccも持ち歩いていたなんて! しかも、行程はすでに最終日(笑)。エノキにマッシュルーム、シメジと、こちらもキノコがたくさん。シーチキンも具に加えて、塩コショウ、バターとバジルで味を整え、グツグツと煮込むこと数分。このスープをパンに浸して食すという方式。こちらも、ステキなメニューでした。