おとな女子登山部 登山レポート 屋久島

屋久島

登ったところはこんな山

屋久島

 その面積の約20%が世界遺産地域に登録されている屋久島。九州の大隅半島から南へ約60㎞の海上にあり、黒潮の真っただ中に浮かぶため、集落が点在する海岸部はまるで常夏のような気候です。私たちが訪れたのは10月下旬でしたが、朝夕でもTシャツ1枚で心地よいことに驚かされました。

 しかしそんな南の島らしい暖かさと景観は、いわば屋久島の縁取りのみ。この島はほぼ全域が山地で、しかも海岸部から急激にそびえ上がった標高1000~1900mの山並みです。九州最高峰の宮之浦岳(1936m)や永田岳(1886m)など、この島の山頂付近の年間平均気温は札幌市よりも低い6度前後。つまり、この島では麓から山頂にかけて亜熱帯~亜寒帯の気候が分布していて、それによって多様な生態系や、類まれなる自然美が生み出されているのです。

 例えば植生に目を向ければ、海岸部ではガジュマルやマングローブなど奇怪な亜熱帯の植物に出会うし、標高700mまでは温暖な西日本の山に多い照葉樹林に覆われています。そこから標高1700mあたりまでは、ヤクスギやモミ、ヒメシャラなど、雲と霧が作り出す苔むした温帯雲霧林。そしてそれ以上の高度になると大木は姿を消し、角が丸く浸食された巨大な岩々の間を、ヤクザサが覆います。冬の風雪や台風に耐える灌木ばかりになり、「洋上アルプス」という例え通りの大展望が広がっていきます。

 さて、屋久島登山といえば、「何はともあれまず縄文杉へ」というイメージですが、今回私たちが選んだのは最終日にようやく縄文杉に出会う2泊3日のルート。淀川登山口から宮之浦岳(九州最高峰)、縄文杉をへて荒川登山口で下山します。

 この道順の利点は――
  1 荒川登山口から縄文杉を目指すハイカーの混雑に巻き込まれないこと。
  2 淀川登山口の標高が1360mあり、標高600mの荒川登山口から登るよりも楽。
  3 東京や名古屋、大阪から飛行機で屋久島に昼頃までに入れば、
    その日のうちに登山を開始して淀川小屋で泊まれるため、旅の日程の節約になります。

 このプラン、登山日程のうち最初の2日目が晴れそうな場合は、特におすすめです。
 

コースマップ

八ヶ岳コースマップ

参考コースタイム


【1日目】淀川登山口(50分)淀川小屋(1時間50分)花之江河(50分)石塚小屋
【2日目】石塚小屋(50分)花之江河(1時間5分)黒味岳(2時間55分)宮之浦岳(2時間40分)新高塚小屋
【3日目】新高塚小屋(1時間10分)縄文杉(1時間40分)大株歩道入り口(1時間10分)楠川別れ(1時間30分)荒川登山口

山行アドバイス

 「月のうち35日は雨」と言われる屋久島。私たちが訪れた10月下旬~11月にかけては雨の少ない季節なのですが、異常気象が頻発する昨今のせいか、凄まじい豪雨に見舞われた日も。必ず雨に遭う、しかも強い雨に、というつもりで、ウエアや足もとの備えを万全に。また、湿度が高めの屋久島なので、濡れた衣類を避難小屋で干しても乾きにくいです。もう一つ雨で注意したいのが、急な沢の増水。屋久島はいわば巨大な岩山で、山間部の表土は薄く、降った雨はあまり留まらずに山肌を流れていきます。そのため沢の水量の増減が激しい。また、大雨になると登山道自体も沢になることがあります。
 自然保護の観点から、山中での宿泊については原則的に避難小屋利用というのが屋久島ルール。しかしゴールデンウィークなどは小屋が満員になることもあり、そんなときは避難小屋周辺でテント泊ということに。万が一のためにツエルトなど軽量のテントを持参したいところです。また、登山道には携帯トイレブースが数ヶ所設置され、携帯トイレ持参で自分のし尿を持ち帰ることも一般化しています。

アクセス

【空路】 鹿児島空港から日本エアコミューターで屋久島空港まで35分。鹿児島空港へは羽田など大都市圏からの定期便多数あり。大阪国際(伊丹)空港からは日本エアコミューターで屋久島空港への直行便有(1日1便、1時間25分)。福岡空港からも日本エアコミューターで屋久島空港への直行便有(1日1便、1時間)。
【航路】 鹿児島本港南埠頭から屋久島宮之浦港へはフェリー(1日1便、4時間)と高速船(1日5便、1時間45分~2時間40分)で。鹿児島港から屋久島安房港へは高速船(1日2便、2時間30~50分)で。鹿児島本港南埠頭へは、鹿児島空港からリムジンバスで約55分。JR鹿児島中央駅からはタクシーで約15分か、桜島桟橋シャトルバス利用(高速船ターミナル下車)で約20分。

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屋久島登山レポート

DAY1

 屋久島登山1日目は、淀川登山口から花之江河を経て、石塚小屋を目指します。この避難小屋ですが、淀川登山口~宮之浦岳の縦走ルートから外れた森にあるため、往復約2時間の寄り道です。手前の淀川小屋に泊まってもよかったのですが、この日は天気が良く、少しでも前に進もうということに。結果的にこの選択は正解でした。

 というのも、淀川登山口からすぐに屋久島の森の魅力が全開で、それに目を奪われっぱなしの私たちはかなりスローな登山に。この辺りは霧や雲に覆われることが多いため、木も岩もコケやシダに覆われ、霊気ただよう緑の魔境といった雰囲気です。巨木の樹冠を通り抜けて幾筋もの光が降りそそぎ、それはまさにファンタジーの世界。なみへ~とくみんちゅはオリンパスのミラーレス1眼「PEN Lite」のシャッターを楽しそうに押していきます。森の精霊が隠れていそうな巨木の洞、スギゴケからピアスみたいにぶらさがる水の雫、幹のくぼみに巧く着地して小さな命をつなぐ若木の姿など、二人は〈私の屋久島〉を見つけることに夢中になっていました。

 そんなわけで花之江河に着いたのはコースタイムより約2時間遅れの午後1時半。やはり少しでも前進しておいてよかった~。明日ものんびりと屋久島の自然を楽しめそうです。

 花之江河から石塚小屋まで地図上のコースタイムは50分だし、トラバース気味の道だし、まあ楽に着くでしょう、と思っていたのですが、これがなかなかの難路でした。登山道は細く、一部では植物が茂って不明瞭。木の枝に付けられた赤テープを頼りにすることも。さすが湿潤な屋久島の雲霧林、人があまり訪れないルートは荒れてしまうようです。

 2日前の雨で登山道が沢になっていたり、急な崖では梯子を登ったり、渓谷をまたぐ丸太の一本橋(手すりはロープ1本)に悲鳴を上げたりの先に、石塚小屋が林のなかで佇んでいました。この世界に残っているのは私たちだけかも―――そんな気分にさせる辺境の避難小屋です。そのコンクリートブロックむき出しの外観に、初めて無人避難小屋に泊まるくみんちゅはちょっと驚き気味。でも、中に入って荷物を広げてご飯を作れば、そこは山の我が家になりました。
 

DAY2

 石塚小屋の朝。生まれたての太陽を浴びて赤く染まった森を私たちは歩き始めました。昨日は手こずった花之江河~石塚小屋の道のりですが、今日は、丸太一本橋を除いてすんなりと通過。「やっぱり、小屋に着けるか不安だったから、きついなと思ったのかな」とくみんちゅ。

 さて、花之江河からは巨樹の森が消え、見晴らしのいい尾根歩きに。森の霊気に惑わされないから、あっさりと進んでいくのかな、と思っていたら、今日は巨大な岩々が私たちを楽しませてくれることに。しかも屋久島らしからぬ快晴。昨日と同じくのんびりペースで、密林や湿原、岩場、笹原の尾根を、登ったり下ったりしていきます。

 クライミングにはまっているなみへ~はかなり上機嫌で、登りたくなる大岩がゴロゴロある稜線がすっかり気に入ったようです。一番盛り上がったのは黒味岳かな? 黒味岳の山頂そのものである巨岩で軽くボルダリングしながら、屋久島の岩の感触を確かめる私たち。そこは、ひしめき合う樹木に覆われた山並みや、モッチョム(本富)岳など個性的な姿の峰々を360°見渡せる山頂で、屋久島一のパノラマを従える贅沢なボルダリングになったのでした。

 とまあ、ゆっくりしすぎたせいか、九州最高峰の宮之浦岳を制覇したのが午後1時半。巨岩の連なりが超かっこいい永田岳や障子尾根に後ろ髪をひかれながら(往復2時間以上かあ……)、少し急ぎ足で新高塚小屋へ。

 到着したのは日没の約1時間前。小屋の前にある広いウッドデッキで夕食を作っていると、10匹ほどのヤクザルが現れ、目の前をのっしのっしと歩いていきました。次にヤクジカが1頭、小屋の水場近くに現れてのどを潤し、私たちのことを気にしないような感じで去っていきました。

 そして夜は満天の星空。「月に35日雨」の屋久島で、これは奇跡かも。天の川銀河ってこんなに明るかったんだ、という感動のおすそ分けは、くみんちゅが初めて挑んだ星空撮影の結果をご覧あれ。写真の超シロートがここまで撮れるなんて、今のデジカメってすごい性能ですね。
 

DAY3

 ついに雨。しかも時折強く降っています。しかし小屋を出て歩きはじめると、巨木の森が雨も風も弱めてくれるので、けっこう平気。また、気温が高めだったこともあり、私は蒸れるのが嫌でレインウエアを着なかったのですが、この日は夕方まで雨が止まず。さすがに荒川登山口で下山する頃には少し体が冷えてしまいました。油断大敵です。

 さて、ついにたどり着いた縄文杉ですが、私たちはなんだか拍子抜けした感じです。

「ここに来るまでに、すごい木をいっぱい見てきたからかな」となみへ~。

 そうなのです、「この木が本州とかの山域にあったら、人がたくさん見に来るよね、有名になるよね」と言いながら、私たちはたくさんの巨樹に出会ってきました。名もなく、山の雑誌にも誰かのインスタグラムにも載らないだろう巨樹たちに、感動をもらってきました。堂々たる幹に抱きついたり、「これが木なのか?」というぐらいコブだらけで異形になった姿に驚いたり。つる性の木が絡みコケや草が着床するなど、何種類もの植物が融合した巨樹に大自然の調和を感じたり、大自然の容赦ない生存競争を垣間見たり。

 始めて屋久島登山にチャレンジするなら、やはりまずは縄文杉へ、そしてそのあと宮之浦岳へと縦走していくのが間違いないのでしょう。縄文杉に出会ったときに正しく感動できますから。でも2度目の屋久島であれば、私たちの縦走プランはなかなかいい線。より深く屋久島の自然を発見して、「なるほど、世界遺産になっちゃうよね」と相づちを打てるような体験が待っていますよ!
 

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今回のメンバー

 くみんちゅは2度目の屋久島登山、なみへ~はなんと屋久島で3ヶ月間暮らしたことがあり、淀川登山口から宮之浦岳を日帰り往復したこともあるとか。なので今回の屋久島登山は、青春をふりかえる旅にもなったようです(2人ともまだ若いですが)。また、島名物の「首折れサバ」の刺身やトビウオ料理に舌鼓をうったり、鄙びた温泉に地元の人と一緒に入ったり、民宿のおじさんの話しを聞いて屋久島をもっと好きになったりと、「島旅」の魅力にも2人は癒された模様。「屋久島って何かの節目とか、人生に迷ったりしたら来ちゃう場所なんでしょうね」というなみへ~の言葉が印象に残りました。