おとな女子登山部 登山レポート 木曽駒ヶ岳

木曽駒ヶ岳

登ったところはこんな山

木曽駒ヶ岳

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─山肌が赤みを帯びて長々と連なったこの山脈は、確かに竜が天空にのたうっているような趣に見える
 竜とは駒(馬)のことであり、今回の登山口でもある伊那側からの眺めがその名の由来では……木曽駒ヶ岳の印象について、深田久弥は『日本百名山』でそう記しています。
 木曽駒ヶ岳(2956m)は中央アルプスの北端にほど近いところにそびえる同山脈の最高峰。1532年(天文元年)に駒ヶ岳神社(保食うけもち大神)が祀られ、以来、長く信仰の山として崇められてきました。1967年に駒ヶ岳ロープウェイが開設されると、東京、名古屋からの交通の便がよいこともあり、人気の登山エリアとなって、今にいたっています。
 木曽駒ヶ岳から空木うつぎ岳、越百こすも山へと続く中央アルプスの主稜線は、標高2500m以上の見通しのよい縦走路が南北に延びています。ロープウェイの起点となる標高2612mの千畳敷から稜線まではひと登り。そこから先は「天空の散歩道」とでもいうべき登山道が続いています。ただし、稜線上は北アルプスのように至れり尽くせりの山小屋が立ち並ぶ……というわけではありません。とくに、宝剣岳から南は営業小屋、避難小屋がぽつりぽつりと間隔をあけてあるくらい。なので、装備、食料はしっかり携帯して臨んでください。その分、静かな山旅が楽しめるでしょう。
 今回3人は、ロープウェイで入山し、木曽駒ヶ岳山頂下にある「頂上木曽小屋」、檜尾ひのきお岳の「檜尾避難小屋」に泊まり、檜尾尾根を下る2泊3日の旅を楽しみました。

コースマップ

木曽駒ヶ岳コースマップ

参考コースタイム


【1日目/歩行時間:約1時間50分】千畳敷(1時間)乗越浄土(50分)頂上木曽小屋
【2日目/歩行時間:約4時間45分】頂上木曽小屋(5分)木曽駒ヶ岳(50分)宝剣山荘(50分)千畳敷(30分)極楽平(1時間)濁沢大峰(1時間20分)檜尾岳(10分)檜尾避難小屋
【3日目/歩行時間:約4時間20分】檜尾避難小屋(2時間35分)赤沢ノ頭(1時間45分)桧尾橋バス停

山行アドバイス

紅葉のベストシーズンは、年によって異なるけれど、おおよそ9月下旬から10月初旬ごろ。避難小屋を利用する場合は、寝袋やマット、食料を持参。稜線上は水場が少ないので、注意して多めに携帯しましょう。今回の登山道はいずれも歩きやすく、マーキングも明快でした。中央アルプスでは、10月のなかばには初雪を迎えます。稜線上の営業小屋は、遅くても11月の初旬には閉まってしまうのでご注意を。

アクセス

【公共交通機関】
JR飯田線駒ヶ根駅、もしくは長距離バス「菅ノ台バスセンター」などから路線バス(中央アルプス観光、伊那バス)に乗って、駒ヶ岳ロープウェイしらび平駅へ。新宿高速バスターミナルから駒ヶ根バスターミナルへは約3時間30分、名鉄バスセンター(名古屋)からは約2時間30分。駒ヶ根駅からしらび平駅までは45分ほど。千畳敷へはロープウェイで7分30秒。詳細は駒ヶ岳ロープウェイwww.chuo-alps.com/ropeway/
【マイカー】
一般車は黒川平より先、しらび平方面は進入禁止。そのため、マイカーは手前の菅ノ台バスセンター付近に駐車することになります(駐車場は約1000台分)。菅ノ台バスセンターへは、中央自動車道・駒ヶ根ICより県道75号線を西に向かって3分ほど。付近の駐車場を利用し、路線バスに乗り換えましょう。なお、しらび平駅へはタクシーも利用できます。

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木曽駒ヶ岳の縦走レポート

DAY1

 ロープウェイを降りると、千畳敷のカールは黄金色の絨毯に包まれていました。その向こうには宝剣岳をはじめとする岩峰が姿を現し、背後には青空が。紅葉のベストシーズンには少し遅いようだけど、乾いた空気には移り変わる季節の濃密な香りが漂っています。
「きれいだね……」
 なっちゃん、スカーレット、あられの3人は溜息のような声を漏らします。乗越浄土まで続くつづれおりの急登を歩いてゆくと、視界はさらに開けていきました。
 あれが甲斐駒ヶ岳で、あっちは北岳。奥に富士山も見えるね。
 問わず語りに話すのはスカーレット。
「父と2年前にここを歩き、教えてもらったんです」
 そんな彼女を先頭に、頂上木曽小屋をめざします。予報がよかったこともあり、中岳は翌日にとっておき、巻き道を選びました。登山地図では破線になっているルートですが、登山道は整備されています。なにより3人の足取り、フォローし合う姿が頼もしい! イワヒバリの歌声を聴きながら、岩を乗り越え前に進んでいきます。
 頂上木曽小屋の戸を開けると、ふわりと暖かい空気に包まれました。
「今日は夕焼けがきれいだろうから、その時間に合わせて夕食は少し早めるね」
 小屋番さんは大切なことを教えてくれるかのように話してくれました。カレーライスを食べていると、ゆっくりと空が燃えはじめました。宇宙を思わせる蒼が広がり、やがて星たちが瞬く。生き物のように姿を変える大空を、3人はいつまでも眺めていました。


DAY2

 あれほどきれいな星空だったのに……翌朝、あたりはガスに包まれていました。視界の効かないなか、木曽駒ヶ岳の山頂へ。
「これなら昨日のうちに登ればよかったね」
 そんなことを漏らしながらも、強い風のなかをきゃーきゃー言いながら元気に歩いてゆきます。小屋で天候回復を待ちながら、地図を眺め続けるなっちゃんが言いました。
「この視界だから今日は巻き道を通るのは止そう。宝剣岳もパスしたほうがよさそうだね」
 小屋番さんに天気が変わらないことを確認すると、彼女はうなずき、照れ笑いしながらひと言。
「女性は地図読みが苦手って言いますよね。わたしも最初はそうだったんですけど、少しずつ慣れてきて、いまは地図から山を想像するのを楽しんでいます」
 その後も天気はぐずついたままでした。前日登った坂道を下り千畳敷へ、さらに登り返して極楽平へ。クサリ場続きの上級者コースである宝剣岳をエスケープしたのですが、その迷いのない判断に、彼女たちの山に向き合う姿勢を見る思いがします。
 極楽平からは適度なアップダウンの稜線歩きが続きます。濁沢大峰で休憩していると、あられが大きなおにぎりを取りだし、かぶりつきました。聞けば手作りのおにぎりで、山での定番だとか。
「山で食べるおにぎりが大好きなんです!」
 不意に霧が晴れ、紅葉に染められた伊奈川の渓が現れました。そして、溜息を漏らす間もなく、ふたたび深い霧の彼方へ。山の空気は生き物のようにその姿を変えていくようです。
 足場のつけられた岩場を越えると、こんもりとしたピークの檜尾岳。本当は空木岳をめざす予定でしたが、天候と時間を考慮して、断念。山頂から見える檜尾避難小屋に転進しました。
「残念だけど、天気のいいときにまた来ようね」


DAY3

 この日、3人は夜明け前から空を眺めていました。夜の間、小屋を揺らし続けた風は止み、月光に映し出された空木岳─。
 昨日の分までゆっくりと山を眺めてから小屋をあとにします。ときに登り返しがあるものの、檜尾尾根は長い下り道が続いています。山ではいつも思うことですが、あるところに踏みこむと、とたんに獣の気配、樹林帯の香り、落ち葉の匂いなどが飛びこむように感知されるのはなぜでしょう。そして、ふたりはスカーレットが教えてくれる草花の名前に耳を傾けていました。
 バイカオウレン、ミヤマアキノキリンソウ、カメノキ、カニコウモリ─。
 そうしてひとつずつ名前を覚えていくと、雑多な緑に見えた草花たちがたちまち個性をもち、輝きを増してゆきます。姿を見せるたび、忘れないよう何度も名前を口ずさむ。そうしていると、他の草花たちのことも気になるようになってきます。目についた草花を見つけては、なっちゃんはしゃがみこみ、ていねいに撮影を。名前を覚えた草花を見るのは、どこか級友に会うような嬉しさがともないます。山登りの楽しみが、またひとつ増えてゆく……。
 3人は旅の終わりを惜しむようにゆっくりと歩き、こまくさの湯をめざして下山しました。

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メンバー3人の感想

  • なっちゃん
    「登山歴4年でまだまだ経験は浅いんです」。そう話すけれど、メンバーの体調や状況に合わせてすばやく判断し、長い手足で優雅に歩くなっちゃん。装備の工夫をたずねると「できるだけ軽くしたいので、スイーツなどは我慢しています。でも、寒がりなので防寒着、コスメ……それとお酒は外せません(笑)」

    「いままであちこちの山から見え隠れしていた中央アルプスが、東京からこんなに近いんだ〜と思いました。真っ白な稜線でしたが、岩あり、樹林帯ありで楽しめました。いちばん印象に残ったのは、月明かりに照らされた、幻想的な空木岳のシルエットです」
  • スカーレット
    幼いころから登山好きの両親に連れられ、山に親しんでいたというスカーレット。植物や昆虫にも詳しく、ときおりこぼれる言葉は「生き物たちの秘密を知る宝の地図」のようでした。山を好きな理由をたずねると「生き物や空など好きなものに近づける場所、好奇心を刺激してくれる愛読書のような存在です」

    「2年前に同じコースを父と歩いているのですが、そのときのことを思い出しました。天気は残念だったですが、2日目の避難小屋ではみんなでごはんをつくるなどして楽しかったです。木曽駒を歩きながら、もっと生き物のこと、山のことを知りたいと思いました」
  • あられ
    登山を始めたばかりだというけれど、「山と自分の距離」を楽しんでいる姿が印象的だったあられ。山はおいしくおにぎりを食べる大切な場所だそう。おにぎりへのこだわりを訪ねると「まずは大きく握ること。そして、シンプルな塩むすびと具入りの2種を用意し、海苔はそのまま持参し、あとで巻くことです」

    「空木岳までいけなかったのが残念でした。それでもふたりの歩き方、装備、地図の見方などとても勉強になりました。やっぱり話を聞くだけなのと体験するのとでは違いますね。次はもう少し装備を考えて、空木岳に挑戦したいと思います!」