おとな女子登山部 登山レポート 伯耆大山

伯耆大山

登ったところはこんな山

伯耆大山

 山陰および中国地方の最高峰が大山(1729m)です。大山と書いて「だいせん」と呼びます。大山はまた、西面から見上げると端正な山容をなしていることから、鳥取県では「伯耆富士」、島根では、「出雲富士」とも呼ばれています。

 しかし、北面と南面から見る大山は、旧期の火山活動によってできた荒々しい岩壁をなし、豊富な雪と氷をまとったルンゼや支尾根、そして、覆い被さるような主稜線の雪庇は、まるでアルプスかヒマラヤを彷彿とさせるといってもよいでしょう。最高地点は剣ヶ峰(1729m)ですが、弥山(1709m)から剣ヶ峰、そして天狗ヶ峰、象ヶ鼻(1550m)と、東方へと続く主稜線は、平成12年に発生した鳥取県西部地震の影響もあって、崩壊、崩落が激しく縦走することはできません。現在は、三角点のある弥山が大山の頂上となり、百名山でもあることから年間を通して多くの登山客を迎えています。

 海岸線からわずか十数キロにそびえる大山山頂からの展望は、まさに絶景ともいえ、米子から境港へとつづく美しい弓ケ浜から、遠く隠岐島まで望むことができます。それだけに大陸からの偏西風の影響を受けやすく、冬季には大山にぶつかった西風が中国地方の山間部に大量の降雪をもたらします。初雪は例年11月、そして、雪解けが5月ですので、1年の半分以上が積雪におおわれています。そんな気象条件が、大山特有の自然環境をつくりだし、地理的な条件ともあいまって貴重な高山植物はもとより独特の植生を育んでいます。国の特別天然記念物であるダイセンキャラボクをはじめ、ダイセンクワガタ、ダイセンキスミレなど、大山の名が付けられた植物も多く、大山一帯は、生態系保護地域にも指定されています。

コースマップ

谷川連峰縦走コースマップ

参考コースタイム

【歩行時間計6時間50分】
大山寺橋駐車場/夏山登山口(2時間)六合目避難小屋(1時間40分)弥山(1時間)六合目避難小屋(1時間)元谷避難小屋(40分)大神山神社奥宮(30分)大山寺橋駐車場

山行アドバイス

 大山は冬でも多くの登山客を迎えているため、降雪直後でもないかぎり、トレースが消えることはほとんどありません。しかし、思わぬ豪雪により、ラッセルを強いられることもあるので、ワカンの用意があるといいでしょう。必要がなければ、宿にでも置いていけばOK。登山口から頂上へは1日で往復できますが、晴れの予報が出ていても、午後になると山頂付近はガスが湧き、視界がほとんど利かないということがよくあります。とくに六合目から上部の稜線では、北壁側の雪庇の踏み抜きや転滑落に注意したいところです。また、岩室から先、弥山への平坦な登りは視界が悪いとルートを見失いやすいので、しっかりとフラッグを追って登っていきましょう。アイゼンとピッケルは必携、とくに六合目から先は、西からの強風が強いときもあるので、ところどころ氷化した雪面など十分な注意が必要です。

アクセス

【マイカー】  中国自動車道 中国吹田ICより津山方面へ。中国道落合JCT経由、米子道を蒜山・米子方面へ。米子道米子IC下車、県道24号線を大山方面へ。約12kmで大山寺へ。大阪から大山への所要時間はおよそ3時間15分。

【公共交通機関】  米子駅から路線バス(日本交通バス/大山方面行き)で約50分。またはタクシー、レンタカーだと30分。冬季のバスは本数が少ないので、時刻表をかならずチェックしよう。バスの終点でもある登山口の大山寺の土産物店や売店などは、冬になるとほとんどが休業してしまうので、行動食や飲料などの購入は、米子市内で済ませておこう。下山後は、日帰り入浴施設があるので、凍えた体を温泉であたためていくといいだろう。

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伯耆大山の山行レポート

DAY1 各々、登山口に集合!!

 好日登山学校の校長先生を務める加藤智二ガイドは、ほんの数日前に大山で講習会を終えたばかり。そのまま残って今回の取材に合流してくれました。そして、おとな女子登山部からは、冬山取材3年連続となるなっちゃんと、今回が取材デビューというまめ子が参加です。ふたりは、いずれも大山は初めてとのことで、東京から飛行機で米子空港へ、そして米子駅から路線バスを乗り継ぎ、夕方に全員が集合場所のお宿で顔をそろえました。
 しかし、外はしんしんと雪が降っています。予定としては、明日、早朝に宿を出発し、冬山の基本技術などを撮影しながら山頂をめざします。雪が多少降っていて登山ができたとしても、取材となるとそうはいきません。最初から最後まで、山頂も見えない、展望もきかないまま、ずーっと、真っ白な写真ばかりだったら、はるばると大山に来た意味がありません。なんとか明日の天候を祈りつつ、初日は移動の疲れもあるので早めの就寝となりました。

DAY2 大山寺~元谷避難小屋→撤退!!

 予定の時刻に各自身じたくを整え、いつでも出発できる準備をして、朝食をとります。しかし、外はちらちらと雪が舞っています。昨晩は思った以上に降雪があり、20cmぐらいは積もっているようです。大山寺橋まで出てみて、空を見上げても大山は雲の中、裾野すら見えません。仕方ないので今日は、登頂をあきらめ、大山寺から大神山神社奥宮を経て、元谷避難小屋周辺で、冬山基本技術の撮影のみを行なうことにしました。
 しんしんと降る雪はしだいに激しさを増し、大神山神社奥宮へと続く階段はすっかり雪に埋もれ、権現造の重厚な本社のたたずまいが、見るものを圧倒します。ひとまずここでバックパックをおろし、3人はこれからの安全登山を祈ります。登山と信仰は、いまも私たちの体のなかに自然と息づいているのです。登山道にある祠やお地蔵さん、またはご神木やご来光といった山のカミを自然と敬い祈る姿は、日本の山登りを象徴し、とても美しいものです。
 さて、元谷避難小屋までのルートは多少のラッセルもあり、冬山の基本技術を学ぶにはとてもいいウォーミングアップです。本当ならば大堰堤からは迫力のある大山北壁が見えるはずなのですが、今日は残念ながら何も見えません。元谷避難小屋は石造りのとてもきれいな小屋で、北壁のバリエーションルートへのベースとして冬期は使われているようで、いくつかのデポもありました。
 ここでレイヤードの撮影や、アイゼンの履き方、ピッケルの持ち方など、基本技術の撮影をひととおり済ませて今日は下山することに。宿に戻り、おいしい夕食をいただき英気を養い、明日の天候を祈ります。加藤ガイドの予測では、天気は回復傾向にあるようです。残された日はあと1日、明日こそ、なんとか晴れて欲しいところです。

DAY3 夏山登山道~弥山登頂

 祈るような気持ちで、いそいそと早く起きてみると、雪はほとんど止んでいます。白々と明けてきた空は、昨日までのどんよりとした空とは違います。薄い雲は高く、明るい陽光が山の端から射し込んできます。はやる気持ちを抑えながらすばやく準備を整え、登山口の大山寺橋へ向かうと大山の稜線が見えています。午後になると雲が出てくる可能性もあるので、できるだけがんばって、雲がないうちに森林限界を抜け、稜線に出なくてはなりません。いつもよりちょっと足早に樹林帯を登り、高度を稼ぎます。北面のルートは日が射し込むのが遅く、ようやく1000mを過ぎたあたりで、太陽が稜線から顔をのぞかせます。
 昨晩からの雪で木々には一面の霧氷が着いています。それが朝日に照らされると、どんな言葉でも表現できない、想像を超えた美しい森がそこに現出するのです。なっちゃんもまめ子も、そのあまりの美しさに、ただただうっとりと立ち尽くし、夢中になって写真を撮っています。空を見上げるとガラス細工のような霧氷を通して、金色の光が、銀色のブナの森に降り注いできます。
 そんな樹林帯の美しさに圧倒されて登っていると、六合目の避難小屋に飛び出します。ここから先はアイゼンをつけ、稜線を頂上めざして登っていきます。左手には昨日見えなかった、大山の北壁が荒々しく迫り、三鈷峰のピラミダルな山容が背後に屹立しています。風もなく、雲ひとつない、まさに絶好の天気です。何度も冬の大山に登っているカメラマンの梶山さんも、こんな天気に恵まれたことはこれまでにも記憶がないといいます。
 先行パーティもほとんどいないので、自らの足でトレースをつけながら、頂上の弥山をめざします。振り返ると眼下には、弓ヶ浜の美しいカーブが、グーグルアースを見ているかのようにはっきりと見てとれます。白銀に輝く尾根が日本海にそのまま落ちているかのような錯覚を覚えるほど、海が近くに感じるのです。頂上まではあと少し、なっちゃんもまめ子も興奮して、我先にとピークをめざします。
 登りはじめて4時間あまり、ようやく3人は念願の大山の頂上に立ちました。頂上から東方を覗きこむと、剣ヶ峰までの細い主稜線がアップダウンを繰り返しながら続いています。大山の南壁は、幾筋ものヒマラヤひだを形成し、雪のドレープにおおわれています。どのくらい時間がたったのでしょうか、頂上でそんな光景に見とれていると、下からみるみるうちに雲が湧いてきました。さっきまでの光景は瞬く間にガスの中。まるで白日夢を見ているかのようです。
 私たちは本当に特別な時間を過ごすことができたんだと、だれしもが、山のカミに祈らずにはいられませんでした。

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今回のメンバー

左からなっちゃん、まめ子、加藤智二ガイド

 今回のメンバーは、おとな女子登山部の宣伝部長!? なっちゃんと、今回が小誌の取材デビューという、お笑い担当のまめ子、そして、おなじみ好日登山学校校長の加藤智二ガイドの3人。ちょうど取材が2月ということもあり、なっちゃんは、ひそかにバックパックに節分用の大豆をしのばせ、大山の頂上でまめ子と豆まき。さらにふたりのバックパックからは、バレンタインデーということで、手づくりのチョコやお菓子が取材スタッフにも配られました。いやあー、なんだかとっても心があたたかくなりました。