おとな女子登山部 登山レポート 森吉山

森吉山

登ったところはこんな山

森吉山

 森吉山は、秋田県北秋田市に位置する山。夏は花の百名山として、冬は樹氷の山として知られています。向岳(1454m)を中心に、その周りを一ノ腰、石森、ヒバクラ岳、ガンバ森などの外輪山が囲む独立峰。山腹をアオモリトドマツやコメツガ、ブナの原生林が覆い、日本に分布するキツツキとしては最大のクマゲラも生息する自然豊かな山です。

 山頂は、東北の山の展望台。取材日がまさにそうであったように、晴れていれば八幡平、岩手山、早池峰山、秋田駒ケ岳、和賀山塊、栗駒山、鳥海山、白神山地、岩木山、八甲田山とぐるりと見渡せます。

 山麓の根子集落は、阿仁マタギ発祥の地。国の重要無形文化財に指定された「根子番楽」など、古の生活風習を色濃く残しています。登山の前後に訪れてみるのもおもしろいでしょう。
 

コースマップ

森吉山コースマップ

参考コースタイム


阿仁ゴンドラ山頂駅(30分)石森(70分)向岳(30分)石森(20分)阿仁ゴンドラ山頂駅

山行アドバイス

 阿仁ゴンドラ山頂駅から石森の間に一部雪庇が発達している区間があるほか、向岳山頂にかけては、視界があれば難しい場所や危険な場所はほとんどありません。しかし、視界が悪くなると話は別。広くゆるやかな地形のため、道迷いのリスクが一気に高まります。実際、昨年も3件の遭難事故がありました。天気やルートファインディングに不安がある場合は、くれぐれも慎重に行動しましょう。1月上旬から3月初旬(2017年は1月7日〜3月5日)にかけて、阿仁ゴンドラ山頂駅のビジターセンターには案内人が常駐し、山頂駅から徒歩5分の樹氷平には1周約30分の樹氷鑑賞コースが設けられます。山麓駅舎内のレンタルコーナーにはスノーシューも用意されています。

アクセス

【公共交通機関】 秋田内陸縦貫鉄道阿仁合駅からタクシー(約20分)
【マイカー】 秋田自動車道五城目I.C.から国道285号線、県道214号福館阿仁前田線経由(平常時約1時間20分)

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森吉山登山レポート

DAY1

 モンスターに会いに森吉山へ。メンバーは、好日山荘登山学校で校長を務める加藤智二ガイドと、おとな女子登山部のなっちゃん、そしてニコ。新入部員のニコは今回が初めての取材同行だそうで、さぞ緊張しているかと思いきや、初対面からリラックスしたいい笑顔。ニックネームの由来は聞くまでもありませんでした。

 加藤ガイドを除く全員は1日早く現地入り。角館の駅で待ち合わせると、角館と鷹ノ巣を結ぶ秋田内陸縦貫鉄道に乗り換えて、森吉登山の玄関口である阿仁合に向かいます。秋田内陸線は一両編成のかわいらしい電車。秋田新幹線のスマートで都会的な雰囲気から、がらりとローカルになって、旅の気分を盛り上げてくれました。

「今年はいつもの半分くらいかなぁ、@♪□☆:;*^〜^!+%&$#」

 道の左右にできた雪の壁を見ながら、例年と比べて雪の量はどのくらいですかと尋ねてみましたが、迎えに来てくれた宿のおじさんの言葉は、残念ながら半分くらいしかわかりません。その後、スキー場や山で出会った地元の人の話を総合すると、今年は1月にたくさん降ったものの、2月は温かい日も多く、溶けるのも早かったということのようです。2月末のいまは例年よりも少ないそうですが、それでも雪はたっぷりありました。天気も良くて、早く山に行きたくてうずうずします。宿で荷物を解くと、てきぱきと準備をしてスキー場へ。

「うわぁ、やばーい」と歓声を上げたのはニコ。ゴンドラの窓から見えたのは、白と青の見事なコントラスト。雲ひとつない青空を背景に、モンスターが並ぶ緩やかな斜面が広がっていました。

 山頂駅を降りると、情報収集のために駅直結のビジターセンターに立ち寄ります。この日は下見で、整備された(登山届がいらない)樹氷平を歩くつもりでいました。しかし、ビジターセンターのガイドさん曰く「この冬いちばんのいい天気だから、石森まで行ってらっしゃい。すぐだから」

 もう14時を回っているので躊躇しましたが、郷に入っては郷に従え、ローカルガイドの勧めに乗らない手はありません。その場で登山届を書いて境界のロープをくぐりました……なんて書くと大変な場所に行ったようですが、快晴の今日はしっかりと踏み跡が付いていて、よほどのことがなければ迷う心配はありません。せっかくスノーシューを履いているので所々でトレースを外れながら石森を目指しました。

 モンスターの正体はアオモリトドマツです。シベリアからの寒気が日本海上に立ち上る水蒸気をじっくりと冷やします。冷たい湿気を含んだこの空気を北西の季節風が運び、それが森吉山のアオモリトドマツにぶつかると一気に凍りつきます。氷は風上側へと成長し、やがて木全体を覆います。こうして生まれたのがモンスター。霧氷やエビのシッポも同じ原理で、いわばそれの親分みたいなものです。

 モンスターは、雪山ならどこでもという訳ではなく、地形や標高、植生や気候などの条件が揃わなければ見られません。森吉山は、八甲田、蔵王と並ぶ日本三大樹氷の山を謳っています。「三大」の根拠はわかりませんでしたが、実際にその姿を眼の前にすると確かに圧巻。一本一本形が違う雪の塊は、まさに怪物です。ゴジラがいるかと思えばその隣には犬もいて、見ていて飽きません。なっちゃんとニコは楽しそうに歩きながら写真を撮りまくっています。

 石森から見た森吉山も、思わず声を上げてしまう素晴らしい景色です。森吉山(向岳)は、いま私たちが立っている石森や一ノ腰などの外輪山に囲まれた独立峰。ゴンドラの山頂駅から見ると外輪山が目隠ししてしまいますが、外輪山の上に立つと、おわんをふせたような緩やかな山頂部が一望できます。あぁ、早くあそこを歩きたい。
 

DAY2

 6時起床。カーテンを開けると今日もいい天気です。しかしこの先の予報は下り坂。当初は明日、3日目に森吉山に登るつもりでしたが、加藤ガイドは午後イチの電車で合流します。昨晩電話で話し合い、条件が良ければ今日の午後に登りましょうという結論に達しました。スキー場のゴンドラを利用すれば、午後スタートでも山頂往復は十分可能です。

 阿仁合の駅に加藤さんを迎えに行き、その足でスキー場に向かいます。曇っていますが風はなし。まずまずのコンディションです。この天気なら大丈夫でしょうと、用意していた登山届を提出してスノーシューを履きました。ただいま12時50分。下りのゴンドラは15時30分が最終なので、場合によっては途中で引き返すつもりです。少し早足で歩き始めました。

 曇り空とはいえ視界はクリアで、遠くの山までくっきり見えます。右手前方にひときわ白く輝くのは秋田駒ケ岳。右手に振り返れば鳥海山、左手に小さく見えるのは白神山地や岩木山です。山頂には目印のようにぽっこりと丸い出っ張りがありました。あれもモンスター?

 屋根まで埋まった阿仁避難小屋で地元のガイドと出会いました。

「みなさん若いし、30分もあれば山頂まで行かれますよ」

 昨日の晴天で多くの人が登ったのでしょう。山頂まで、高速道路のように踏み跡が続いていました。快調に歩いて、本当に30分で山頂に到着。丸い出っ張りの正体は、なんと山頂標でした。まずはみんなで記念撮影。

 山頂からは360度、見事な展望が広がっていました。すぐそこに八幡平のたおやかな稜線と岩手山が見えます。設置してある同定標によれば、その向こうに見えるのは早池峰山。左手に目を向ければ、おぉ、あれは八甲田山。

「着いたその日に山頂まで登るなんて本当ならありえないけど、来てよかった」と、笑いながら加藤ガイド。メンバーを信頼してくれたのだと、ちょっとうれしくなりました。

 山頂でも風はなく、行動食とサーモスの温かいお湯を飲みながらのんびりしました。森吉山は全員はじめての山でしたが、最高のタイミングだったようです。一息つくと、揃ってバックパックを背負い直しました。そろそろゴンドラの時間が気になります。とはいえ、下りはあっというま。スノーシューらしく、ふかふかの雪の上を走ったりしながら、転がるように下山しました。

 樹氷平に着くと、昨日よりもモンスターが小さくなっているのに気付きました。二日続きの好天で樹氷が溶けたのです。葉が見えているところもありました。こうして山は、少しずつ春に近づいていくのでしょう。
 

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今回のメンバー

 今回のメンバーは、好日山荘登山学校校長でもある加藤智二ガイドと、おとな女子登山部のなっちゃん、ニコの3名。3人とも森吉山は初めてでした。天気に恵まれた取材だったので、山行中はなごやかなムード。加藤ガイドは森吉山がすっかり気に入った様子で、来年はツアーも企画するようです。毎年スノーシューを楽しんでいるなっちゃんは、手慣れた様子で楽しんでいました。新入部員のニコは山形出身。高校時代はアルパイン部に所属していたそうで、急登もなんなく登るツワモノでした。将来有望です。