おとな女子登山部 登山レポート 唐松五竜

唐松五竜

登ったところはこんな山

後立山 / 唐松岳~五竜岳

 北アルプスの後立山連峰は荒々しき岩稜が続く広大なる山塊で、主峰の鹿島槍ヶ岳を中心に南北にいくつもの名座がそびえ立つ。爺ヶ岳も白馬三山はもとより、今回歩いた五竜岳(2814m)や唐松岳(2696m)も名を連ねている。鹿島槍と五竜のあいだに切れ込む八峰キレットや唐松岳と白馬鑓の稜線を分かつ不帰キレットなど、北アルプスのなかでも指折りの難所を抱える山域だ。そんな緊張を強いられるこのエリアにも、比較的に楽にアプローチできるポイントがある。それが、唐松岳から五竜岳を結ぶこの稜線。なぜなら、行きも帰りもスキー場に併設されたゴンドラリフトを利用することができるから。八方尾根を起点に唐松から五竜の稜線をぐるりとたどり、遠見尾根を下りるこのルートは、北アルプスの景観を満喫できるオイシイところどりの1泊2日の行程に。しかも、とびきりいい紅葉が楽しめるという情報も。さて、どんな山行になったのやら。
 

コースマップ

参考コースタイム


1日目 歩行計/3時間55分
八方池山荘(1時間)第2ケルン(15分)八方ケルン(10分)八方池(1時間)丸山ケルン(1時間30分)唐松岳頂上山荘
 
2日目 歩行計/6時間55分
唐松岳頂上山荘(20分)唐松岳山頂(15分)唐松岳頂上山荘(30分)牛首(2時間)五竜山荘(1時間)西遠見山(1時間)大遠見山(50分)小遠見(1時間)地蔵ノ頭

山行アドバイス

 ゴンドラに乗った麓からの標高差は1000m程度でしたが、気温の変化が非常に激しく、秋と冬の両方を感じた山行となりました。初日は霧のなかの行動で雨氷に出会い、翌日の早朝は大きな霜柱が立ち、天気予報も雪マークが出たほどです。秋の登山であっても防寒対策として冬を意識した装備、手袋、ネックウォーマー、ニットキャップ、フリースやインナーダウン、あたたかいベースレイヤーなどの準備を心掛けるようにしたいものです。

アクセス

 本格的な雪が付くまでの秋のシーズン中は、八方尾根へのアプローチと遠見尾根からの下山にはゴンドラとリフトを乗り継いでの山行が可能です。往路は白馬八方尾根スキー場の八方アルペンラインを、帰路は白馬五竜スキー場のアルプス展望リフトとテレキャビンを利用します。ただし、この秋のシーズンの営業はすでに10月29日にて終了しています。
【ゴンドラリフト】
八方(八方アルペンライン)http://www.happo-one.jp/trekking/alpenline
五竜(アルプス展望リフト、テレキャビン)http://www.hakubaescal.com/shokubutsuen/gondola/
【起点までのアクセス】
公共交通機関の場合は、北陸新幹線長野駅下車~特急バス「長野-白馬線」~白馬八方尾根スキー場/特急あずさ松本駅下車~JR大糸線白馬駅~路線バス「猿倉線」~白馬八方尾根スキー場
※マイカーの場合は、長野自動車道安曇野IC~北アルプスパノラマロード~国道148号線~白馬八方尾根スキー場/上信越自動車道長野IC~国道19号線~白馬長野オリンピック道路~白馬八方尾根スキー場

TOPへ

唐松五竜 登山レポート

DAY1
  • リフトを降りていよいよ山行のスタート。ニコの真っ赤な秋山コーデが山によく似合っています!

  • 歩き始めると、山肌のあちらこちらに秋色が。八方池山荘から丸山ケルンを目指してポクポクと歩みます

  • 薄い雨氷をまとった木の枝を思わずくわえてしまったるんちゃんです。おいしかった?

  • 足元の草紅葉にも雨氷が冬の芸術をつくりあげていました

  • ついに後立山の主稜線に到着。道標に氷の塊がびっしりと張り付いていました。これ、エビの尻尾に成長するんでしょうね

 唐松岳や五竜岳がある長野県の白馬村は、登山やスキーで人気のエリア。長野オリンピックの際の長野新幹線の開通や高速道路や幹線道路の整備もあって、公共交通機関でもマイカーでもアクセスしやすい場所となっています。というわけで、スキー場のゴンドラとリフトを使って、標高差1050mを一気に稼いで登山道にアプローチできるということもあり、今回はのんびりとしたスタートとなりました。

 さて今回のメンバーは、るんちゃん、ニコの仲よしコンビ。さっそく八方アルペンラインのチケットを購入し、ゴンドラに乗り込んで出発! ゴンドラ→リフト→リフトと乗り継いで、あっという間に登山道の入口の八方池山荘まで到着。と、ここまではよかったのですが、空はどんどん霧に包まれて、まわりは真っ白。しかも、寒い。ふたりとも「こんなはずじゃ……」と、ちょっとテンション低めです。とはいえ、まだ旅は始まったばかり。さっそくウェアを整えて、いざ出発です。

 よく整備された登山道を歩き出すと、まわりの景色は緑に混じって朱、橙、黄色と紅葉した表情豊かな山の景色が広がっていきます。しかし、霧の白さで全貌がわかりません。しばらく歩いた第2ケルンの手前で、雲のなかからぽっかりと青空が見えて、山肌を黄金の光が流れる瞬間がありました。すると「うわー、やったね!」と取材チームもテンションが急上昇に。八方ケルンまでたどり着くと、ついに青空と白馬三山(白馬鑓ヶ岳、杓子岳、白馬岳)がお出迎え! のはずが、やはりまだ雲が山の上の方にへばりついています。気を取り直して、八方池に向かいました。

 八方池があるのは、標高2060m。雪解け水や雨水によってできた天然池で、水深は深いところで4.4mもあるといいます。神秘的な池と白馬の山々とのベストマッチな景色に魅了されて訪れたたくさんの登山者で、池の周辺は大変賑わっておりました。徐々に見え始めた山肌の紅葉は、すばらしいのですが、なかなか頂上まで雲が抜けてくれません。景色を堪能しつつも、ちょっとモヤモヤした気持ちのまま時間が過ぎていきます。が、遅めにスタートしたゆえに先を急ぎましょう。

 八方池から先は、この先を目指す登山者しかおらず静かな時間が待っていました。岩場を抜けるとダケカンバの森に。白い幹と橙色の葉に染まった景色を眺めながら標高を上げていくと、まわりの景色が秋から冬へと移り変わっていきます。植物が黄金色に変化していき、今度は真っ赤な葉と真っ白な綿毛姿に変わったチングルマに遭遇。そして、丸山ケルンまで標高を上げると、景色は一変、白とグレーの冬の世界に入り込んでしまいました。ハイマツから頭を出しつつも、枝しか残っていない木々は「雨氷」になってお出迎え。キラキラと輝く氷の衣装をまとった木々たちに、るんちゃんの目がキラキラしています。そして、おもわず「パクっ」と枝ごと氷の塊をくわえているではないですか! さすが、るんちゃん、お腹が減ったのでしょうか? このキラキラとして景色にテンションが上がった取材チーム。寒さと疲れも吹っ飛んで、各々で撮影タイムとなりました。ハイマツ好きのるんちゃんは、雨氷の植物をカメラで撮影していると自らの髪も凍っていることに気づき、ニコと顔をみあわせていました。

 「寒い寒い」と呪文のように唱えながら、唐松頂上山荘にたどり着くと、なんと道標にエビの尻尾らしきものが、できているではありませんか! 先ほどまでの華やかな紅葉はどこへやら。山荘の入口にもツララができていて、ビックリするぐらいに寒い! 今日一日の変化に富んだ山の景色は、最後は極寒の冬の入り口にたどり着いたということで、山小屋の前で記念撮影をしてから早々に、あたたかい山荘に逃げ込むように入ったのでした。

 唐松頂上山荘は、広く、きれいで快適な山荘でした。夕飯はハンバーグカレー&コーンスープ! しかも、おかわり自由という、すばらしいサービス。るんちゃん、ニコの笑顔が止まりません。疲れて冷えた体に、あたたかいカレーは活力を与えてくれました。るんちゃんとニコは、もちろん満面の笑み。ふたりとも「おかわりをしまーす」としゃもじを握っています。ニコは、カレーを3杯たべても、まだ物足りなさそうな顔をしておりました(笑)。

 食後に、支配人の中川さんのお話会がありました。北アルプス北部地区山岳遭難救助隊として活動している経験と長年過ごしてきた白馬の気候のこと、山岳遭難救助の実際など。実体験を例として登山の際の持ち物や服装、水分補給や栄養補給のコツなど、堅苦しくなく、楽しくお話してくれました。

 この日は、ちょうど中秋の名月。外に出てみると、夕方の雲はスッカリぬけて満月が雲海の上に顔を出しています。ニコがお月見だんごを持ってきてくれたので、取材チームみんなでいただき、明日の快晴を祈って就寝したのでした。
 

左)唐松岳頂上山荘のおかわり自由の夜ご飯。大満足のおふたりです。右)取材日はちょうど中秋の名月。雲海の上に秋の夜の絶景が待っていてくれました!

DAY2

ご来光を期待して夜明け前に登った唐松岳。でも、太陽は現れなかった! 残念。でもテンションはアゲアゲです

  • まだ明けきらぬ夜を唐松岳の山頂で。すぐそこにわれらが宿、唐松岳頂上山荘のあかりがあたたかく灯っています

  • こちらがこの日に歩いた唐松岳から五竜岳への稜線。牛首の難所を越えて、五竜山荘を目指します

  • 深い沢筋には春の雪が残っていました。あっという間に次の雪に覆われてしまうんだろうな

  • 稜線の上には秋色のいわし雲。こんな景色を楽しめるのも、この季節ならではのこと

  • 遠見尾根に突然現れた池。ここは秘密の紅葉ポイント。湖面に映し出された岩稜と色づいた木々のコントラストがとってもステキでした

 朝3時30分、起床。外に出ると満月が落ち始めたおかげで、満天の星が輝いていました。毎日コロコロと変わっていた天気予報は、午前中の快晴とは裏腹に夕方からは下り坂となっています。

 放射冷却で寒い朝、防寒着を着込んでヘッドライトを装着、空身でご来光を見るために唐松岳の山頂を目指します。るんちゃんとニコは慣れたもので、こんな朝でもサクサクと登山道を駆け上がっていきます。まだ暗い山頂に到着してほどなく空の色が濃紺から濃いピンク色に変わっていきました。眼下には、不帰キレットが、朝焼けに照らされて浮かび上がり、背後では剱岳モルゲンロートが見える絶景ポイントです。残念ながら厚い雲でご来光は拝めませんでしたが、雲の隙間からキラリと光が出ると思わず「キレイだなー」と、るんちゃんが呟きました。

 山荘に戻り身支度を整えて外に出ると、すばらしい快晴です。今日の稜線歩きは最初からクサリ場で気合が入ります。その名も「牛首」。ヘルメットを装着して、いざ出発。クライミングにハマっているニコは楽しくてしょうがないようで、満面の笑みでクサリ場をドンドン攻めて行きます。るんちゃんも、慣れた様子でサクサクと岩場もクサリ場も越えて行きます。相変わらず風は冷たいのですが、今日はなんといっても視界良好! 昨日歩いてきた八方尾根とこれから歩く遠見尾根がよく見えます。どちらも紅葉に染まった尾根がとてもうつくしい。まさに、この景色に会いにきたのだと噛み締めながら、目の前のガラガラとした稜線を五竜山荘に向かって歩きます。目の前に、凛とそびえる五竜岳ですが、なかなか近づいて来てくれません。目の前の長~い坂道を登りきったところで、五竜山荘に到着したのは、ちょうどお昼前でした。

 山荘の入り口に出ている天気予報も、明日は雪マーク。昨日から悩み続けていた宿泊か下山かは、山小屋のかたにも相談して「下山」することに決定しました。目前の五竜岳の山頂に行けないのは残念ですが、気持ちを切り替えて遠見尾根に向かいました。

 尾根の入口から岩場を下り、それが終わったあたりからまた紅葉が出迎えてくれました。そして、さらに進むと突然池があらわれ、その周りには木々やチングルマの葉が盛大に色づいていたのでした。「こんな景色みたことない!」るんちゃんもニコも大興奮! 後立山の山の神様から、すばらしいご褒美を頂いた瞬間でした。

 遠見尾根は、下山するほど紅葉が進んでいきます。大遠見から中遠見に抜ける途中ダケカンバの森では、白い幹と黄色の葉が混じる不思議な空間に出会いました。尾根づたいのアップダウンは地味に体力を奪われますが、上りは小高い場所に出た瞬間の見晴らしのいい景色、下りは紅葉のトンネルをくぐっていくさまに魅了され続けます。

「スゴイ! 赤いですね~」とテンションがあがったるんちゃんとニコは、無心にカメラのシャッターを切っています。小遠見を過ぎたあたりから始まった木道沿いは赤いトンネルのようになっていたのでした。帰りのゴンドラの時間を気にしながらの下山で、ペースアップしましたが噂どおりの健脚のふたりは、ちゃんと写真を撮ったり行動食を食べる余裕がまだまだあるようです。登山道の途中から、木道が始まるとさらに色とりどりの紅葉が近づいてきました。地蔵ノ頭をすぎ、森を抜けるとスキー場の上部に出ました。ススキが夕暮れの風になびいています。仲よしふたり組は、肩をならべながら昨日とは打って変わった快晴の秋空を眺めがら、最後の余韻を楽しんでいました。

 変化に富んだ、濃い内容のに2日間となった唐松五竜。残念ながら、五竜岳の山頂にいけなかったのは「また来いよ」と山の神様に言われているような気がしたのでした。
 

シャッター音が止まらなくなってしまったニコ。紅葉を前に笑顔も止まりません

TOPへ

今回のメンバー

左がニコ、右がるんちゃん。ふたりとも噂どおりの健脚で、食いしん坊

 おとな女子登山部のるんちゃんとニコ。小柄でふわっとした雰囲気のるんちゃんと、すらりと長身のニコ。この仲よしコンビはには共通点が多いことに気がつきました。山が好きで、健脚。そして、食いしん坊! 行動食のセレクトや量も独特でおもしろい。山を楽しむことをよく知ったおふたりに、秋から冬にかけてのこの時期に寒さ対策で使用しているアイテムを紹介していただきましたよ!

左)【るんちゃん’s アイテム】ビーニーにネックゲイター、ウールのアンダー。寒いところをベースからしっかりとあたためます。アンダーは長袖も持ってるよー
右)【ニコ’s アイテム】この季節であれば、ダウンジャケットは必携品。バーグハウスを愛用しています!