冬季バリエーションに初挑戦 赤岳主稜
- 投稿者
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るんちゃん(おとな女子登山部)
浦和パルコ店
- 日程
- 2022年02月08日 (火)~2022年02月09日 (水)
- メンバー
- 山仲間3名
- 天候
- 晴れ
- コースタイム
- 【1日目】赤岳山荘(120分)赤岳鉱泉
【2日目】赤岳鉱泉(60分)行者小屋(40分)チョックストーン(120分)中間岩場下(120分)上部岩場チムニー(120分)終了点(10分)天望荘(50分)行者小屋(60分)赤岳鉱泉(90分)赤岳山荘
- コース状況
- 【赤岳山荘】駐車料金1人1000円。
【赤岳鉱泉】テント代1人2000円。アイスキャンディー利用料1000円、9時~16時まで。
【赤岳主稜】計9Pを2パーティで登攀。50mシングルロープ、クイックドロー×2、60cmアルヌン×2、120cmアルヌン×3、240cmダイニーマスリング×1。
①文三郎道からコンテでチョックストーン下まで。
②CS上からを左バンドを進み残置支点まで。
③凹状岩場を残置青ロープの支点まで。
④雪稜手前のチムニーで支点構築。
⑤コンテで雪稜を中間岩場下の支点まで。
⑥階段状岩場。
⑦左壁に沿ってトラバース、残置ハーケン多数。その後狭いチムニー越え。
⑧緩傾斜のフェース。
⑨フェース直登してチムニー越え、チムニー手前にハーケン1個あり。もしくは左に回り込んで壁沿いにトラバース。
①~③、⑤~⑦はハンガーあり。それ以外は終了点含め岩角で支点構築。
①、⑤以外は全てスタカットで登攀。
⑥ピッチ目くらいまでは日が当たらないのでかなり寒かったです。
- 難易度
感想コメント
何度か登った厳冬期の赤岳。登頂後に頂上山荘で休憩していると、ロープを体に巻いて腰回りをガチャガチャさせながら歩いてくる団体に時々遭遇しました。天気の良い日も悪い日も、彼らは達成感に満ち満ちた顔でこちらに挨拶してきます。文三郎道でもなければ緊張のリッジがある地蔵道でもない、一体どこから登ってくるのか。
山岳小説『還るべき場所』にその答えはありました。バリエーションルート・赤岳西壁。登山道の無い岩場をどうやって登るのか、ロープや腰に付けた道具をどんな風に駆使するのか、当時は全く想像もつきませんでした。小説の主人公が遭遇した、とんでもない所から登ってきたクライマーへの憧れと羨望。私の目にも彼らはキラキラと映り、自分は決して踏み込むことのない世界だと思っていました。それがあれよあれよとクライマーの真似事をするようになり、いつの間にか今回の山行のメンバーの1人に。主稜はメジャーな入門ルートとはいえ、半人前の私に踏破できるだろうか。様々なトポや動画を見て、少しでも不安が払拭されるように準備して挑みました。
初日は昼前に赤岳山荘に集合して赤岳鉱泉まで。本来であれば夏に偵察した阿弥陀北稜をやる予定でしたが、前々日の降雪で下降時に雪崩やルート消失のリスクが生じた為断念。鉱泉でテントを設営したら、日暮れまでアイスキャンディーを楽しみました。
翌日、暗いうちに行者小屋へ向けて出発、小屋へ着く頃には阿弥陀と中岳の稜線がピンクに染まっていました。そこから文三郎道の急過ぎる尾根を四半刻ほど歩くと主稜への分岐に到着。まだ日の当たらない赤岳西壁は黒々と立ちはだかり、一気に緊張が高まるのを感じました。核心と言われるチョックストーンと左のお助けロープもはっきりと肉眼で確認。とうとうここまで来てしまった。もう引き返すことは出来ません。緊張し過ぎて八の字の末端が足りずにやり直し。グローブしたままの操作にまだ慣れていないせいもあり、先が思いやられました。
今回は先輩ベテランチームと若者ペーペーチームの2パーティ編成。といっても私のパートナーは優秀なホープなので、何かあったらオールリードを押し付けようと算段していました。先行は先輩チーム。チョックストーンまではロープを出さずに行くこともありますが、ここは念の為コンテで。いきなり核心といわれるチョックストーンをやる自信は無いので、1Pコンテは私がリード。雪稜トラバースはほぼ目一杯出して取り敢えず取付きまでやってきました。
いろんな動画を見ましたが、実際目の当たりにすると思った以上の高さ。心の準備をしていると、先輩チームはあっという間にCSの上へ。パートナーも気が付いたら姿が見えず、無線からどうぞーのコール。どうぞって言われてもねぇ。ロープを切って帰ってやろうかと思いましたが、意を決して登攀開始。身長の足りない私はステミングで切り抜けようとしますが、足底にはアイゼン、手にはダブルアックス。冬季の登り方が身に付いていない為、大変ぎこちなくダサい登り方。ベテランならアイゼンの爪先とアックスのピックが指先そのものとなるはずですが、私にはまだまだ時間が必要。優秀ギアたちを信じて、習った通りポイントを決めたらぐらぐら動かさず、体重をうまく預けて何とか這い上がりました。
ここが核心と言われるのは、体がまだ慣れていないうちに高度感に晒されること、上部に雪が溜まっていて手がかりは己のアックスのみということではないでしょうか。いずれにせよ、この日は晴天で風が穏やか。好条件にかなり助けられた気がします。
3P目はいよいよ私のターン。CSで既にお腹いっぱい、全部フォローでいいよと言いそうになるのをぐっと飲み込み、先程よりは登りやすい岩場を左に抜けていきました。ハーケンは数ヶ所あったような無かったような。登りきるとハンガーが2つ、迷わずピッチを切りました。特に問題無く終わって一安心でした。
次のピッチは中間岩場の始まる雪稜の手前まで。どうやらハンガーも丁度良い岩角も無いようで、僅かな溝に240のスリングをラウンドし、荷重が抜けない絶妙な角度と距離を保ちながら支点を作っていた相方氏。習った技術をすぐに応用できる賢さに脱帽でした。そこから先は40mほどの雪の稜線。初めは割かし緩くもなかったのでスタカット、残り3分の2くらいでコンテに切り替えました。
その先も短くピッチを切り、再び私のターン。そして第二の核心、チムニーくぐり。リード代わるか聞かれましたが、先輩チームの姿が近くに見えて何となく安心したのでやってみることに。しかしここからが本当の正念場でした。
先ずは階段状を詰め、そこから左の壁沿いにトラバース。雪は無く岩が出ていたので、ガバを探すもカチ以上ガバ未満のホールドしか見当たらず、手袋を外したい衝動に駆られました。おまけにアックスが邪魔過ぎて一苦労。命を守ってくれる大切な道具に悪態をつきつつ、干渉しない位置に固定しながらちょっとずつ移動を繰り返しました。ライン取りが上手くできず一度登った後、再び下降。しかもハーケンは見つけられず、ここまでオール岩角プロテクション。チムニー基部にたどり着くまでに時間がかかってしまい、相方君から「今どんなです?」と心配の声。必死な私の代わりに、上から「核心を絶賛登攀中だよ」と先輩が代わりに返してくれました。初めてのルート、まだお互いの意志疎通が上手くない我々にとっては、先輩の存在が本当に心強かったです。
そしてようやくチムニー越え。最初のCSと同様にステミングで越えようとするも、狭くてなかなか乗越せず。崩れたキョンのようなガタガタムーブで上に這い上がるとまたしても雪。先ほど厄介者扱いされたダブルアックスの出番です。CSの時よりも雪面は立っていて、安定した場所まで上がるのに少し難儀しました。
7P終わったらコンテのつもりでしたが、雪が中途半端に付いているため、先行してる先輩からスタカットの指示。一度切ってからラストピッチをリードすることになりました。目の前にはまたしても凹角というかチムニー。またチムニー。既に山頂を踏んでいる先輩達は左からトラバースで抜けたそうなので、そちらへ回り込んでみることに。踏み跡をたどっていくと思わず絶句。左側は絶壁、片足分しかないスタンスは所々雪で、中間どころかホールドすら乏しいツルッとした壁があるだけ。鉄線と足場のない下ノ廊下のような。ここは天国への階段だろうか?良くこんな所を越えたな。先輩あなたはラピュタのパズーですか。逡巡すること数分、戻ってチムニー直登に変更することにしました。
一ヶ所中間を取ってあったのでそこまで慎重にクライムダウン、何とかスタート地点に戻ってきました。有難いことにチムニーに突入直前にハーケンがあったのでそこに中間を取り、今度こそ本当に最後の登攀。そこそこ狭いチムニーも、本日3回目ともなると大分慣れてきて楽々突破かと思った矢先、ロープがやけに重いことに気付きました。ふと足下を見ると、最悪なことにアックスのリーシュが先ほどの中間にしっかりとクリップされているではありませんか。やっちまった!どうするどうする?呼吸が止まりそうになるのをこらえ、冷静に下を見ると割りと安定してそうなスタンスが。そこまで下りて恐る恐る手を伸ばし、クリップされたリーシュをそっと解放...外れた!ほっと一息。でも安心するのはこのチムニーを越えてから。また同じように上は雪、最後の力でアックスを振りかぶって頂上稜線にようやく立ちました。
相方君を引き上げようとしたところで、先輩からのコール。もう寒いの我慢できないから、山頂は諦めて天望荘側へ来いとの残酷な指令。そんなー、山頂まであと10分も無いのに。相方君と共にがっくし。同時に、寒い中皆を待たせて迷惑をかけたという自責の念が込み上げてきました。
説教されるのを覚悟して先輩方と合流すると、「よく頑張った」と労いの声。そして「無事に登ってきてくれてありがとう」と思いがけない言葉。ありがとう?ありがとうはこっちのセリフだよ、待たせてごめんなさい、こんな私を導いてくれてありがとうございます。すっかりヘロヘロな状態で声にならない声を絞り出し、鼻水でぐちゃぐちゃの顔を皆の前に晒したのでした。
下りは地蔵尾根から。今まで際どい所を登ってきたので、急だろうが切れ落ちてようが、実に安定した道に感じました。鎖や鉄階段を抜けた後、徐々に体に異変が。高度は下がっているはずなのに過呼吸になり、声がうまく出せなくなりました。行者小屋へ着いた頃には肩で息をする有様。シャリバテと気付いた相方君が、貴重な季節限定のブラック◯ンダーを分けてくれました。持っていたパンと差し出されたチョコを貪り、お湯をゴクゴク。すると水を得た魚のようにみるみる元気になり、声も元通り。ずっと緊張しっ放しで、補給を疎かにしたツケが回ってきたようです。全く、どんだけ迷惑かけたら気が済むんだか。元気は取り戻しましたが気持ちはさらに凹んでしまいました。
赤岳鉱泉でテントを撤収してから帰路へ。赤岳山荘へ戻ってようやく重い荷物から解放されたら、最後に皆で握手を交わしました。感謝の気持ちで胸がいっぱいでした。これからも皆と山に行きたい、一緒に喜びを味わいたい。その為にはもっと経験を積まなくてはなりません。練習もたくさんして、皆に頼られる存在に少しでも近付きたいです。
踏めなかった山頂、バリエーションルートからひょっこり出現も今回は叶わなかったので、力をつけてまた来年リベンジしたいと思います。
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・ご自身の技術や体力に合った無理のない登山計画で山を楽しみましょう。