台高 野江股谷遡行 ~ 豪壮なゴルジュを抱く蓮川の秀渓へ
- 投稿者
-
伊藤 岳彦
横浜西口店
- 日程
- 2014年07月15日 (火)~
- メンバー
- 単独行
- 天候
- 晴
- コースタイム
- 林道終点(70分)鶴小屋滝(60分)第3ゴルジュ上(50分)二俣(左俣遡行90分) 野江股ノ頭(90分)林道終点
- コース状況
- ■ 県道569号線(蓮峡線)は舗装路。通行問題なし。
■ 江馬小屋谷林道はダート。四駆でなくとも何とかなりました。
■ 林道終点に5~6台分の駐車場あり。幕営適地。
■ 中流部大崩落により水が白濁。飲料不適です。
■ 第1ゴルジュの高巻き … 地形の弱点を見つけて岩盤を越えれば、灌木帯に踏み跡がありました。懸垂8mほどでイガミ滝上へ。
■ 第3ゴルジュの高巻き … 右岸を巻きますが、一部脆い斜面で木も生えていないので滑落注意です。
■ 第3ゴルジュの先は開けた大崩壊地。台風の爪痕が生々しいです。
■ 第4ゴルジュ … 崩落のためよく分らない状態に。
■ 左俣詰め … 奥ノ二俣から左俣は倒木が多そうだったので、右俣へ。支尾根へ取り付き、野江股ノ頭へ直接上がりました。
■ ナンノキ平下部は確かに迷いやすいので、赤布赤テープを外さないように。
■ 下山路 … 赤布赤テープが丁寧に付けられているので、忠実に辿ります。
- 難易度
感想コメント
台高北東部(三重県松阪市)、奥香肌(おくかはだ)峡と称される蓮川(はちすがわ)には、スケールの大きい名渓秀渓が幾つもあり、初級者から上級者まで幅広く楽しむことができます。
その蓮川上流部に位置し、五ヶ所滝の大ゴルジュを秘める名渓江馬小屋谷の右俣にあたる谷が、野江股(のえまた)谷です。
台高主稜の池小屋山から東に伸びる支稜上にある野江股ノ頭からナンノキ平までの水を集めて北走する渓で、ズバ抜けた大滝はないものの、迫力あるゴルジュのなかに不動滝、イガミ滝、鶴小屋滝など多くの美瀑を懸けることで知られます。
突破不可能な廊下もありますが、直登可能な滝も多くあり沢登りの醍醐味を満喫できる秀渓として多くの遡行者を迎えているようです。
ダート林道終点に幕営に適した駐車スペースがあるので、前夜泊がオススメ。
上部二俣より左俣か右俣かを選んで稜線に達することができ、駐車スペースまで比較的しっかりとした登山道で下山できるので、とてもスッキリとした遡行ができます。
山深い林道終点にて、鹿の夜啼きと朧月が醸し出す幻想的な夜を過ごした後、翌朝早く逸る気持ちを抑えられずに入渓。
水が白濁しているのが気になりながら、序盤の滝を幾つか越えると、すぐに核心部の第1ゴルジュへ。
地獄の入口を思わせる暗いゴルジュの先に、不動滝15mとイガミ滝12mが立ちはだかります。
危うい斜面を高巻いて不動滝を越え、イガミ滝下まで出てもその先へ進むことは不可能とされています。
再び不動滝下へ戻るには30mロープ2本での懸垂下降を強いられると言われるので、今回は時間ロスをきらって最初からパス。
結局イガミ滝を見ることなく巻いてしまいました。
その後自然の造形美を象徴するような鶴小屋滝12mに魅せられたあと、ガンガン小滝を越え、第3ゴルジュを大きく巻き上がると、突然視界が開けて予想だにしなかった大崩壊地へ。
台風の爪痕が生々しく、痛々しさが際立つ荒寥とした光景にしばし呆然としてしまいました。
しかしそこを越えると水は清流となり、傾斜のあるゴーロ帯をグングン登っていくと、やがて苔の美しい上部のツメへ。
あたかも奥秩父多摩川源流部を彷彿とさせる緑のふくよかさに張りつめていた心が癒されました。
最後は上手に支尾根に取り付き、汗ダラダラになりながら、大きな達成感とともに野江股ノ頭へ。
展望はあまりないものの、台高山脈の奥深さが感じられ、無事に怪我なく遡行できたことを台高の山の神に思わず感謝してしまいました。
一際険しい自然に接したときには、否応なく畏怖の念を抱いてしまうもの。
厳冬期の雪山で森林限界を越えたときに感じるものとは明らかに異なりますが、山深く険しい谷に囲まれたときにも自然に対する畏怖の念を強く感じてしまいます。
今回蓮川上流部は初めてということもあるかもしれませんが、野江股谷でもそのような感覚に包まれ、身の引き締まる思いがしました。
渓に楽しさを感じる心が全くかき消されてしまい、渓の美しさと表裏一体の厳粛さに自分が支配されてしまったとでも言えばよいでしょうか。
陰鬱に屹立するゴルジュと台風の爪痕による大崩壊地に少なからず衝撃を受けたために、油断と慢心がすぐ怪我に直結するという危機感を強く意識してしまったからかもしれません。
日頃「山を楽しみましょう」「沢に挑戦してみましょう」といったことを、私自身深く考えずに安易な謳い文句にしているところが確かにあります。
しかしその根底に「油断せず、慢心せず、山に対して謙虚な気持ちを持つ」ということが置き去りにされているのではないか、野江股谷に鋭く問いかけられたような気がしました。
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