奥秩父の美渓 鶏冠谷右俣 ~ 絢爛たるナメ滝を辿る癒しの渓へ(甲武信岳南東側 戸渡尾根西面)
- 投稿者
-
伊藤 岳彦
横浜西口店
- 日程
- 2017年06月09日 (金)~
- メンバー
- 単独行
- 天候
- 曇
- コースタイム
- 西沢渓谷無料駐車場(40分)鶏冠谷出合(70分)逆くの字滝(45分)二俣(100分)40m大滝下(40分)戸渡尾根登山道(100分)西沢渓谷無料駐車場
- コース状況
- ※ 本文をご参照ください
- 難易度
感想コメント
鶏冠谷右俣
笛吹川流域随一の美渓と謳われる鶏冠とさか谷。
東沢本流に比肩しうるスケールをもち、渓は中間部で左右に分かれます。
豪快な左俣と癒しの右俣。それぞれに趣を異にする奥秩父らしい魅力溢れる渓です。
初夏らしい清々しい陽気の下、絢爛たるナメとナメ滝が連続する右俣で、爽快な遡行を満喫してきました。
2017/6/9(金) 曇
西沢渓谷無料駐車場[11:42]…鶏冠谷出合[12:22]…逆くの字滝[13:32]…二俣[14:17]…40m大滝下[16:01]…戸渡尾根登山道[16:44]…西沢渓谷無料駐車場[18:20]
■ 鶏冠谷出合へ
日本でも屈指の渓谷美を誇る笛吹川。
国師岳から甲武信岳、雁坂峠に至る奥秩父の中核の全てを水源とし、白く輝く花崗岩のナメと、南に面する明るさに満ちた谷が広がります。
渓谷ハイキングの代名詞とも言える『西沢渓谷』はもちろんのこと、対をなす東沢には、沢登りの原点でもあり、甲武信岳へのクラシックルートでもある『東沢釜ノ沢東俣』をはじめ、バラエティ豊かな支流があり、奥秩父の貌ともいえる山域です。
今回訪れたのは、二俣よりやや上流で東沢本流に注ぐ鶏冠谷。
木賊山を源頭とし、戸渡尾根と鶏冠尾根に挟まれた流域を南下します。
渓は中間部で、左俣と右俣に分かれ、それぞれに異なる趣をもちます。
日本登山体系では右俣が本流とされ、美しいナメとナメ滝が連続する本格的な沢登りの入門ルートとして推奨されています。
一方左俣は登攀的な要素が多く、豪快さでは右俣を上回ります。
また支流にも遡行価値の高いものが多く、右俣には飯盛沢・奥飯盛沢、左俣には一ノ沢・ニノ沢・三ノ沢があり、魅力的な沢登りのエリアを形成しています。
今回は鶏冠谷右俣の遡行。
4年前に一度遡行していますが、記憶が曖昧になっていることもあり、今一度美しい渓の姿を見てみたいという想いがありました。
右俣遡行の下山では一般登山道のある戸渡尾根を使えるのが便利なところ。
対する左俣遡行の下山ではバリエーションの鶏冠尾根を使うこととなり、時間と労力がかかってしまうため、やはり敬遠してしまいがちです。
西沢渓谷市営無料駐車場を後に、まずは東沢入口まで30分ほどの林道歩き。
清々しい新緑の下、よいウォーミングアップになります。
二俣にかかる吊橋を渡り、ひと登りしたところが東沢入口。
↑ 吊橋より鶏冠尾根を望む
踏み跡を辿り、早々に東沢に降り立ちます。
鶏冠谷出合まで山腹沿いの高巻き道もありますが、河原を歩いた方が早いので、鶏冠谷出合まで右岸を進みます。
渡渉することもなく5分ほど河原を歩くと、すぐに鶏冠谷出合です。
↑ 鶏冠谷出合
渡渉をする前に対岸で沢装備を身に付けます。
思っていたよりも気温は高くなく、汗ばむ陽気ではありません。
因みに釜ノ沢をはじめ東沢本流の奥へ向かう場合は、鶏冠谷出合で渡渉をした後に、山の神まで旧登山道をしばらく歩かなければなりません。
鶏冠谷の渡渉時にサンダルがあると便利かもしれません。
鶏冠谷出合は鶏冠尾根の入口にもなっており、看板もあります。
渡渉をしながら水の冷たさを確認。いよいよ谷に足を踏み入れます。
■ 魚止ノ滝は右から高巻き
鶏冠谷入口付近は薄暗い渓相。ゴルジュの中に小滝が続きます。
↑ 出合付近は薄暗い渓相
やがて顕著な滝が現れます。最初のスポット、魚止ノ滝10mです。
↑ 魚止ノ滝10m
水流の右を直登できるそうですが、最後が難しいようです。
↑ 右壁の様子
通常は右から高巻き。踏み跡は明瞭です。
↑ 右から高巻き
↑ すぐ上の2段5m滝
ここからしばらくはやや冗長なゴーロ歩き。
途中飯盛沢が右岸より入ります。
飯盛沢出合付近の右岸台地は幕営適地ですが、ここで幕営するケースは稀かもしれません。
↑ 飯盛沢出合
↑ 意外にも幕営適地あります
■ 逆さくの字滝は水線突破
ナメの小滝を幾つも越えていくと、やがて奥飯盛沢出合へ。
奥飯盛沢は2段90mの滝を出合にもつ、急峻な沢。
かつてはアイスクライミングのゲレンデとして一部で注目されていたようです。
↑ 奥飯盛沢出合は2段90m滝
本流には3段12mのスケールあるナメ滝がかかります。
↑ 3段12mナメ滝
つるつるで登りようがないので、下段を右から巻いて中段へ。
中段は右端を上がり、上段も水流右を登ります。
ナメ滝を越えると、次なるスポット、逆さくの字滝20mです。
↑ 逆さくの字滝20m
ここは積極的に水流を攻めたいところ。
今回はソールの張替をしたばかりのフェルトを使用しているので、フリクションは抜群。
勢いある水流を軽快に登っていくのはとても爽快でした。
因みに、巻く場合は右岸からのようです。
↑ 水流沿いに登ります
↑ 屈曲部
↑ 上部の様子
↑ 屈曲部上に豊富な残置支点
この先は幾つかのナメ滝が続き、やがて中間地点となる二俣へ。
■ 2つの大滝を越える
二俣で渓は左右に分かれます。
↑ 二俣に到着
今回は予定通り右俣へ。
右俣出合には4m滝があり、その奥に25m大滝を望むことができます。
大滝の直登は困難なので、高巻きがセオリー。
左岸右岸ともにどちらも巻くことができますが、右岸は枝尾根伝いの大高巻きになるそうです。
4年前は左岸を巻きましたが、何となく要領を覚えていたので、今回も左岸巻き。
しかしその前に、折角なのでゴルジュの奥にある大滝を見物しに行きます。
出合の4m滝は右から巻き上がりますが、トラバースのホールドが乏しいので、ちょっと神経を使いました。
↑ 出合の4m滝
小滝を越えれば、大滝はすぐそこ。
鶏冠谷右俣ルートにある大滝のなかでは、最もスマートな直瀑です。
↑ 美しい25m大滝
登山体系によると、“右側をほぼダイレクトに登れるが、落口手前がハング気味で悪い”とのこと。
滝壺から右の斜面を直上し、小さく巻き上がることもできそうでしたが、落ち口の様子が今一つはっきりしません。
こちらもチャレンジャーの方向けでしょうか。
出合まで戻ってから左岸巻きへ。
大体滝の高さと同じくらい登った後、灌木を頼りにトラバースしていきますが、一部灌木の距離が開いているところもあるので、トラバースは慎重に。滑落注意です。
上手に水平移動していけば、ロープなしで容易に落ち口へ下降することができます。
↑ トラバースは慎重に
↑ 沢へ下降します
↑ 25m大滝の落ち口へ
大滝より上は倒木が多いのが残念。
↑ 倒木が多いです
鬱蒼としたゴルジュのなか、トントンと進んでいくと、右側に大きな倒木のかかる4m滝が現れます。
↑ 倒木のかかる4m滝
自然にこのような倒木がかかったのか不思議に思ってしまいますが、この倒木のおかげで容易に滝を越えることができます。
この倒木がない場合は、右岸から上がり、懸垂下降を強いられるそうです。
やがてゴルジュ帯の出口にある30m大滝へ。
↑ 30m大滝
この大滝はスマートな直瀑と違い、たくさんの段差がある多段滝。
シャワークライミングで水線突破できそうですが、上部のナメをフリーで登るのは困難に思えたので、ここもセオリー通り右壁を巻き気味に登ります。
↑ シャワーに挑戦してみました
↑ 最上部の様子
↑ 大滝上で記念撮影
■ 絢爛たるナメとナメ滝が続く
30m大滝を越えれば、あとは美しいナメとナメ滝がひたすら続く癒しの渓相。
様々なナメをテンポよく歩きながら、さらに上流を目指します。
上越や東北の沢によくある“天国のナメ”的な雰囲気とは趣を異にしますが、個性的なナメ滝を思い思いに越えていくのはとても楽しいもの。
全く言葉のいらない世界です。
■ 戸渡尾根へ詰める
通常、遡行終了点となるのは40m大滝下の枝沢出合。
40m大滝を左岸から高巻くと奥ノ二俣となり、右沢を詰めれば完全遡行となりますが、ガレ気味で時間もかかるようなので、一般的にここがゴールになります。
↑ 枝沢出合で遡行終了
折角なので、詰めに入る前に、40m大滝を見物に行きます。
↑ 40m大滝
↑ 左岸高巻きの様子
沢から一般登山道のある戸渡尾根までは約30分の登り。
鹿の獣道に導かれるように、上へ上へと突き進んでいきます。
↑ 戸渡尾根を目指します
途中石楠花が群生しており、心を和ませてくれます。
↑ 石楠花がきれいでした
藪漕ぎもなく、淡々と登り詰めると、無事に戸渡尾根へ。
一ヶ月ほど前に、反対側にあるヌク沢を詰め上がった場所よりも、位置としてはだいぶ下の方。
それだけに下山の距離が少し短く感じられたので、気持ち的に楽でした。
帰路は快適な徳ちゃん新道を駆け下ります。
立ち寄り湯は手っ取り早く笛吹の湯(火曜休)へ。
今回も充実した一日を過ごすことができました。
山梨市観光協会公式サイトの情報はこちらをご覧ください
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