北アルプス 北穂高岳 東稜 登攀

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投稿者
田渕 幹敏
日程
2013年08月15日 (木)~2013年08月16日 (金)
メンバー
単独
天候
08/15 晴のち雨 ⇒ 08/16 晴
コースタイム
【08/15】
上高地 ⇒ (40) ⇒ 明神館 ⇒ (40) ⇒ 徳澤園 ⇒ (15) ⇒ 新村橋 ⇒ (15) ⇒ パノラマコース分岐 ⇒ (55) ⇒ 横尾山荘 ⇒ (60) ⇒ 本谷橋 ⇒ (110) ⇒ 涸沢ヒュッテ (テント泊)

【08/16】
涸沢ヒュッテ ⇒ (50) ⇒ 北穂沢 雪渓 ⇒ (20) ⇒ 東稜 取付 ⇒ (10) ⇒ 東稜 稜線 ⇒ (20) ⇒ ゴジラの背 取付 ⇒ (30) ⇒ 東稜のコル ⇒ (30) ⇒ 北穂高小屋 ⇒ (04) ⇒ 北穂高岳 山頂 ⇒ (45) ⇒ 南陵の梯子~鎖場 ⇒ (45) ⇒ 涸沢ヒュッテ ⇒ (70) ⇒ 本谷橋 ⇒ (45) ⇒ 横尾山荘 ⇒ (30) ⇒ 新村橋 ⇒ (10) ⇒ 徳澤園 ⇒ (50) ⇒ 明神館 ⇒ (35) ⇒ 上高地

※ 単位は分、途中休憩含む。
コース状況
上高地から横尾までは、良く整備されたトレイルで歩き易い。
コースタイムで約1時間毎に山荘が有り、安心感も高い。

横尾から本谷橋までは、多少道は悪くなるが概ね問題は無い。
横尾谷側が切れるヶ所が増えるのでスリップに注意。

本谷橋から先は斜度も増し雪も残るので、きちんとした登山装備で臨みたい。
雪場は登山靴で問題無いが、不安な方は軽アイゼンがあると安心。
本谷橋から涸沢迄でも事故は起こっているので、転倒などには注意したい。
距離が長く気温も上がるので、体調管理にも注意。

涸沢から先はどのルートも北アルプスの岩稜帯になる。
然るべき技術と装備で臨みたい。

東稜に入る手前の北穂沢には雪渓が残るので、不安な場合は軽アイゼンの携行をお勧めする。

北穂高岳 東稜は、登攀要素の強いバリエーションルートとしては初級に位置付けられるコースで人入りは多い。
その為ルートコンディションは比較的安定しており、ある程度の巻道がついているので万が一登攀スキルに不安が生じた場合の対応も比較的し易い。
登攀の難易度はそれ程高くはないが、尾根自体は両側が鋭く切れたナイフリッジで転滑落は即致命的な事故に繋がるので要注意。
天候が良ければルートファインディングもそれ程難しくはない。
但し悪天時には困難になる可能性もあり、標高も高いので気象条件にも注意。
雨天時や強風時にはアタックを避けた方が良いだろう。
東稜のコルへの降りは、稜線先端からも横尾本谷側からも比較的容易にクライムダウン可能だが、少しでも不安がある場合はラペルした方が良い。

北穂高岳 南陵は、鎖場や梯子が一部出てくる。
難易度は低いが転滑落には注意、ザレ場での落石にも気を付けたい。

南稜や涸沢~横尾は、ハイシーズンには渋滞や擦違い待ちでコースタイム以上に時間がかかるので注意。
難易度
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感想コメント

北穂高岳 東稜は核心部が「ゴジラの背」と呼ばれる事もある峻険な岩尾根で、前穂高岳 北尾根と両側から挟む様に涸沢を形作る尾根です。
登攀難易度は高く無いですが、その尾根筋は美しく迫力があり実に魅力的なルートです。
北穂への一般登山道が引かれた南稜からも穂高連峰の主稜線からもその姿を見る事が出来、何と言うか…とてもカッコ良いルートなのです!
また基部上部共に営業小屋を有する為、バリエーションでありながら安心感の大きい好ルートでもあります。

夏期は仕事の繁忙期、…暫く山に入れないと体力も落ち感覚も鈍ってしまいます。
こう言った状況でのバリエーションではやはり慎重になりますが、久しぶりの緊張感に喜びもまた大きいです!

ソロで山に入ると、パーティーで入るより遥かに感覚が鋭くなる気がします。
対人のコミュニケーションが減り、自分を取り巻く環境への意識が強くなるからでしょうか。
全ての判断と行為そして事象の帰結を、独りで負う事の緊張感がそれを生み出すのでしょうか。
山が僕を引締め研ぎ澄まし、僕の中の余分な物を融かして消し去ってくれるのを感じます。

ただ、僕はソロ山行をけっしてお勧めはしません。
仕事やパートナーの予定などの現実問題、そして何よりも自分自身の登山への哲学もあり、僕は単独で山に入る事もあります。
でもそれは単独行を無条件に肯定している訳ではありません。
アウトドアでの安全管理に於いて、バディ(パーティー)の重要度は計り知れないからです。
スタイルや定義に拘る方もいらっしゃいますが、僕自身はそう言ったものには全く重きを置いていません。
(勿論、職業として取り組む方であれば必要な事ですが。)
自分の限界を予測し…挑戦出来る範囲を知り…充分な準備をし…、その中で自分なりに自然を楽しむ事が出来たらそれこそが素晴らしい事であり、スタイルや定義は実はあまり問題ではないのです。
何よりも大切な事は、元気に戻って来るという事です。
もし出来れば、入山前より元気になって戻って来れれば最高ですね!

予報では初日が好天でアタック日が曇天でしたが、予報より雲の発生が早く初日の夜は大雨が降りました。
その雨が全ての雲を落としてくれたのでしょうか、翌日は青空が広がる快晴で風も殆ど無し!
東稜は穏やかな表情で、暖かく僕を迎えてくれました。

その日の内に下山予定であったので朝は早めに出発。
東稜への入山者はまだ無く、貸し切りの稜線上を満喫出来ました!

槍ヶ岳へ向かって穂高の主稜線が凛々しく延び、大キレットが迫力の右側の眺望。
奥穂へと続く吊尾根と際立った存在感を放つ北尾根が天地を分け、涸沢カールの雄大な風景に白く輝く雪渓が美しい左側。
振り向けば屏風岩が雄々しく聳え、前には東稜の鋭い稜線が北穂の山頂へと駆け上がっています。
360度を絶景に囲まれながらゴジラの背の秀麗なパートをクリアして行くのですから、その素晴らしさは筆舌に尽し難いものがあります!!!
色々な事を想いながら登っていた様な気もしますし、何処を辿るとより楽しそうかを考えながら夢中で目の前の岩を越えていた様な気もします。
テントを出てから北穂山頂まで、本当に気持ちの良い素晴らしい時間を過ごす事が出来ました。

交通機関についてですが、上高地から沢渡までの戻りのバスは3時間待ちでした。
僕はさわやか信州号のキャンセル席に乗る事が出来ましたが、ハイシーズンに行かれる方はお時間に余裕をみて戴くと安心かと思います。
また沢渡駐車場に前乗りされる方は、少し奥に夜間も湯を止めない無料足湯がある駐車場があるので探して見て下さい。
(一番大きい駐車場の足湯は、立派ですが夜間はお湯が止まりぬるくなってしまいます。)
もし分からなかったら、いつでもお店で聞いて下さい!

今の時期、涸沢は多くの登山者で賑わっていました。
涸沢でのんびりされる方、奥穂や北穂や涸沢岳へ登る方、北尾根や東稜に挑戦する方。
多くの方々がいらっしゃいますが、例年と違うなと感じた事が2点あります。

1つは幼児~小学生以下のお子様がとても増えた事です。
きちんとした装備を用意し、子供向けの予定を組み、丁寧に指導しながら歩かれている方も勿論いらっしゃいました。
ただ、スニーカーで歩かせ、軽装で、ご両親までデニムやコットンシャツの方が多くいらっしゃったのも事実です。
幼児をお連れの方では、チャイルドキャリーを使われる方がとても増えていました。
前者では、無理な装備とスケジュールに加え引率者の技術不足で泣きながら登っている子が多くいました。
どうか、お子様を穂高の様な山へ連れて行く事の難しさと責任について一考をお願いしたいと思います。
また後者に於いては、後ろへ転倒した場合お子様をクッションにしてしまう可能性があります。
岩稜でチャイルドキャリーが安全に機能するかどうかは難しい問題で軽々には言及出来ませんが、一定の危険を内包している事は確かです。
幼いお子様を穂高の様な山へ同道する事の是非は僕にも分かりません。
かけがえの無い経験と思い出を得られる事も確かだと思います。
ただ、引率者に然るべき知識と技術が求められる事と、リスクについてだけはご承知戴ければと思い浅見ながら書き添えた次第です。

2つ目は、ヘルメットを被られる方がとても増えた事です!
これは素晴らしい事だと思います。
落石の被害を減少させ頭部損傷に因る致命傷のリスクを軽減する意味で、ヘルメットは非常に有効とされています。
ヘルメットを被る事で、自分が身を置く環境を再認識し気が引き締まると言う効果もあります。
涸沢までの方でも増えていましたが、稜線へあがる方に於いては被られている方の方が多かった位です。
長野県遭対協の皆さんのご尽力や、個々の登山者の意識の高まりの結果であり、登山の業界で仕事をする一人としてとても嬉しく感じました。

自分自身も含め、皆が事故なく安全で楽しい登山が出来る様に心から願っています。


※ この記録のコースタイムは少し速目です、必ず地図やDVD等の公式の時間も確認して計画を立てて下さい。
※ 東稜の通過時間は、メンバーの技量やパーティーの人数、気象条件などに依り大きく変わりますので注意して下さい。

フォトギャラリー

朝の梓川。ここから眺める梓川の風景が大好きで、いつも見入ってしまう。

パノラマコースは通行止め。今年は例年より残雪が多いのだそう。

この残雪を越えると、涸沢はもうすぐソコ!ツボ足で問題はないが、転び易いので気を付けて!

涸沢ヒュッテから北穂沢を望む。正面右の険しい尾根が東稜。左の尾根が一般登山道が引かれた南稜。左奥の山荘は涸沢小屋。

幕営地から吊尾根を望む。雪渓を渡って来る風はとても冷たく、この一帯だけ涼しい。もう少し涸沢小屋に寄ると暖かい風になる。

東稜へのアプローチ地点。北穂沢の雪渓を越えて、正面の二股ルンゼの右股から取付く。左股はザレて危ないので入らない方が良い。

稜線上。遥か上に北穂小屋が見えている。

稜線を振り返る。美しいラインで尾根が延びている。右下に見えているのは涸沢ヒュッテ。

ゴジラの背、核心部の取付。ここから暫くは、鋭いナイフリッジが続く。

ゴジラの背前半を振り返る。両側がスパッと切れた爽快なライン!左奥のピークが屏風の頭!

東稜の核心部、小ギャップ付近での一枚。是ぞナイフリッジ!!!ホールドも豊富で、素晴らしい高度感が気持ち良い!

東稜のコルから核心部を振り返る。コルへの降りは、先端からのラペルか横尾本谷側からのクライムダウンが一般的。少し難易度は上がるが、先端からのクライムダウンも可能。

コルから先は歩き易い巻道がよく踏まれている。だが、稜線を外さずに辿ると更にもう暫く面白い岩稜を楽しむ事が出来る。

吊尾根と前穂高岳、そして北尾根。56のコルへの雪渓には、多くの雪が残っている。

大キレットを越えて槍ヶ岳へと続く、槍穂高連峰の主稜線。

北穂小屋の直下へ飛び出す!小屋で一息入れたら、さぁ下山開始!

降りの南稜から、東稜を望む。やはりカッコ良い!^^2人と3人の、2パーティーが入っているのが見えた。

南稜の梯子~鎖場。ハイシーズンは渋滞に注意!

涸沢の直下で事故があった様で、県警のヘリが救助にあたっていた。登攀を終えた今だからこそ、再度気を引き締めた。要救助者/救助者、共に無事であります様に。

帰りに出会ったお猿さん。今年は例年以上に多くの猿に出会った。賢そうなご尊顔!^^

・実際に行かれる際は、現地の最新情報をご確認ください。
・ご自身の技術や体力に合った無理のない登山計画で山を楽しみましょう。

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