南アルプス 聖岳東尾根 ~ 白蓬ノ頭にて赤石岳と対峙する
- 投稿者
-
伊藤 岳彦
横浜西口店
- 日程
- 2013年12月24日 (火)~2013年12月27日 (金)
- メンバー
- 単独行
- 天候
- 晴/曇/雪
- コースタイム
- ▼ 12月24日(火) 快晴
沼平ゲート(270分)聖沢登山口 <約15km>
▼ 12月25日(水) 快晴
聖沢登山口(40分)冬ルート取付(200分)ジャンクションピーク(240分)白蓬ノ頭
▼ 12月26日(木) 曇時々雪 (標高2,000m以上は降雪)
【東聖岳でアタック断念】
白蓬ノ頭(150分)東聖岳(80分)白蓬ノ頭(210分)聖沢登山口
▼ 12月27日(金) 曇
聖沢登山口(240分)沼平ゲート
- コース状況
- ■ 静岡市街から井川まで県道の時間帯通行止があります。
■ 県道27号線(井川湖御幸線)は大張峠での「チェーン着装」表示がありましたが、着装せずに越えられました。
■ 県道189号線(三ツ峰落合線)の富士見峠越えも問題なく越えられました。
■ 井川から畑薙方面は降雪や道路崩落もなく問題なく通行可能です。
■ 畑薙第一ダムより先は沼平ゲートまで進入可。手前に広い駐車スペース。
■ 沼平の南ア登山指導センターには人が常駐しているようです。
■ 沼平ゲート~赤石ダム間は所々凍結個所があるものの普通に歩けます。
■ 赤石ダム手前約1kmに水場があります。
■ 赤石ダムより先は凍結しているのでアイゼン着用が無難です。
■ 聖沢登山口には沢があり、流水を得られます。
■ 出会所小屋跡先の冬季ルート取付には標識は特にありません。
■ 冬季ルートには多くの赤ペンキと赤布があるので、視界不良時でも迷うことはないと思われます。
■ ジャンクションピークまではアイゼン、その先はワカンを使用しました。
■ 白蓬ノ頭が森林限界です。初めて赤石岳の全容を目にすることができます。
■ 椹島には今回立ち寄っていないので、状況は未確認です。
- 難易度
感想コメント
日本アルプス最南端の3,000m峰である聖岳(3,013m)。
「へづる」という俗説的な語源はともかく、深大な南アルプスにおいても、さらに奥深く遥かな頂きは、その名の如く聖なる高峰そのもので、その凛とした気高い美しさは冬山を愛する者の心を熱く揺さぶるものがあります。
大井川上流域の開発が進んだ現代においても、冬期は悪沢岳、赤石岳と同様、長いアプローチを余儀なくされ、未だ僻遠深奥の感を今に残しています。
聖岳冬期登頂を目指すには、二つのルートがあります。
一つは長野県側の遠山川流域、易老渡から西沢渡を経て、薊畑へと夏道を辿るルートです。
聖岳南斜面の砂礫帯の登下降と薊畑のホワイトアイトにさえ気をつければ、冬山としては比較的容易なコースであり、快適な聖平冬期小屋をベースに利用することもできます。
聖光小屋まで車で入れれば、冬でも三泊四日で余裕をもって臨むことができますが、残念なことに、今年一度は復旧した市道南信濃142号線で再び崩落があり、現在通行止が続いているので、事実上長野県側からの入山は不可能になっています(飯田市HP参照)。
そうなるともう一つのルート、静岡県側の畑薙第一ダム先の沼平ゲートから聖沢登山口まで林道を歩き、冬季ルートとして古くから知られる聖岳東尾根を辿るより方法がありません。
標高2,300mのジャンクションピークまでは2つの尾根道があり、南側の支尾根が古くからのルートとして知られ、赤ペンキも豊富ですが、最近では東俣林道から直接尾根に取り付く方法もあるようです(エアリアマップではこちらに赤い点線が示してあります)。
どちらにせよ、忠実に尾根を辿るシンプルなルートですが、展望のない樹林帯の長く苦しい急登が延々と続き、ジャンクションピークから先も苦しいラッセルに終始します。
今回はこの聖岳東尾根を辿り、冬の南アルプスの奥深さを存分に堪能してきました。
天気予報では2日目までは快晴ですが、アタック予定の3日目は天気が崩れそうなので、何とか2日目には森林限界を越える白蓬ノ頭まで登り、冬の南アルプスの大観をこの眼で拝むという気持ちで臨みました。
1日目はカモシカに出会える長い林道のアプローチ。
想像していたよりも雪が少ないことに戸惑いつつも、冬でも躍動横溢する大井川の流れに目を奪われながら、延々と林道を歩き続けます。
赤石ダムのトンネルを越えると、突然目の前に広がったコバルトブルーの凍結した湖面の美しさがとても印象的でした。
2日目は長く苦しい樹林帯の急登ラッセル。
数日前の単独行者のトレースのおかげで、かなり楽ができましたが、それでもジャンクションピークから先のラッセルではスピードが上がらず、雪に突っ伏したまま疲れて眠ってしまうときもありました。
それだけに、夕暮れ間近に森林限界を遂に越えたその時、目の前に広がった南アルプスの夕照雪嶺の美しさは筆舌に尽くしがたいものでした。
さらに長く延びる東尾根の先、夕陽に映える聖岳。
笊ヶ岳の後方、雲一つない空に浮かび上がる富士山。
そして、沢の王者「赤石沢」を眼下に挟んで、雄大に屹立する赤石岳との対峙。
この一瞬の感動のために冬山があるのだとしたら、何と儚い時間のためにこれだけの労力を費やしているのか、自問自答してしまいます。
3日目は予想通りの悪天候。
昨日の展望が得られたことに90%以上満足している自分を叱咤するように、頂上を目指しましたが、ホワイトアウトと時間切れを言い訳に東聖岳で登頂断念。
南アルプスの冬山の本当の厳しさはこんなものではない!と分かっているつもりでも、また楽な方へ逃げてしまった自分を受け入れなければなりません。
昭和の頃に比べれば、明らかに冬の南アルプスに入る人は激減しているように思えます。
冬になると山岳メディアに溢れる「雪山を楽しもう!」的な要素とは全く正反対にある重荷重でのアプローチ、長く苦しい樹林帯のラッセルなど、ともすれば苦行でしかない行為を自分に課すことは、もはや時代遅れなものであると捉えるのは飛躍しすぎでしょうか。
ボロボロの身体で家に下山連絡をした際、たまたま出た父親に「雪を楽しめたか?」と言われた一言が鋭く胸に突き刺さりました。
冬山が苦しいのは当たり前のこと。
それら苦しい行為を全て超越して「楽しむ」という境地に達したとき、登山者として一つ上の高みへ到達できるのかもしれません。
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