北アルプス 紅葉の一ノ俣谷探勝 ~ 常念ノ滝まで5つの瀑を巡る (常念岳南西面 槍沢支流)
- 投稿者
-
伊藤 岳彦
横浜西口店
- 日程
- 2020年10月15日 (木)~2020年10月15日 (木)
- メンバー
- 単独行
- 天候
- 晴
- コースタイム
- 横尾(40分)一ノ俣谷出合(40分)二段ノ滝下(10分)七段ノ滝下(30分)一ノ俣の滝(20分)山田ノ滝(35分)常念ノ滝(往路下降120分)一ノ俣出合(40分)横尾
- コース状況
- ※ 本文をご参照ください
- 難易度
感想コメント
一ノ俣谷探勝
常念岳の南西面を流れ、槍沢に注ぐ一ノ俣谷。
かつて登山道があったルートですが、現在は訪れる者も稀な静かな渓。
前半部に名のある美瀑が5つもあり、高巻き道も現存しているので、初級の沢登りルートとして訪れることができます。
紅葉のピークを過ぎた10月半ば、今まで見ることのなかった常念岳の美しい懐に心動かされながら、明るい渓歩きを楽しんできました。
銀鱗の水面が耀く槍沢を左手に見て進むと、樹木越しに槍の穂先を遠く彼方に望むことができます。
初めて槍沢から槍ヶ岳に登る方のなかには、絶望的な距離感を感じてしまう方もいることでしょう。
ここ槍見河原を過ぎれば、目指す一ノ俣谷はすぐそこ。
ベースキャンプを張った横尾からは約40分の距離です。
↑ 槍見河原より
一ノ俣谷に架かる小さな橋を渡ると、道標の立つ小広場があります。
かつて一ノ俣小屋があった場所。そこが入渓点です。
↑ 一ノ俣谷に架かる橋
一ノ俣小屋は、古い文献や登山黎明期のノンフィクションなどに出てくる山小屋ですが、ちょっと気になったので調べてみました。
建造されたのは1921(大正10)年。1933(昭和8)年には丸太造りによる帝国ホテル級の高級山荘に建て替えられましたが、太平洋戦争末期に失火、大雪崩、洪水に襲われ、戦後横尾に移して横尾山荘として再建されたとのこと。
喜作新道いわゆる表銀座が開かれたのが1920(大正9)年だそうですが、それ以前槍ヶ岳への登山ルートは、「有明 - 中房温泉 - 大天井岳 - 常念乗越 - 一ノ俣谷 - 槍沢 - 槍ヶ岳」だったことから、一ノ俣小屋の地理的重要性は高かったのでしょう。
表銀座が徐々にメインルートになりつつも、初代釜トンネルが1927(昭和2)年開通、1933年乗合バスが大正池まで運行開始、1935(昭和10)年同じく乗合バスが河童橋まで運行されたことで、上高地から槍ヶ岳を目指す方にとっても、一ノ俣小屋は中継地点として重要な役割を果たしていたのだと思います。
丸太造りへの改築は、乗合バスが大正池まで入るタイミングで行われたものと推察されます。
さて。
蘊蓄うんちくはこれくらいにして、本日も遡行開始!
水は冷たいですが、空は晴れ上がり、明るい渓のもと気持ちの良い遡行ができそうです。
↑ 入渓してすぐ
一ノ俣谷は常念岳の南西面を流れる開豁な渓。
常念小屋のある常念乗越が源頭であり、上述したように谷沿いにかつて登山道がありました。
前半部に二段ノ滝、七段ノ滝、一ノ俣の滝がありますが、高巻き道も現存し、それ以外は穏やかな渓相。
そのためか、登山体系には遡行図はおろか解説すらもなく、バリエーションとしては認知されていないような扱いです。
しかし南に面した明るい渓相は大変気持ちがよく、沢登りとしては技術的に難しいところがないので、高巻きの判断さえ見誤ることがなければ、ある意味“デート沢”に最適。
今回は中間地点までの遡下降往復としましたが、下降時ロープを使用することもありませんでした。
あたかも常念岳に見守られるような遡行は、きっと北アルプスの新たな魅力を教えてくれることでしょう。
序盤は穏やかな渓相。傾斜も緩く、良いウォーミングアップになります。
↑ 常念岳をアップで
やがて傾斜がきつくなり、連瀑帯へ入っていきます。
↑ 傾斜が増します
最初に現れる名のある瀑が、
二段ノ滝
そういえば、この滝のすぐ下部に砂地の幕営適地がありました。
↑ 幕営適地?
焚火はできそうにありませんが、南に面しているので明るく、雰囲気も悪くありません。
次来ることがあったらここで一晩明かしてみたいと思いました。
↑ 右岸の涸棚
二段ノ滝の直登は無理そうなので、左岸巻き。
旧登山道ではなさそうですが、何となく踏み跡がありました。
↑ 巻きながら
途中後ろを振り向くと、横尾尾根の上に屏風ノ頭が見えていました。
↑ 屏風ノ頭
↑ 渓に戻りました
続いて現れるのが、
七段ノ滝
↑ 七段ノ滝入口?
正直言うと、どれが二段ノ滝で、どこが七段ノ滝かもよく分かりません。
おそらくこの滝が七段のうち一番下になるのだと思います。
つるつるでとても登れそうな滝ではないので、右から高巻き。
↑ 左岸の様子
落石に気を付けながら、ルンゼっぽいところを直上し、トラバース気味に灌木帯へ。
↑ 巻きながら
↑ 人工物発見
高巻きルートファインディング中にこのような人工物があると、「俺の目に狂いはなかったぜ!」みたいな安心感を与えてくれて、嬉しいもの。
それにしても、旧登山道にしては結構リスキーな道です。
しばらく進むと、ルンゼを横切るところにトラロープの残骸がありました。
↑ 朽ち果てたトラロープ
高巻き道はまだ続いているようですが、ルンゼを下降し、一旦渓に降りることができます。
折角なので、様子を見に行くことにしました。
↑ ルンゼを下降
足場はしっかりしているので、ノーロープで登下降することができます。
↑ 一旦渓に戻りました
渓は蛇行し、右に直角に折れると、立派な瀑が現れました。
これも七段ノ滝の一部なのでしょう。
↑ 七段ノ滝の一部?
↑ 左壁はつるつる
左壁の上部、クラック下に幾つか残置がありました。
↑ 残置あります
ある意味ここが一ノ俣谷の核心なのかもしれません。
フェルトは無理でも、ラバーソールなら何とかなるのでしょうか。
ここは私には無理なので、再び先ほどのトラロープ跡、すなわち高巻き道に戻ることにしました。
高巻き道は足場の悪い急峻なルンゼを横切って斜上していくと、歩きやすいバンドとなります。
↑ バンド下から
↑ バンド上から
鎖も張られており、かつてここが登山道として使われていたことが分かります。
おそらくですが、天然のバンドにしては都合が良すぎるので、このバンドは岩を削って作られたものではないかと思われます。
人為的にこの道を作り出すには相当の苦労があったことでしょう。
それにしても、このバンド上部からの展望は最高!
かなり高度感はありますが、深い谷を見下ろす感覚は爽快感に満ちています。
↑ 高度感あります
↑ 渓を見下ろす
高巻きの最後は草付きの急斜面の下降。ロープ不要です。
↑ この辺りから下降
↑ 渓に戻りました
七段ノ滝を過ぎ、しばらく進むとまた立派な滝が現れました。
一ノ俣の滝
↑ 一ノ俣の滝
↑ 深い釜です
直登不可で、巻きは右岸。泥っぽい斜面ですが、明瞭な踏み跡があります。
↑ 巻きながら
↑ 一ノ俣の滝上
落ち口にはワイヤーの残骸がありますが、かつてここには橋があったのかもしれません。
ここからはまた穏やかな渓相となります。
四番目に現れる立派な滝は、
山田ノ滝
↑ 山田ノ滝
この滝は左岸の支流にあり、滝をもって本谷で出合います。
高さは10mくらいでしょうか。結構巻き上がるのは大変そうです。
山田ノ滝を過ぎると、渓は徐々に緩やかになっていきます。
↑ 小滝もあります
↑ 小さな二条滝
やがて本日の目的地、
常念ノ滝
が見えてきました。
↑ 常念ノ滝が見えました
支流にかかるものですが、一見の価値ある大変立派な滝です。
↑ 高さは20mくらい?
↑ 滝を見上げる
↑ 水に躍動感があります
↑ 虹が見えました
常念ノ滝も支流にかかるものですが、紅葉が優雅な美しさを演出しています。
この枝沢の源頭がまさに常念岳。
その名に相応しい名瀑といっても差し支えないでしょう。
一ノ俣谷はここがちょうど中間地点。
ここから上部は、顕著な滝はなく、平凡な渓相になるそう。
本来ならば、きちんと常念乗越まで詰め上がり、常念岳山頂まで行くべきですが、今回は膝に不安があるので、予定通りここまで。
最近はガチな遡行ができなくなってしまいました。
一ノ俣谷出合からここまで2時間20分ほど。
おいしいとこどりのような遡行でしたが、見所満載で来てよかったと思いました。
帰路は往路を下降。
滝は巻き下ることになりますが、懸垂不要でロープは使わずに降りていくことができました。
↑ 帰路、常念岳を振り返る
横尾をベースに1泊2日で楽しめる、紅葉映える開豁な渓歩き。
今まで知らなかった常念岳の奥深さに触れる遡行は、記憶に残るものとなりました。
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