裏丹沢の秀渓 伊勢沢 ~ 圧巻の名瀑50mを抱く流麗な渓へ (原小屋平西面 神ノ川最大支流)

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投稿者
伊藤 岳彦
横浜西口店 店舗詳細をみる
日程
2017年06月02日 (金)~2017年06月02日 (金)
メンバー
単独行
天候
コースタイム
日蔭沢橋ゲート(30分)伊勢沢出合(90分)大滝下(70分)二俣(50分)原小屋平(125分)日蔭沢橋ゲート
コース状況
※ 本文をご参照ください
難易度
Google Map
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  • おとな女子登山部

感想コメント






伊勢の大滝



伊勢沢は裏丹沢を代表する秀渓。
美しい名瀑“伊勢の大滝”50mを抱く水量豊富な渓として知られます。
新緑煌めくこの季節ならではの大滝の雄姿はとても素晴らしいものでした。





  2017/6/2(金) 晴

日蔭沢橋ゲート[12:39]…伊勢沢出合[13:10]…大滝下[14:43]…二俣[15:50]…原小屋平[16:37]…日蔭沢橋ゲート[18:43]







■ 神ノ川林道解禁

久しく訪れることがなかった裏丹沢。
昨年崩落のため車両通行止となっていた神ノ川かんのがわ林道が現在は通行可能になったという話を耳にしました。
もしかしたらこのまま一般車両の通行はできなくなるかも、と心配していただけにとても嬉しい知らせ。
梅雨入り前でもあり、行けるうちに行っておこうということで、久しぶりに裏丹沢随一の美渓である伊勢沢へ向かいました。

広大な丹沢山塊の北部、道志川流域は「裏丹沢」と言われ(「北丹沢」とも)、交通の便が表丹沢ほど良くはないので、訪れる人も極めて少なく、とても静かな登山を楽しむことができます。
なかでも蛭ヶ岳から檜洞丸にかけての稜線の北側を水源とする神ノ川かんのがわは道志川の最大支流で、かつて秘境と言われたこともあり、意外にも立派な渓谷の様相を見せてくれる隠れたスポットです。
昨今“ユーシンブルー”で賑わう西丹沢の玄倉渓谷には人気の面でははるかに及びませんが、僻遠の趣さえ感じられる山深さをもち、誰もいない世界で新緑や紅葉を静かに楽しみたい方には意外にオススメかもしれません。
ただ神ノ川林道を日蔭沢橋ゲートから1時間ほど歩いたところ、その名の通り開けた「広河原」は、要塞化した堰堤だらけの景観になってしまっているのが残念です。

その神ノ川流域の最大支流が、裏丹沢を代表する秀渓として名高い伊勢沢
東海自然歩道の最高点である姫次から原小屋平の西面の水を集め、西進して神ノ川に注ぐ、水量豊かな渓で、大滝以外にもいくつかの美瀑をもち、変化のある渓相を楽しむことができます。
ハイライトは、その懐に人知れず君臨する、落差50mの伊勢の大滝
「早戸大滝」「遺言棚」「西沢本棚」いわゆる丹沢三滝ほどのネームバリューはないものの、知る人ぞ知る見事な直瀑で、一見の価値あり。
丹沢の奥深さの一端を知ることができます。
大滝のほかにも特徴のある個性的な滝が4つほどあり、やや距離があるものの、急登のツメやヤブ漕ぎは一切なしで東海自然歩道に詰め上げることができるのも嬉しいところです。

深夜のうちに国道413号線から神ノ川林道に入り、真っ暗な林道を突き進みます。
東丹沢の早戸川林道や県道70号秦野清川線などに比べれば、道幅は広く急カーブも少ないので、比較的走りやすい林道であると言えます。
山側斜面が崩落した小瀬戸トンネル入口手前には、土石防護の鉄壁が作られており、道路幅が狭くなっていましたが、通行に支障はありません。
また平石沢出合の大量に押し出された土石はある程度片づけられ、多少の凸凹はありましたが、徐行すれば問題ありません。
思っていたよりはるかにスムーズに進み、無事に終点の日蔭沢橋先のゲートまで。
確か2年前はさらに先の孫右衛門トンエル手前のゲートまで入れるようになっていましたが、今年は進入禁止となっていました。
特に駐車場はないのですが、ゲート前で切り返し、林道の端に縦列駐車するのが暗黙のマナーとなっているようです。


 ↑ 駐車スペース

ゲート前には公衆トイレもあります。
またトイレの脇には、パイプから常時流れている水があるので、帰るときに靴を洗うのに便利です。

当日はぐっすり眠って昼過ぎからのスタート。


 ↑ 日蔭沢橋先のゲートから出発

普段仕事の営業開始が12:00なので、12:00からでないと頭が働かない体になってしまいました。
まずは入渓点まで30分ほど神ノ川林道を辿ります。
新緑に彩られた豊かな渓谷を見下ろしながらの林道歩きですが、堰堤が多いのがとても残念。
雰囲気的には西丹沢の玄倉林道を歩くのによく似ています。


 ↑ 神ノ川渓谷を見下ろす

神ノ川林道は本来、丹沢主稜線を犬越路いぬこえじ隧道で貫き、西丹沢自然教室までつながっていたもの。
1970(昭和45)年頃に開通。普通に車の往来があったと言われます。
現在は林道の落石が著しく、車の通行はもちろん不可。
全長約800mの犬越路隧道は、廃墟を好む方に人気があるようです。

小洞トンネル先の曲ノ橋わたのはしを過ぎた辺り、道が右にカーブするところから踏み跡のある小尾根を伝って神ノ川へ。
特に看板や顕著な目印はありませんが、下降できそうな小尾根が見えたら、そこを5分ほど降ります。


 ↑ 下降点

降り立ったところが伊勢沢出合。20mほど上流には堰堤があります。
ここが入渓点。準備を整えて出発します。


 ↑ 伊勢沢出合から入渓

今日は水量少なめかな?



■ 新緑と青空 初夏の遡行は最高です

初夏の陽気の沢歩きはやはり気分爽快!
腰まで水に浸かった場合、3月だと『痛い!』、4月だと『シビれる!』、5月だと『冷たい!』ですが、6月だと『チョー、気持ちイイ!』。
新緑と青空と太陽が豪華に演出してくれる清流歩きは、何物にも代えがたい爽快感を与えてくれます。

入渓して5分ほどで、顕著な2段4×5m滝へ。






 ↑ 2段4×5m滝

下段は左から。上段は平水なら右端の窪を容易に上がることができます。
上段には水流左にトラロープがあります。


 ↑ 右端の窪を登りました


 ↑ 水流左のトラロープ

水量によって滝を登る難易度は全く変わってしまうもの。
水量がとても多い場合、ゴボウで登れ、ということなのでしょうか。
因みに、左岸には作業路のような立派な踏み跡もあるので、巻くのも容易でしょう。

その先はしばらく倒木もあり、少し時間がかかります。
いくつか小さな釜を越えていくと、いかにも滝らしい容姿をみせる直瀑15m滝が現れます。








 ↑ 直瀑15m滝

左壁の直登もできそうですが、今回は無理せず左岸巻き。


 ↑ 左壁の様子


 ↑ 右から巻きました

沢へ戻る下降がやや急でしたが、ズルズル滑りながらロープ不要で着地できました。


 ↑ 沢へ下降します


 ↑ 落ち口より見下ろす

因みに右岸巻きも可能で、こちらには残置ロープもあるそうです。

ここから先では、途中へつりをまじえながら、おだやかな渓相をゆっくりと進んでいきます。






     





やがて顕著な枝沢が二つ入る、三ノ沢と四ノ沢の出合へ。


 ↑ 三ノ沢と四ノ沢の出合

三ノ沢には落差40mと言われる大滝と、立派な前衛6m滝があるので、寄り道してみるのもよいでしょう。


 ↑ 三ノ沢 奥に大滝が覗けます


 ↑ 四ノ沢

標高800mを越えたところで、沢は大きく右に曲がり、トイ状のゴルジュへ。


 ↑ 渓は大きく右へ曲がります

ナメ床も連続し、積極的に水流のなかをグングンと登っていけます。






 ↑ トイ状のゴルジュ

しばらく進むと今度は大きく左に曲がります。
穏やかな渓相を越え、しばらく進むと何やら大きな瀑音が聞こえてきます。
いよいよ大滝も間近です。


 ↑ 大滝が見えました

まずは大滝への関門!?と言われる2段15m滝が立ち塞がります。


 ↑ 大滝前衛の2段15m滝

右壁にとても古い鎖があり、トラロープなどと連結され、立派な巻き道の道しるべとなっていました。


 ↑ 巻き道は明瞭

この滝も水量次第で突破の難易度が変わるところ。
水量がとても多い場合は巻くこともあるのでしょう。
ただ平水ならば積極的に水線突破を試みてみるべき。
水流のなかにしっかりとしたスタンスもあり、爽快なシャワークライミングが楽しむことができます。






         





中間部のテラスには立派な残置があり、上段にはトラロープが張られていました。






 ↑ 残置の様子




■ 伊勢の大滝はド迫力です

前衛の滝を越えるといよいよクライマックスの大滝50mへ。


 ↑ いよいよ大滝へ

シンプルながら天空から水を豪快に叩き落とす見事な美しい直瀑です。
美しさという点では、丹沢No.1と言っても過言ではないでしょう。
人知れず奥深い山地に孤高に屹立する大滝ほど神秘的なものはありません。
真下から見上げると、飛沫が力強く飛び散りマイナスイオンも全開!
何か底知れないパワーが漲ってくるような気がしました。







           





通常は右側の流れだけですが、増水しているときには左側の窪にも流れができ、八の字大滝になるそうです。
日本登山体系など過去の文献では“左右二条の水流”という文言がよく見られます。
以前は現在よりも水量が多く、二条の流れが当たり前だったのかもしれません。

大滝を前にすると、知らず知らずのうちに沢山の写真を撮ってしまいます。
昼頃に到着すると、太陽が滝上にありうまく写真が撮れないという話を聞いたことがあります。
今回は遅い出発であったがために、写真的に逆光にはならず、よい写真が撮れたように思えます。

大滝越えは、エキスパートの方は中央リッジを1ピッチで登るそうですが、一般的には大高巻きで滝上を目指します。


 ↑ 大滝左壁の全容


 ↑ 中央リッジ


 ↑ 左端の窪 水がありません

大滝の大高巻きは、少しだけ戻った左岸のガレ沢をまず登ります。


 ↑ 左岸のガレ沢

何となく踏み跡があり、左側の急斜面に続く踏み跡を見逃さないように辿ると、補助ロープが現れます。
かなり傾斜がきついので、思わずロープに手を伸ばしてしまいます。


 ↑ 結構傾斜あります

木の根と灌木を頼りにグングン登ると、今度は左へトラバース。


 ↑ ルンゼのトラバース

まだまだ登りが続きますが、登りすぎないように注意したいところです。
沢への下降は、灌木をつかみながらリズムよく降っていきます。
踏み跡も比較的明瞭です。


 ↑ 沢への下降

折角なので、大滝の落ち口へ。


 ↑ 大滝の落ち口へ

大滝の落ち口に立つと壮大な景観がまなかいに広がります。


 ↑ 落ち口から見下ろす


 ↑ 新緑が美しい

まるで空から新緑の森を見下ろすような感覚。
高い頂きから麓を眺めるのと異なり、深大な森の中からさらに森を俯瞰する体験はとても印象的なものでした。



■ 原小屋平へ詰める

大滝から先も幾つか小滝が続きますが、もうそれほど大きな滝はありません。
五ノ沢出合にかかる本流の6m滝は登れないので、五ノ沢の4m滝側から巻き上がって本流に戻ります。


 ↑ 五ノ沢出合 左から巻き上がります


 ↑ 本流側の6m滝は登れません

幾つかの顕著な小滝を淡々と越えると渓相は段々と穏やかになっていき、やがて新緑まぶしい二俣へ。


 ↑ 釜をもつ7m滝は左から


 ↑ 二俣

二俣から最後の詰めとなりますが、左俣右俣ともに遡行可。
右俣は鞍部である原小屋平に詰めるので、こちらの方が少しは楽かもしれません。
原小屋平はとても気持ちのよい小さな草原なので、ゴールとしては素晴らしいところ。
2年前に来たときは右俣を詰めましたが、今回もやはり右俣へ。
二俣からもまだ距離がありますが、疲れが溜まった体に鞭打って傾斜のある棚をグングンと登っていきます。






         





途中伏流となりますが、いずれ流れが復活するので最後までフェルトを使用した方がよいかもしれません。
途中振り返ると未だ残雪を厚くまとった富士山の雄姿。


 ↑ 富士山の雄姿

やや冗長な詰めの遡行に素晴らしいアクセントを与えてくれます。
最上流部は枝沢も多いですが、何となく人の通った跡のある本流は分ります。
ここは忠実に水線を辿ります。
静かな森のなか、青空をバックに稜線が見えてくると原小屋平の水場はすぐそこです。


 ↑ 原小屋平の水場

ただこの日は源頭部ほど水線が細く、きれいな水をゲットするのは困難。
下山用に水を汲むなら、詰め切る前に汲んでおいた方がよさそうです。
水場からは立派な踏み跡を辿って、ジグザグ登りで原小屋平へ。


 ↑ 原小屋平は気持ちのよい小さな草原

原小屋平は森の中の小さな草原といった感じで、とても落ち着いた空間。
名前から察せられるように、1955年の神奈川国体時に建設された原小屋山荘という山小屋があったそうですが、登山者が少ないため経営困難となり1981年に閉鎖されたと言われます。
時間に余裕があれば、草原に寝転んで昼寝でもしたくなるところです。
因みに伊勢沢と同じく美渓として名高い原小屋沢(東丹沢/早戸川支流)を詰めても、同じようにここがゴールとなります。
伊勢沢が原小屋平の西面なら、原小屋沢は正反対の東面を流れます。

帰路は姫次から風巻ノ頭を経て日蔭沢橋ゲートまで。
東海自然歩道であり、トレラン大会のルートにもなっているようなので、とても歩きやすい下山路です。
余力のある方は、スリルある尾根歩きが楽しめる地蔵尾根下降で広河原へ降りるのも面白そう。
バリエーションで下山するならば、絵瀬尾根を下降して伊勢沢出合へ降りるのもよいでしょう。
途中袖平山から望んだ丹沢主稜線の緑の美しさがとても印象に残りました。


 ↑ 丹沢主稜線を望む

帰りの立ち寄り湯は裏丹沢定番の『天然温泉 いやしの湯』。
受付は20:30までなので、私のような昼スタート登山者には大変ありがたい施設。
食堂も遅くまでやっています。
平日の夜だったので人も少なくゆったりすることができ、文字通り本当に癒されました。


いやしの湯(火曜休)の情報はこちらをご覧ください





最後までご一読いただき、有難うございました。

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フォトギャラリー

伊勢沢は大滝50mを抱く秀渓です

神ノ川渓谷を見下ろす

入渓してすぐに現れるF1

F2は美しい直瀑

四ノ沢出合を過ぎるとトイ状のナメ床が続きます

いよいよ大滝が見えてきました

大滝直下の2段15m滝はシャワークライミング

伊勢の大滝①

伊勢の大滝②

伊勢の大滝③

滝壺に虹がかかります

大滝左壁の様子

落ち口から見下ろす

落ち口からの風景

釜のある7m滝は左壁を登ります

二俣 どちらも詰められます

源頭部へやや冗長な詰め

原小屋平の水場が終点

原小屋平は気持ちのよい草原です

伊勢沢はとても爽快な渓でした

・実際に行かれる際は、現地の最新情報をご確認ください。
・ご自身の技術や体力に合った無理のない登山計画で山を楽しみましょう。

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