裏丹沢 神ノ川金山谷 ~ 丹沢とは思えない奥深い渓を辿る(檜洞丸北東面 神ノ川本流)
- 投稿者
-
伊藤 岳彦
横浜西口店
- 日程
- 2017年07月07日 (金)~
- メンバー
- 単独行
- 天候
- 曇
- コースタイム
- 日蔭沢橋ゲート(45分)広河原(50分)仏谷出合(35分)奥魚止ノ滝(30分)二俣(35分)遡行終了点(10分)源蔵尾根登山道(40分)広河原(45分)日蔭沢橋ゲート
- コース状況
- ※ 本文をご参照ください
- 難易度
感想コメント
金山谷
金山谷は道志川の最大支流である神ノ川かんのがわの本流となる奥深い渓。
遡行価値の高い渓が幾つもある裏丹沢のなかでは、難所のない明るい谷ですが、訪れる人は少なく、とても静かな遡行を楽しむことができます。
梅雨の晴れ間、丹沢とは思えない深山幽谷の渓で爽快な一日を過ごしてきました。
2017/7/7(金) 曇時々晴
日蔭沢橋ゲート[12:12]…広河原[12:58]…入渓[13:23]…仏谷出合[13:47]…奥魚止ノ滝[14:22]…二俣[14:52]…遡行終了点[15:29]…源蔵尾根登山道[15:40]…広河原[16:18]…日蔭沢橋ゲート[17:21]
■ カモシカに遇う
ふと都会の人混みを離れ、豊かな自然のなかに身を置きたくなったとき、首都圏近郊で思い浮かぶ山域の一つに裏丹沢があります。
日帰りで十分行けるエリアでありながら、シーズンの平日であっても登山者は皆無に等しく、表丹沢や西丹沢のような賑わいとは無縁の世界が待っています。
国道413号線から伸びる神ノ川林道は、昨年崩落のため車両通行止となっていましたが、現在は通行可能。
すでに6月初めに神ノ川を代表する美渓伊勢沢を訪れているので、今年は2度目の来訪となります。
あまりハードな遡行ができるコンディションではないので、難しくないルートでありながら山深さを存分に堪能できる金山谷を訪れてみることにしました。
広大な丹沢山塊の北部、道志川流域は裏丹沢と言われ(北丹沢とも)、交通の便が表丹沢ほど恵まれてはないので、訪れる人も極めて少なく、とても静かな登山を楽しむことができます。
なかでも蛭ヶ岳から檜洞丸にかけての稜線の北側を水源とする神ノ川かんのがわは道志川の最大支流で、かつて秘境と言われたこともあり、意外にも立派な渓谷の様相を見せてくれる隠れたスポットです。
昨今“ユーシンブルー”で賑わう西丹沢の玄倉渓谷には人気の面でははるかに及びませんが、僻遠の趣さえ感じられる山深さをもち、誰もいない世界で新緑や紅葉を静かに楽しみたい方には意外にオススメかもしれません。
ただ神ノ川林道を日蔭沢橋ゲートから小1時間ほど歩いたところ、その名の通り開けた広河原は、50年以上前の台風で原生林が全て薙ぎ倒され、要塞化した堰堤ばかりの景観になってしまっているのが残念です。
その神ノ川の本流が、水量豊富にして深山幽谷の佇まいを残す金山谷。
2017年6月刊行された『丹沢の谷 200ルート』では“難所もなく明るい初級者向けの渓”として紹介されています。
蛭ヶ岳を源頭とする仏谷を左に分けた後、神ノ川乗越と金山谷乗越という丹沢主稜線のド真ん中に詰め上げます。
魚止ノ滝や奥魚止ノ滝などの美しい小滝を幾つかもち、快適に登れる滝やシャワークライミングが楽しめる滝が随所にあり、飽きさせない渓相です。
ゴーロ歩きもありますが、明るい渓相は上越や鈴鹿を彷彿とさせるもので、とても気分のよいもの。
何よりも水が澄んでいるので、清流が織り成す山深さはとても趣深いものがあります。
アプローチは入渓点となる広河原まで約45分。
詰めの労は少なく、帰路は主稜線から広河原まで源蔵(佐藤)尾根を辿って小1時間ほどの下り。
さすがに50m大滝を抱く伊勢沢ほどのインパクトはありませんが、初級者向けの好ルートとして押さえておいてもよさそうです。
金山という名前は御多分に洩れず、その昔武田信玄が金を掘ったという言い伝えによるもの。
因みに奥秩父には“金山沢”という沢が5つほどありますが、丹沢ではここだけだと思われます。
深夜のうちに国道413号線から神ノ川林道に入り、日蔭沢橋先のゲートまで。
特に駐車場はないのですが、ゲート前で切り返し、林道の端に縦列駐車するのが暗黙のマナーとなっているようです。
↑ 駐車スペース
ゲート前には公衆トイレもあります。
当日はぐっすり眠って昼過ぎからのスタート。
↑ 日蔭沢橋先のゲートから出発
まずは入渓点まで45分ほど神ノ川林道を辿ります。
神ノ川林道は本来、丹沢主稜線を犬越路いぬこえじ隧道で貫き、西丹沢自然教室までつながっていたもの。
1970(昭和45)年頃に開通。当時は普通に車の往来があったと言われます。
現在は林道の落石や土砂崩れが著しく、車の通行はもちろん不可。
広河原を起点に蛭ヶ岳や檜洞丸へ登る方はほとんどいないので、林道を歩く方も稀だと思いますが、意外にも“北丹沢12時間山岳耐久レース”のコースに含まれています。
また全長約800mの犬越路隧道は、廃墟を好む方に人気があるようです。
緑豊かな神ノ川渓谷を左に見下ろしながら、黙々と林道を歩いていきます。
雰囲気的には西丹沢の玄倉林道によく似ているような気がします。
↑ 神ノ川渓谷を見下ろしながら
孫右衛門トンネルの手前右手に、規模の大きな連瀑をもつ枝沢があるのですが、そこの水量をみると、訪れる渓の水量が大体想像できます。
今日は台風後だからか水量は多め。この分だと金山谷も水量豊富でしょう。
伊勢沢下降点を過ぎ、さらにテクテク歩いていくと、前方に何やら獣の気配が......。
『マジかよ......』
条件反射でホイッスルを銜くわえ、唯一の武器となる“チコハンマー”に手を伸ばします。
しかし、熊ではなさそう。鹿でもなさそう。よ~く見ると、カモシカです。
↑ カモシカでした
冬の南アルプスでよく出会いますが、夏の丹沢で出会ったのは初めてかもしれません。
いつも不思議そうな表情と優しい眼差しで私を迎えてくれることが多く、威嚇されたことはほとんどありません。
このカモシカはどうも怪我をしているらしく、足を引き摺っています。
「がんばって生きろよ!」と声をかけ、先を急ぎます。
不釣り合いなほどに立派な檜皮橋を過ぎると、まもなく広河原です。
↑ 檜皮橋
林道が大きく右に曲がるところが、沢への下降点。
地蔵尾根へ至る登山道にもなっています。
↑ ここが下降路の入口
↑ 看板があります
明瞭な踏み跡を少し下ると1番堰堤の上へ。
↑ 広河原
↑ 堰堤が続く彦右衛門谷
堰堤沿いに沢を渡り、突き当りまで進むとコの字型の梯子?があり、これを使って広河原に降り立ちます。
↑ 檜皮橋を振り返る
↑ 広河原を歩きます
荒野のような河原を奥に進むとやがて地形が狭まり、渓らしい雰囲気になっていきます。
↑ 渓が狭まってきました
水量が豊富になった辺りで、入渓の準備。
今日は気温も高いので、上着はTシャツで充分と判断しました。
↑ 遡行開始です
■ 金山谷は水の澄んだ奥深い渓でした
入渓後すぐにゴルジュとなりますが、水は澄み、雰囲気も山深くなり、遡行感度は良好。
↑ ゴルジュから始まります
岩水沢出合を過ぎると、最初のハイライト魚止滝6mが現れます。
以前は2条の豊富な流れだったようですが、現在は右側のみ。
↑ 魚止滝6m
ルートは左のルンゼ。上手に突っ張りながら、リズムよく登っていきます。
↑ ルンゼを直上
↑ 滝上から見下ろす
↑ 滝上の渓相
続いて現れるのは6mナメ滝。
↑ 6mナメ滝
この滝はかつて全長20mほどの綺麗なナメ滝だったそうですが、7年前に右岸の岩壁が崩落してしまった模様。
一時は滝が埋まっていたそうですが、時間の経過とともに大きな岩片が流され、復活を果たしたそう。
自然の回復力はスゴいものです。
↑ 小滝が続きます
↑ 澄んだ釜が幾つかあります
ナメ滝を越えると、仏谷出合まで明るいゴーロ歩きとなります。
雰囲気的にかつてよく訪れた鈴鹿の神崎川を思い出しました。
↑ 明るいゴーロ
↑ きれいな釜
↑ 何気ない小滝が美しい
やがて仏谷の出合に到着。
↑ 仏谷出合
仏谷は丹沢の最高峰である蛭ヶ岳を源頭とするやや冗長な渓。
25m大滝や3段15m滝があり、最後の詰めは“大クドレ”と呼ばれる凄絶な崩壊地になるそうです。
↑ こちらは仏谷
今日の進路は右。本流である金山谷に入ります。
↑ 金山谷へ入ります
ここからしばらくは河原歩きとなり、沢が左にカーブする辺りから小滝が続きます。
↑ 薄暗い河原歩き
↑ 小滝が続きます
途中シャワークライミングが楽しめる滝もありました。
↑ シャワーが楽しい滝
↑ 水を浴びながら
やがて正面に白い大岩壁が見えてきます。
↑ 大岩壁が見えました
↑ 岩壁下の5m滝
5m滝を越えると、40m大岩壁の下で渓は右に大きくカーブします。
ここは崩落地なので、落石には注意したいところ。
↑ 落石注意です
雰囲気的にここで巨大な大滝が現れてくれると素敵なのですが、そううまくはいきません。
沢が大きく屈曲すると、すぐに奥魚止ノ滝9mです。
↑ 奥魚止ノ滝が見えました
↑ 奥魚止ノ滝9m
右壁の直登もできるそうですが、一般的には左岸高巻き。傾斜はきつくなく、踏み跡も比較的明瞭です。
↑ 左岸の様子
↑ 高巻きしながら
奥魚止ノ滝を越えると、谷が少し開け、きれいなナメも現れます。
↑ さらに上流へ
やがてまた二俣となり、左はシンギの沢。本流は右です。
↑ シンギの沢はガレた感じ
↑ 再び現れる小滝
続いてまた二俣。
↑ 二俣まで来ました
左は神ノ川乗越、右は金山谷乗越へ詰め上げます。
↑ 左俣は小滝で出合います
どちらも詰めることができますが、今回は帰りが楽な右俣へ。
↑ 右俣に入ります
■ 詰めと下山は楽チン
二俣を右に進むと、ミニゴルジュを抜け、水量が細くなっていきます。
↑ ミニゴルジュ
↑ 源頭部の小滝
主稜線直下は崩壊が進んでいるらしく、源頭部はガレた渓相。
最後は湧き水のような形で、水も涸れてしまいます。
↑ ここで水が涸れます
このまま稜線まで詰めても、20分ほどのガレ場歩きとなるようですが、稜線直下は急峻で意外に難儀するとのこと。
地形図を広げてみると、ちょうど水の涸れたところから、左岸斜面を強引に直上すれば、下降の源蔵尾根に出られそう。
目算で10分ほどの登り。
迷わずフェルトからラバーソールに履き替え、斜面をガンガン登っていきます。
↑ 尾根は間近です
まさに10分で源蔵尾根に上がることができ、赤テープを発見。
↑ ウオー!道だ!
下降の尾根は、最近の地図などでは源蔵尾根と記されていますが、登山大系では佐藤尾根という名前になっています。
佐藤源蔵さんが拓かれた尾根なのでしょうか。
道は随所に赤テープがあり、気持ちの良い原生林のなかを快適に下っていくことができます。
↑ 美しい原生林
途中二重山稜のような地形があり、右の枝尾根に引き込まれそうになりますが、ルートは左が正解。
源蔵尾根の下りでは、左へ左へという意識があるとよいと思います。
小1時間の下りで、再び広河原へ。
↑ 広河原へ戻ってきました
あとは往路の林道をテクテク歩くのみ。
誰にも会わない静かな丹沢で、今日も充実した一日を過ごすことができました。
帰りの立ち寄り湯は裏丹沢定番の『天然温泉 いやしの湯』。
受付は20:30までなので、私のような昼スタート登山者には大変ありがたい施設。
食堂もリーズナブルで、遅くまでやっています。
平日の夜だったので人も少なくゆったりすることができ、文字通り本当に癒されました。
いやしの湯(火曜休)の情報はこちらをご覧ください
最後までご一読いただき、有難うございました。
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