奥秩父の秀渓 小常木谷 ~ “置草履の悪場”を抱く急峻豪快な渓へ (前飛竜南西面 滑瀞谷本流)
- 投稿者
-
伊藤 岳彦
横浜西口店
- 日程
- 2018年06月12日 (火)~
- メンバー
- 単独行
- 天候
- 晴一時雨
- コースタイム
- 余慶橋(15分)火打石谷出合(60分)兆子ノ滝下(30分)不動滝下(45分)2段20m大滝下(30分)ネジレの滝下(10分)岩岳沢出合(80分)岩岳尾根登山道(90分)余慶橋
- コース状況
- ※ 本文をご参照ください
- 難易度
感想コメント
小常木谷
小常木谷こつねぎたには『置草履の悪場』を核心に抱く、奥秩父を代表する秀渓。
飛龍山の前衛峰である前飛竜南西面を『く』の字に流下する登攀的な渓として知られます。
今回不運にも核心部にて夕立に遭遇しましたが、岩岳沢エスケープにて無事脱出。
頭と肉体をフル稼働し、久しぶりに濃密な一日を過ごすことができました。
2018/6/12(火) 晴一時大雨
余慶橋[12:35]…滑瀞谷出合[12:42]…火打石谷出合[12:50] …兆子ノ滝下[13:53] …不動滝下[14:21] …2段20m大滝下[15:06] …ネジレの滝下[15:36] …岩岳沢出合[15:44] …岩岳尾根登山道[17:02]…余慶橋[18:38]
■ 前半は癒しの渓相
新緑眩い多摩川本流に降り立ち、清流に足を踏み入れると、汗ばんだ体に心地よい清涼感が広がります。
川の真ん中で直立すると、水のもつ不思議なエネルギーによって心が浄化されるような感覚。
午後の陽射しが水面で乱反射し、幻想的な光の模様が現れては消えます。
こうした風景に身を置くと、今年も沢登りに適した時期になったことを実感させられます。
この日は台風一過。
昨日関東に雨をもたらした台風5号の影響で、増水しているかと思いましたが、ほとんど平水に戻っているようです。
入渓点は国道411号線(青梅街道)にある余慶橋。
↑ 余慶橋
道の駅たばやまから車で5分ほど西に進んだところにあります。
路肩の駐車スペースは南側に2台、北側に4台ほど。
幸い東京都水道局の車が1台停まっているだけで、他に車はありません。
余慶橋は東京都水源林巡視路である大常木林道の起点であり、この道を使って火打石谷出合まで山道が通じているので、少し先から入渓することもできます。
アップダウンのある山道を行くのは面倒なのと、やはり駐車即入渓が便利なので、橋の脇から立派な踏み跡を辿り、多摩川本流に降り立ちます。
↑ 踏み跡あります
本流とはいえ、この辺りは水深浅く、比較的穏やかな流れ。
↑ 多摩川本流に降り立つ
↑ 穏やかな清流
途中腰までの深さが一部ありましたが、平水であれば難なく歩くことができます。
↑ 一部腰までの深さ
本流を遡ること5分ほどで、滑瀞なめとろ谷出合。
↑ 薄暗い滑瀞谷出合
目指す小常木谷は、この谷の本流になります。
小常木谷は多摩川水系屈指の険谿。
飛龍山の前衛峰である前飛竜の南西面を流下する渓で、懐に名物とも言うべき滝場「置草履の悪場」を抱くことで知られます。
兆子ノ滝・不動滝・2段20m大滝・ネジレの滝など、名のある顕著な美瀑が連続し、登攀的な沢登りを愛する方々に親しまれています。
小常木谷は、岩岳尾根と栗山尾根の間を「く」の字形を描いて流れ、火打石谷と合流して、滑瀞谷と名前を変え、丹波川(多摩川上流部の呼称)に注ぎます。
沢登りに興味のない人にとっては全く無縁の地名かもしれませんが、三条の湯がある後山川の一つ上にある多摩川の支流、と言えばイメージできる方も多いのではないでしょうか。
滑瀞谷出合付近は石門を思わせる顕著なゴルジュですが、流れはとても穏やかで、のんびりと歩いていくことができます。
↑ 穏やかな滑瀞谷
10分弱で木橋の架かる火打石谷出合に到着。
↑ 火打石谷出合
小常木谷が左俣なら、火打石谷は右俣とも言うべき渓でしょう。
火打石谷も比較的登攀的な渓であり、上流部の枝沢には幻の大滝40mが懸かることで知られます。
火打石谷遡行(2013年8月)の記録はこちらをご覧下さい
小常木谷に入っても暫くは穏やかな渓相が続きます。
↑ 最初だけ登山道を使います
出合付近は植林帯ですが、奥に進めば進むほど二次林だと思いますが、原生林っぽくなっていきます。
この付近一帯は江戸時代から伐採が行われていたと聞きます。
前半は幾つかの小滝がアクセントになるもののやや冗長な遡行となります。
しかし核心部が近づくにつれ、期待と不安が入り混じった気持ちになり、否が応でも緊張感が高まっていきます。
時折小さな魚影が走るなか、入渓より黙々と突き進むこと1時間強。
花ノ木沢出合を過ぎると、すり鉢状の谷底に急峻なルンゼが正面に現れ、ここで渓は右へ90°向きを変えます。
そこでは何やら大きな瀑音が響き渡っています。
↑ 谷底で何やら大きな瀑音が......
■ 置草履の悪場を越えて
いきなり眼前に現れる兆子ノ滝10m。
ほぼ垂直に水を落とすシンプルな直瀑です。
↑ 10m兆子ノ滝
一般的に登路は左壁の凹角状。
実際に取り付いてみると、足場はしっかりとしているので、それほど難しくありません。
↑ 登路は左壁の凹角状
水流沿いに落ち口に向かって直登することもできるようです。
↑ 落ち口左側の様子
↑ 落ち口直下の様子
滝上に出ると残置ロープもありました。
↑ 残置ロープ
さて、ここからが『置草履の悪場』と呼ばれるところ。
まず逆くの字ノ滝8mが立ち塞がります。
↑ 逆くの字ノ滝8m
しかしご覧の通り、流木の散乱がひどい有様。
過去の記録を見ると、突っ張りで登れる滝のはずであるのに、一体いつからこうなってしまったのでしょうか。
こういうところは怪我をしやすく、無駄な筋力を使うので、躊躇せずに左岸巻き。
しかし、意外にも少し上の方に追いやられてしまいます。
下降にロープを出すのは面倒だな、と思っていたら、残置トラロープ発見。
↑ あっ!ロープがある
有難くロープを使わせて頂いて、沢に戻ることができました。
↑ ここを降ります
その先6m滝?を越えると、突如現れる謎の物体。
↑ 6m滝?
↑ 謎の物体
鹿の骨のような植物のようなものにびっくりさせられますが、奥秩父ではよくあること。
何となく手を合わせて拝んでしまいました。
さて次なるハイライトは、不動滝15m。
シンプルな滝らしい滝です。
↑ 不動滝15m
エキスパートは左の草付きを直登し、やや巻き気味に落ち口へ抜けるようですが、ここはセオリー通りの左岸ルンゼからの高巻きを選択。
不動滝上にある5m滝もまとめて巻くのが一般的のようです。
↑ 左岸ルンゼからの高巻き
しかし、この高巻きは明瞭な踏み跡がある訳ではなく、結構苦戦を強いられます。
スラブ帯を斜めに登るときに、左手に手がかりがなく、やむなくハンマーをダガーポジションで突き刺して強行突破。
50cmのアックスを持ってきてもよかったな、と思ってしまいました。
支点となる灌木が疎らにある樹林帯に入っても、全く気の抜けないトラバース。
↑ 高巻き中です
最終的には行き詰まり、やや垂直気味の懸垂下降を強いられました。
↑ ここを降りました
もっと合理的な巻き方があるのかもしれませんが、沢は結果オーライ。
5m滝上に無事降りることができました。
泥だらけになったので、よく洗ってからリスタート。
5m滝は左岸のバンド伝いに越えていきます。
↑ 5m滝
そしていよいよ2段20m大滝が見えてきました。
↑ 2段20m大滝
下段は簡単ですが、上段はセンスが問われるところ。
上段は階段状の水流のなかをシャワーで突破できそうに見えて、ホールドが意外に見当たらず、見た目に反してかなり危なそう。
↑ 上段の様子
こうなると残置のある左壁を直登するしかありません。
↑ 左壁の様子
さあどうしようかな、と壁を見つめていると、いきなり......
ゴロゴロ ピカッ! ザーッ!
夕立です
天気予報通りになっていまいました......。
う~ん、さすがに俄にわか雨とはいえ、こうなると常識的に早く沢を脱出しないとマズイ。
直登チャレンジはまた次の機会ということにして、安全な高巻きに切り替えます。
この大滝の高巻き情報は特にありませんが、見たところ左岸の大高巻きが妥当。
もはや写真を撮る気も失せ、遮二無二巻き上がり、ロープなしで下降できましたが、この辺りの記憶がなぜかとんでいます。
大滝上で、雨が益々強くなり体も冷え始めてきたので、ネオプレーンをもう1枚着用。
シャワーのような大雨が気持ちいい!と感じる余裕が出てきました。
最後のハイライト、ネジレの滝2段20mもハイスピード高巻き。
まともな写真がなく、申し訳ありません......。
↑ ネジレの滝2段20m
↑ ネジレの滝下段
↑ ネジレの滝上段
この巻きにも明瞭な踏み跡はありませんが、あの辺りまで登ってトラバースするんだろうという見極めが何となくできました。
↑ 最後に残置スリングあります
置草履の悪場はこれで終了。
ちょうど右岸から岩岳沢が出合います。
ここまで来ればもう安心!?。あとは岩岳沢を詰めるのみです。
■ 詰めが結構大変でした
岩岳沢は悪場もなく、ただ淡々と斜度のある沢を登っていく感じ。
無心でガンガン登り詰めていくと、いつの間にか伏流のガレ沢となりますが、突如隠れた大滝が出現します。
↑ 隠れた大滝
しかしもはや巻く気にもならず、安易に右手の枝尾根直上による脱出を選択。
勾配のある樹林帯のなか、灌木を掴んで体を持ち上げながらひたすら上を目指します。
↑ 登っても登っても......
しかし、“やっと岩岳尾根に出たと思ったらやっぱりまだ枝尾根でした......(><)”というのを2回繰り返して、ようやく登山道へ。
ウオー!道だ!!
歓喜の雄叫びとともに、湧き上がる充実感とマックスハイテンション。
『俺ってまだまだこんなに歩けるんだ!』というアラフォー自己満足に浸ってしまいました。
今回核心部の写真をじっくりと撮ることができなかったので、宿題を作ってしまいましたが、小常木谷は比較的東京から近い割には充実度の高い遡行ができる素晴らしいルート。
次回は沢中泊でじっくりと完全遡行してみたいと思います。
いつもなら帰りの立ち寄り湯は道の駅たばやまにある丹波山温泉。
しかし今回はさすがに営業時間に間に合いませんでした......。
丹波山温泉のめこいの湯(木曜休)の情報はこちらをご覧ください
最後までご一読いただき、有難うございました。
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