湯河原 幕岩 悟空スラブ エクステンション

初級のマルチピッチルートとして人気の悟空スラブ。

このルートは、終了点より上を山頂まで繋げる事が出来ますが、藪漕ぎになる事もあって記録はあまりありません。
登攀としては簡単な事と蕀の藪が、わざわざ登ろうと言う意欲を削ぐのだと思います。
でも、既存ルートを延ばしたエクステンションルートは実はとても魅力的な事も多いです。
幕山の山頂へ続く唯一のクライミングバリエーションルート、繋げてみたいなぁと以前から心にありながら中々実現出来ずにいました。

今月、山岳会の先輩からクライミングに誘って戴いた僕は、暫くクライミングから離れていたので技術をしっかり確認し直しながら登れる少し冒険的要素を含んだルートを探していました。
悟空スラブから山頂への継続は、まさにうってつけ！
このマニアックな選択に付き合ってくれた先輩に感謝しつつ、久し振りの山を楽しんできました。

この時期の幕岩は、まだオフシーズン。
幕山は一年を通して登山者が絶えないですが、岩場のシーズンは冬です。
春～秋は、暑さと湿気と藪と蜘蛛の巣で熱帯雨林みたい(笑)
10月半ばはまだまだ亜熱帯な感じで、アプローチは蜘蛛の巣を払いながらの汗だく登山になります。

約15万年前に出来た溶岩ドームである幕山は、山腹には柱状節理が露出していますが、上部は樹林に覆われています。
その根の浅い樹林の中に、まるで一筋の川の流れの様に現れるスラブの露岩帯が悟空スラブなのです。
岩は、乾いていればフリクションも良くホールドも豊富。
山腹をなめ街を越えて真鶴半島へと続く爽快な眺望は、やがて相模湾が空に溶けて完結をみます。
そして、鳥が鳴き猪や猿が遊ぶ森に囲まれた岩の道は、約100mの登攀の後に周りを覆う薄い樹林に突き当たって終了点となります。
クライミングとしてはけして難しいルートではないですが、悟空スラブの魅力はグレードではなく、この素晴らしいロケーションだと僕は思います。
のんびりと自然と触れ合うアウトドア アクティビティとしてのクライミングを楽しみたい時も、技術の確認やトレーニングをしたい時も、悟空スラブはいつ来ても本当に素敵な大切な場所です。

終了点から上は、蕀の藪と苔で滑る岩の斜面。
真冬は分からないですが、この時期の苔むした岩肌はちょっと恐くて直登する気にはなりません。
根の薄い灌木を慎重に手掛かりにして、岩場の弱点を縫って北へと登ります。
難しくは無いけれど崩落も見られたので、岩のバンドを完全に越えるまでは念の為にスタカットで登りました。
暫く登ると斜度はやや緩み、木もしっかりとしてきます。
ロープを解いて、蕀を避けた歩き易いルートを、この森の住人である猪の踏み跡に教わりながら最後の一登りをこなします。
そして、空がよく見える様になったら、もう少しで稜線の登山道に飛び出すのです。
急に人気のメジャーな山に戻った幕山に少し寂しさを感じながら、良く整備された道を少し歩くと山頂に着きました。

山頂ではゆっくりと汗を乾かしながら行動食を摘まみ、パートナーと色々な話しをしました。
本当に久し振りの山だったのですが、やはり自然の中で過ごす時間は心地良いです。
悟空スラブからの山頂への継続は、凄く素敵なルートでした！