北アルプス 前穂高岳 北尾根 登攀 ~ 明神岳 ~ 奥明神沢

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投稿者
田渕 幹敏
日程
2013年05月21日 (火)~2013年05月22日 (水)
メンバー
横浜西口店 髙野 (TL)
ららぽーと横浜店 田渕
天候
05/21 晴 ⇒ 05/22 晴
コースタイム
【05/21】
上高地 ⇒ (260) ⇒ 涸沢 (テント泊)

【05/22】
涸沢 ⇒ (45) ⇒ 五六のコル ⇒ (250) ⇒ 前穂高岳 ⇒ (50) ⇒ 前穂と明神のコル ⇒ (20) ⇒ 明神岳 ⇒ (15) ⇒ 前穂と明神のコル ⇒ (65) ⇒ 岳沢小屋 ⇒ (110) ⇒ 上高地

※ 単位は分、途中休憩及び雪訓等の時間を含む。
コース状況
上高地から涸沢までは、大きな危険ヶ所は無い。
本谷橋から先は雪が多くアイゼンが必要、斜面での転落や雪の踏抜きに注意。
涸沢より先は、全ての登山道で冬山に準ずる装備が必須になる。

五六のコルへの斜面は、急だが雪質は安定していた様に思う。
極力、雪渓は雪が締まっている早い時間に通過したい。

北尾根の稜線は、まだかなり雪が残っている。
弛んだ雪が滑ったり、シェルンドが隠れていたりもするので注意が必要。
尾根上は何処も、小さなミスが即致命的な滑落に繋がるロケーションなので慎重に登攀したい。
全体に浮石が多いので、ホールドの選択も慎重に。
また、落石にも注意。

明神岳への登降路は、ホールドは豊富だが荒廃が進んでいる。
ザレが多く浮石も多数。
我々はコルに荷物をデポして空身で登ったので難しくは無かったが、荷が重い場合は場所によってロープを出した方が良いかもしれない。

奥明神沢は出だしから沢の前半まではかなりの急斜面。
しっかりとしたアイゼンワークと滑落停止スキルを身に付けて臨みたい。
山行時点ではクレバスは少なかったが、幾つか大きな物もあった。
落石は多い。
雪質や両岸の状態に注意して下降路を選択する必要がある。
難易度
  • スタートナビ
  • おとな女子登山部

感想コメント

今回の旅は、色々な意味でとても思い入れの深いものになりました。
長く僕の胸を焦がしていた場所へ、一度の山行で二つも同時に訪れる事が出来たのですから。

- 日本三大岩稜線の一つに数えられる「前穂高岳 北尾根」。
- 切り立った峻嶮な岩稜がダイレクトに前穂山頂へ突上げる、とても美しい尾根。

- 穂高連峰に受継がれる信仰と歴史の中心にある「明神岳」。
- 上高地に降り立った穂高見命のご神体であり、純粋な意味での穂高岳そのものである。

日本三大岩稜の登攀は、単独で登山を始め長らく師もパートナーもいなかった僕にとっては大切な目標の一つでした。
昨年に登攀した"剱岳 八ッ峰"と今回の"前穂高岳 北尾根"。
三つの内の二つまでもを、信頼出来る素晴らしいパートナーと共に登れた事が何よりも嬉しかったです。
山は僕に多くの大切なものを与えてくれ、また時に奪う事もありましたが、それでも常にそこに在り見守ってくれていた様に思います。
快晴の北尾根の…その厳しくも美しい稜線を辿りながら、今までの山行での数々の思い出が込み上げて幸せな気持ちでいっぱいでした。

穂高連峰に"穂高岳"と呼ばれる山はありません。
実は"明神"とは"穂高"の尊称で、古の神河内の中心…その真上に立つ明神岳こそが穂高岳なのです。
それぞれ「前奥北西」を冠する穂高連峰の山々に守られ、その中央に凛として聳える明神岳。
もうずっと…海の神 綿津見の嫡子でありながらこの山の地を守り続けてくれている穂高見命(ホタカノミコト)にご挨拶をしたいと思い続けていた僕にとって、山頂に立ち彼の神に想いを馳せた短くも濃厚な時間は本当に幸せなひと時でした。

北尾根の登攀と明神岳の登頂。
この素敵な山旅を、「冬と春」どちらもの美が山に満ちたこの季節に…快晴に恵まれて…素晴らしいパートナーに恵まれて…無事に終える事が出来てとても嬉しいです。

今回は下山路に奥明神沢と言うバリエーションルートを選択しました。
雪の量や状態にもよりますが、前穂高岳と明神岳のコルから沢の上部三分の二程までは非常に急な斜面です。
的確なアイゼンワークとしっかりとした滑落停止技術が必須になります。
訓練としてスタンディンググリセードでの下降を試みたのですが、充分な安全マージンを確保する自信が無く(そしてあまりの怖さに^^;)途中でバケツを掘ってアイゼンを付けました。
メンバーのスキルによってはコンテで確保すべき斜度ですので致し方ないですが、僕はまだまだトレーニングも経験も不足していますね。
さて僕のパートナーはと言うと、頻繁に山に入っていても滅多に見る事が出来ない程の素晴らしいスタンディンググリセードで斜面を降り…そして見えなくなりました(笑)
トレーニングに時間を割いたとは言え…僕が40分もかけて慎重に降った奥明神沢を、僅か7分で降りたそうです。
自信を無くしますね^^;
彼の変態的なスキルの高さは良く知っているつもりでしたが(笑)、改めてその技術に驚かされました。

登山やクライミングの様な自然の中でのアクティビティに於いては、「体力/技術力/知力/精神力」、そして充分な経験に裏打ちされた「感覚力」、の五つの力量が重要であると僕は考えています。
これらの力を総合的に上げていく事で、山の難易度に依らずより高い確率で安全を確保出来るのではないでしょうか。
孫子の兵法には、謀攻篇に"彼を知り己を知れば百戦殆からず 彼を知らずして己を知れば一勝一負す 彼を知らず己を知らざれば戦う毎に必ず殆し"とあります。
登山は戦いではないですが、自分の今の力量と登る山の難易度を知り、無理の無い中でレベルアップを図っていく事は大切であると思います。
それは、まだ見ぬ素晴らしい風景たちと出会える可能性が増す事を意味し、またより余裕をもって山行を楽しめる事も意味するのですから!

いつもそうですが、今回もまた感動と学びの多い山行になりました。
山に行く度に今回が今までで最高と思ってしまうので、常に楽しさの新記録を更新出来て有難いです(笑)
日差しも暖かくなり、いよいよ夏が近付いて来ましたね。
皆様、どうぞ安全で楽しい夏山シーズンをお過ごし下さい!

フォトギャラリー

新緑の上高地から、遠くいまだ雪を頂く飛騨山脈を望む。

屏風岩 二ルンゼ。流れ落ちるスノーシャワーが美しい!

本谷橋から先は雪の中。ココでアイゼンを着けると良いだろう。

今夜の宿。いつも通りの、テント泊にギア倉庫のツェルト。

夕飯は、髙野氏特製の野菜炒めとセブンイレブンが誇る逸品「金のカレー」。

翌朝も快晴!五六のコルへの登りは急で、朝一から一頑張り!

北尾根 登攀のスタート!雪と岩のミックスが美しい秀逸なライン。

青空と北尾根、そして美しい弧を描く吊尾根。

四峰の登り。ノーザイルで登攀可能だが、荷物が重いと気を遣う。我々は中程の岩頭を左から巻き、先行パーティーを追い越した。落石浮石に注意。

三峰。髙野氏の的確なリードで登攀。出だしのピッチは少し厭らしいが、ダイナミックで気持ちの良い登攀が楽しめる。尾根上は何処もそうだが、引続き落石浮石には要注意。

二峰の降り。通常はラペルダウンするヶ所だが、メンバーのスキルが揃えばクライムダウンでも問題は無い。

前穂高岳、山頂直下。本当にすっきりと、導かれる様に山頂へ飛び出す。なんて素敵な尾根だろう!

北尾根 上部の全景。他の尾根とは一線を画す険しい佇まいだが、登り終えた今は春の光にどこか優しげに輝いている。

前穂山頂!背後は、槍ヶ岳へと続く北アルプスの主稜線。

明神岳。左が一峰、右が二峰。この山に一般登山道は一つも無い。人を寄せ付けぬ様な荒涼としたその山容は、気高く美しい。

明神岳の山頂。奥は前穂高岳。穂高に脈々と息衝く神話の、この場所こそが当にその舞台。

奥明神沢。まさかココをスタンディンググリセードで滑る人がいるとは…。この様な斜面を滑る事を「滑落」と呼ぶのだと思っていたのだが…^^;

奥明神沢に開いた大きなクレバス。今後もっと増えるだろう。

岳沢より上高地を望む。スタートの写真を、今まさに逆から見ている。雪の山から新緑の高地へ、…僕らの世界へ。

上高地にて。美しい花に思わず歩みを止める、心優しき山の人^^

・実際に行かれる際は、現地の最新情報をご確認ください。
・ご自身の技術や体力に合った無理のない登山計画で山を楽しみましょう。

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