台高 本沢川の名渓 黒石谷を訪れる ~ 名だたる美瀑を抱く爽快な渓へ (吉野川水系)

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投稿者
伊藤 岳彦
横浜西口店 店舗詳細をみる
日程
2014年08月21日 (木)~
メンバー
単独行
天候
コースタイム
駐車地(20分)林道終点入渓点(105分)明神滝下(90分)菅平谷出合(50分)  鬼滝下(30分)菅平谷出合(旧登山道にて下山120分)駐車地
コース状況
■ 黒石谷林道入口にゲート。
■ ゲートより車道を少し進んだ路肩に駐車可。その少し先でUターン可。
■ 旧登山道は一箇所大きな山ヌケがあるものの、霞滝までは道として利用  できそうです。山ヌケのトラバースはやや困難。滑落注意です。
■ 明神滝の右岸巻き道は踏み跡明瞭。
■ 菅平谷出合に幕営適地。
難易度
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感想コメント

台高中部(奈良県吉野郡上北山村)、吉野川上流大迫貯水池に注ぐ本沢川には、スケール大きな連爆とゴルジュが発達した水量豊富な谷が 幾つかあります。
その本沢川の最大支流が「黒石谷」。吉野川水系では古くから知られる名渓です。
黒石岳から伯母ヶ峰までにかけての山域を水源として北走する谷で、明神滝30m・扇滝15m・霞滝45mなどの名瀑のほか、左俣となる奥黒石谷には鬼滝2段20mを抱き、長大で深い谷のなかで大滝と深淵が光彩を放ち、静と動の表情を交互に覗かせます。
上級者以外は基本的に巻き中心の遡行となってしまいますが、小滝も美しいものが多く、まさに魅惑の美渓!
全てが見所と言っても過言ではありません。
通常菅平谷出合か奥黒石谷二俣でのビバークが必要とされますが、大滝と深淵が奏でる渓の美しさをじっくりと堪能しながら遡行することで、沢登りの醍醐味を十二分に味わうことができるでしょう。

私にとっては初めての台高吉野川水系。
初めての水系では、大きな期待のなかに身の引き締まるような緊張感を覚えるもの。
時にそれは淡い恐怖感にもなりますが、素の自分を強く意識させられる感覚こそ登山の醍醐味の一つなのではないかとさえ思ってしまいます。

ゲートのある林道を20分ほどで入渓点へ。右下に流れる清流は美しく、途中岩肌を豪快に流れ落ちる「大タイ滝」が目を楽しませてくれます。
穏やか流れを僅かに進むとすぐに6m斜瀑。この日は気温も上がらず、水温低め。この先のヘツリが思いやられます。
滝上はいきなり険悪なゴルジュ。全く手のつけられない連瀑をもつ廊下帯で、右岸の旧登山道に上がっての巻きを余儀なくされます。
この連瀑は、「トユ滝」「煙突滝」「鋤滝」と名のある美瀑で、上から見下ろすだけでも、その迫力ある水のたぎりに圧倒されてしまいました。
鋤滝上から再び入渓。結果的にはここまで道を辿ってから入渓した方が効率的でしょう。穏やかな清流をゆったりと進むと、すぐに大きな釜をもった2条8M斜瀑。一部で「夫婦滝」と呼ばれるそうです。左の水線際をバランスよく登っていきます。
そしてまた廊下へ。長淵の詰まりに3m滝があり、泳げば突破できそうでしたが、体力の消耗を嫌ってあっさりと右手から巻きます。滝上は末広がりの斜滝10m。優雅な美しい渓相に息を呑んでしまいます。滑りやすい左手の水線際を微妙なバランスで乗り越えると、行く手にすっきりとした10m滝。右岸の踏み跡で難なく越えると、2条12m「男女滝」へ。
中央リッジを登れるそうですが、左手の男滝側から容易に巻くことができ、その先で核心部の一つ「明神滝」30mが圧倒的な迫力で迫ります。30mながら水量豊富で、爆音を轟かせながら白くたぎる豪快な渓相に心を打たれました。
明神滝はセオリー通り右岸ルンゼを直上。踏み跡も明瞭で、うまく地形の弱点を突いていることがうかがえます。その先で現れるのは美しく優美な「扇滝」15m。左手に旧登山道が見えていたので、あっさりと巻いてから緩い斜面を懸垂なしで下ってしまいました。
クライマックスの連瀑帯を抜けると、暫くは釜と淵を交えた穏やかな渓相に。深切谷を過ぎると、廊下の先に黒石谷最大の「霞滝」45mが現れます。エキスパートはへつりで接近してから、中央リッジを突破するようですが、とても無理なので、早々に左手の崩壊著しい旧登山道で巻き上がってしまいました。
霞滝の上はすぐに菅平谷出合。左岸の石垣台地は絶好の幕営地になっており、大きな焚火跡があります。当初の予定では、さらに先の奥黒石谷二俣で一夜を過ごし、黒石岳の北に派生する尾根を辿って下山するつもりでしたが、旧登山道が下山路として意外にも使えそうなので、とりあえず幕営用具をここに置いて、ハイライトの鬼滝まで行ってみることに。低い水温でかなり消耗してしまっていたこともあり、また安易な方へ気持ちが流されてしまいました。
奥黒石谷に入ると、流麗な渓相のなか山の深さが際立っていきます。美しい幅広15m滝は左岸を巻きますが、多くの登れる小滝が続き、この辺りは快適な遡行が楽しめます。
やがて谷が大きく左に曲がると、凄い名前の「鬼滝」2段20mへ。とても美しく迫力のある滝ですが、伐採の名残でしょうか、無残な残置ワイヤーが散乱放置されているのがとても残念でした。
今回の遡行はここまでとして、沢を下降し再び菅平谷出合へ。ここでのんびり一夜を明かすつもりでしたが、テントで一眠りして目覚めてもまだ3時すぎ。旧登山道を使えば、2時間ほどで下山できそうなので、結局その日のうちに下りてしまいました。
実はこの黒石谷遡行のポイントは下山をどうするかにあります。一部では下山が核心とまでいう方もおられるようで、通常下降路として右岸の旧登山道を利用する方が多いようですが、この道は山ヌケや橋の老朽化、藪化が進み、場所によっては困難を窮めます。霞滝より上部は完全に廃道化されている感じでしたが、霞滝より下部は一部崩落が激しいものの道として充分利用できるもので、今回はこの道で辛うじて下山することができました。一箇所大きな山ヌケがあり、真新しいトラロープが渡してはあるものの、ロシアンルーレットのようなザレ場トラバースになっています。冷静に地形を判断して高巻きで突破しましたが、利用される方は滑落に十分ご注意ください(ほとんどいないとは思いますが…)。
また一部の記録にあるように、読図力に自信のある方は、黒石岳の北に派生する尾根を辿って林道に出るルートを選択されるようです。

黒石谷は噂にたがわぬ名渓でした。
圧倒的なスケールで迫る大滝の数々、深い谷に刻まれる深淵、魚影豊富な清流。
台高の自然はやはり奥が深く、瑞々しい感性を呼び覚ませてくれます。
わずか一日で体は疲労困憊しましたが、黒石谷は大きな充実感を与えてくれました。
浜松からは決して近くはありませんが、台高大峰の吉野川水系の沢へまた訪れてみたいと思います。

フォトギャラリー

黒石谷は本沢川の最大支流

林道終点から下った入渓点より

鋤滝上から沢へ戻ります

夫婦滝とも言われる2条7m滝

魚影豊富な清流

水温の低いヘツリは体力を消耗します

滑りやすい斜滝10mは左手の水線際を登ります

続く立派な10m滝は左手より巻きます

2条12m男女滝

明神滝30mに圧倒されます

扇滝15m 裏見ができます

大滝ときれいな淵が交互に現れます

黒石谷最大の霞滝45m

菅平谷出合へ

女性的な連瀑が続きます

幅広15m滝は左岸を巻きます

登れる小滝が続きます

どの小滝も美しい

鬼滝2段20mは名前と裏腹に美しい滝でした

旧登山道の山ヌケ 危なすぎるトラバースなので高巻きしました 

・実際に行かれる際は、現地の最新情報をご確認ください。
・ご自身の技術や体力に合った無理のない登山計画で山を楽しみましょう。

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