西丹沢 清秋 小川谷廊下 ~ 魅惑のゴルジュを抱く清冽な美渓へ (玄倉川支流)

このエントリーをはてなブックマークに追加
投稿者
伊藤 岳彦
横浜西口店 店舗詳細をみる
日程
2015年10月08日 (木)~
メンバー
単独行
天候
コースタイム
立間大橋先路肩(20分)穴ノ平沢下降点(10分)小川谷本流(75分)大岩(30分)石棚下(50分)東沢出合(90分) 立間大橋先路肩
コース状況
■ 穴ノ平沢下降点に路上ケルン有
■ 穴ノ平沢下降は堰堤の梯子降り
■ 前半部は意外にも幕営適地が多い
■ 枯葉が多いので、足場には注意が必要
■ 仲ノ沢径路は踏み跡明瞭
難易度
Google Map
  • スタートナビ
  • おとな女子登山部

感想コメント

丹沢随一の美渓「小川谷廊下」。
関東の沢登りスポットとしては、最も人気の高い超メジャーな渓でもあります。
沢登りに関心のない方でも、丹沢の「オガワダニ」なる名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。
小川谷は、西丹沢の盟主・檜洞丸の南に派生する同角山稜の西側を南進する玄倉(くろくら)川の一大支流で、花崗岩や石英閃緑岩で構成される明るくも険しい渓谷美で知られます。比較的短い流程のなかに、易しすぎず難しすぎない滝が連続し、シンボリックで興味深い見所が飽きることなく随所に散りばめられているのは嬉しいところ。何といっても大きな見所は、清冽な水流が迸るゴルジュの数々。「小川谷廊下」とわざわざ「廊下」と名前がついて紹介されるのは、清涼感溢れるゴルジュが連続するためなのでしょう。ゴルジュ内に飽きることなく続く手頃な棚(小滝)をグングンと乗り越えていく楽しさは、この渓の大きな魅力になっています。

丹沢にも少しずつ秋が訪れようとしている10月の平日。
今まで人気があるが故に何となく足が向くことがなかった「小川谷廊下」を訪れてみました。メジャーな渓であっても、さすがにこの気温のなか好んで沢に向かう人はいないでしょう。ハイシーズンも終わったので、誰にも会うことのない、とても静かな遡行を満喫することができました。

深夜の国道246号線をひた走り、道の駅山北で仮眠するのが西丹沢遡行の定番です。翌日は11時近くまで爆睡したのち、一路玄倉を目指します。
橋梁工事が行われている立間大橋を渡り仲ノ沢林道に入るも、わずか先のところで結構大掛かりな壁面工事が行われており、通過がためらわれるところ。穴ノ平橋の先林道終点まで進むこともできますが、工事関係者の方に申し訳ないので、幅広い路肩に駐車をして、そこからスタート。穴ノ平沢下降点までは約20分の距離でした。
下降点は穴ノ平橋手前200mほどのところ、路上に積まれたケルンが目印です。広場の先から踏み跡は急下降し、ちょっと危ない急斜面を降ります。そこから先は堰堤の梯子下り。水のなかを歩くようになるので、林道で入渓準備を済ませる方がいいでしょう。幾つかある堰堤を梯子で下ると、難なく小川谷本流へ。
出合は開けた河原になっており、青く澄んだ秋晴れの空が広がります。
本流に進路を取り、平凡な渓相を進むと、右岸から仲ノ沢が入り、いよいよ小川谷廊下に突入します。
まずは最初の2m滝(F1)。右から攀じ登りますが、上部はややハングしています。上がってみると、リング状の残置ロープが取り付けられていました。
続いてすぐ先に、大岩のある4m滝(F2)。大岩の右側にある残置ロープと倒木を頼りに越えるのがセオリーのようですが、んっ!?そんなものはどこにもないぞ...という状態。今夏には梯子がかけられていたという情報もありましたが、やはり当てには出来ないもの。上級者は左の水流に取り付き、水流中のスタンスを手がかりに、水流に落とされないように突っ張りで強引に突破するそうですが、この気温のなかいきなりズブ濡れになるのはちょっと勘弁。もしかするとF2が核心になってしまうかもしれません。いきなり敗退か...という事態に直面しましたが、冷静に周りを見渡し、左岸が巻けるように思えました。F1の残置ロープの辺りから斜面を這い上がりますが、何となく踏み跡があります。少し上から今度はトラバース。そうすると意外にも明瞭な踏み跡があり、植林の防護柵まで現れます。結局作業道を使ってトラバース。その先で急峻なルンゼ状をロープなしで下降するとF2滝上に降りられました。
次の6m滝(F3)は美しい石英閃緑岩を流れ落ちる斜瀑。手前の淵を腰まで浸かりながら渡り、左壁を難なく越えていくことができます。
しばらくナメ交じりの平凡な渓相を進むと、再びゴルジュへ。
立派な2段7mの滝はちょっと高度感のある登り。2段目はバンドに上がり、左に進んだ後、右上に上がります。水量が多いと厄介な滝かもしれません。この滝を登った右岸岩壁に遭難慰霊碑がありました。40年前に亡くなられたとても若い方のもの。慰霊碑は枯葉に埋もれていたので、きれいにしてから合掌。ご冥福を心からお祈り致しました。
その先はまたゴルジュとなり、左岸にペンキをぶちまけたような赤い岩が続く不思議なところ。赤い石は南アルプスなどでお目にかかりますが、赤い岩は初めて。地質学に造詣が深い方には興味深いところかもしれません。
そして平凡な渓相から、またゴルジュとなり、今度は5m滝が立ちはだかります。上級者は右壁の残置スリング2ヶ所を利用しへつって越えていくそうですが、私にはとても無理なので、躊躇なく右から巻きます。
スラブ状のゴルジュを越えると、裏見のできる3mヒョングリ滝へ。ここはあえて滝の下を潜ってみます。
そして現れる小川谷名物「大岩」。そのまんまの名前ですが、どでかいツルツルの大岩をロープを掴みながら、力任せに登るのは私も初めて。以前は助走をつけないと登れないとか言われたそうですが、今は比較的新しい立派なロープが下まで付けられています。アスレチックランドと化していますが、これだけ個性的な岩が沢中にあるのは大変珍しいのではないでしょうか。昔ロープが無かったときは一体どうやって乗り越えていたのか不思議でもあります。
大岩をゴボウで登り、しばらく進むといよいよ核心部石棚のゴルジュへ。
昔はこの辺りの淵ももっともっと深かったそうですが、今ではほぼ埋まってしまい、問題なく通過することができます。それにしても核心のゴルジュの美しさは実に秀逸。ちょうど陽が差し込み、清流が光り輝くように見えます。躍動する水の幻想的な動きがとても印象的でした。しかしこの辺りまでくると大分体も冷え込み、ネオプレーンの重ね着を余儀なくされてしまいます。
そして右岸から滴り落ちる大コバ沢を見送ると、小川谷の盟主である2段20m滝「石棚」が眼前に姿を現します。とても立派な滝で、紅葉真っ盛りのときに是非見てみたい滝でもあります。直登は不可で、右岸リッジをクライミングっぽく登ります。結構急峻ですが、フリーで難なく登ることができます。上部に残置ボルトがありますが、大分古いものでした。滝上までくるとちょうど陽がよく当たり、体が暖まります。ここまで飲まず食わずでまるで“沢ラン”のように突き進んできたので、よい機会なので大休止。滝上から眺めるゴルジュの美しさに時間を忘れてしまいました。
石棚の上では美しいコバルトブルーの釜が待っています。丹沢では非常に珍しい、透き通るような碧さに驚きをおぼえました。その先上流部へ進むと、やがて癒し系の渓相になっていきます。小デッチ沢、大デッチ沢を分けながら忠実に本流を辿ると、やがてフィナーレである石積堰堤が上に望める、最後の8m滝へ。右岸を慎重に小さく巻き、残置ロープで下降。結局今回自分のロープを使用することはありませんでした。
遡行終了点の目印とされるのが、半壊した石積堰堤。
昭和30年代に壊れたとされる堰堤で、まるで古代遺跡のようなインパクトがあります。自然界に存在する人工物には本来興味がないのですが、これだけ深い山のなかにこれだけ年数の経ったものが置き去りにされていると、不思議なロマンを感じてしまいました。
この先は今までとはまるで別世界の明るい広河原。長くゴルジュのなかを歩いてきたので、広い青空と色付きを待つ山々の緑が目に沁みるようです。東沢出合から右岸に上がると欅平とよばれる平地が広がります。もしも機会があれば一晩ゆっくりと焚き火を囲みたいところでもあります。
帰路は仲ノ沢径路を辿ります。この道は昔地元の方が欅平のワサビ田や植林のために行き来した作業道で、本来登山道ではないようです。植林のなか山腹をトラバースしていくルートなので格別風情はありませんが、踏み跡は極めて明瞭で、小川谷廊下遡行のみならずモチコシ沢遡行などの下山路として沢ヤ御用達になっている感があります。また東沢乗越から丹沢三滝の一つ“遺言棚”を訪れるための登路として利用されることもあり、晩秋初冬などに私も再度訪れたいと考えているところでもあります。

小川谷廊下は人気があるのも実に納得、とても素晴らしい美渓でした。
清流を眺めているだけで心が潤され、まるで童心に帰ったような気にさせられます。
とても水量豊富かつ、ダイナミックな千変万化の渓であるだけでなく、適度な遡行時間と難易度、そしてアプローチが至極便利で、厄介な詰めもなく、帰路の登山道も明瞭です。これだけの好条件が揃えば、盛夏に水と戯れるために多くの方が訪れるのは当然であり、その手軽さ故に大変人気があるのでしょう。
同じ条件の沢としては、奥秩父の名渓・竜喰(りゅうばみ)谷が思い浮かび上がります。森の美しさこそ竜喰谷に軍配が上がりますが、渓の美しさと面白さは小川谷の方が間違いなく上でしょう。首都圏日帰りの沢としては、まさに第一級のもの。
初級者に沢登りの楽しさを知ってもらうのに最適な渓であるだけでなく、大きな遡行を控えたベテランがトレーニングで訪れるのにも適していると思われます。目的はどうあれ、いつまでも多くの方が楽しめる渓として、その美しさを失わないでいてほしいものです。

なお「仲ノ沢林道(小川谷右岸林道)」は、7月1日から9月30日まで神奈川県公安委員会規制により、通行許可の無い車両の通行は禁止されており、夏のハイシーズン中は仲ノ沢林道入口(立間大橋手前)は閉鎖されます。10月からは通行可能ですが、立間大橋の橋梁工事は継続中で、その先でも壁面工事が大々的に行われているので、必ずしも林道終点まで行けるとは限りません。
また神奈川県HPによると、立間大橋では11月20日から24日まで(8:30~17:00)、塗替工事のため通行止めとなるようですのでご注意ください。

フォトギャラリー

小川谷廊下は清涼感溢れる丹沢随一の美渓です

幾つかの堰堤を梯子で下って小川谷本流(右)へ 雲ひとつない秋晴れでした

大岩のある4m滝(F2) 右側に残置と流木がなく、左岸を高巻きしました

石英閃緑岩が美しい6m滝(F3)

2段7m滝は水流を避けながら左壁を登ります

3回目のゴルジュに入ってすぐの4m滝

不思議な赤い壁のあるゴルジュへ

4回目ゴルジュにある5m滝 右壁に残置スリング2ヶ所 巻きは右から

3mヒョングリ滝 裏見をしながら右壁へ

名物の大岩 下までロープが垂れ下がっています ゴボウで大岩を登って3m滝上に出ます

メチャ冷たいですが、勢いよくバーッと飛び込んで、水流の右をパパッと登ります

石棚のゴルジュへ 5mクラスの小滝群を越えていきます

水の美しさに思わず滝を登る足も止まります

右岸から水が滴り落ちる大コバ沢出合

小川谷廊下の盟主である2段20m「石棚」

石棚上にある美しい釜 丹沢では珍しいコバルトブルーなのではないでしょうか

上流部は癒し系の渓相 やさしい小滝が続きます

最後の5m滝 上の壊れた石積み堰堤が終了点目印です

フィナーレは秋晴れの広河原へ 堰堤を越えると別世界になります

小川谷廊下は心を潤す素晴らしい渓です ネオプレーンを3枚着ています

・実際に行かれる際は、現地の最新情報をご確認ください。
・ご自身の技術や体力に合った無理のない登山計画で山を楽しみましょう。

この記事を見た人は次の記事も見ています

アクセスランキング

横浜西口店 - 登山レポート

同難易度の登山レポート

  • スタートナビ
  • おとな女子登山部