南アルプス 北精進ヶ滝を訪ねてみる ~ 凍てつく東日本最大の名瀑へ (鳳凰三山 地蔵岳北東面 大武川支流 石空川中流部)

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投稿者
伊藤 岳彦
横浜西口店 店舗詳細をみる
日程
2015年11月27日 (金)~
メンバー
単独行
天候
晴時々曇
コースタイム
精進ヶ滝林道終点駐車場(40分)滝見台(30分)北精進ヶ滝直下(20分)滝見台(30分)駐車場
コース状況
■ 精進ヶ滝林道の通行は問題なし 12/10より閉鎖
■ 遊歩道よく整備されています
■ 滝見台より先 踏み跡明瞭 赤テープ多数
■ ロープ、ハーネスは不要です
難易度
Google Map
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  • おとな女子登山部

感想コメント


Ⅰ.概要

北精進ヶ滝---東日本最大の名瀑と謳われる落差121mの大滝。
南アルプス鳳凰三山の一角、地蔵岳の北東面、釜無川に注ぐ大武川の支流石空いしうとろの中流部に位置し、日本の滝百選の一つにも選ばれています。



地蔵岳のドンドコ沢コースを歩かれたことがある方は、「南精進ケ滝」をご存知だと思います。この滝と区別するために北精進ヶ滝と呼ばれますが、本来精進ヶ滝しょうじがたきといえば、この北精進ケ滝を指すようです。
その昔鳳凰山を信仰する行者が大武川を遡る際、この滝で斎戒沐浴(神仏に祈願するために滝の水を浴びて身体のけがれを洗い流すこと)したことからその名がついたとされます。また精進は障子に通じ、大岩壁を表わす言葉でもあり、実際滝の両岸には花崗岩の大岩壁が聳え立ちます。



あまり多くの方が訪れる場所ではありませんが、付近は石空川渓谷と称される景勝地。渓谷沿いには樹木に覆われた遊歩道が整備され、入口駐車場から滝見台まで往路40分、復路30分とされます。
渓谷下部には「一ノ滝(魚止ノ滝)」「二ノ滝(初見ノ滝)」「三ノ滝(見返りノ滝)」があり、滝見台に到達して一気に視界が広がり、初めて「北精進ヶ滝」を眺めることができます。また大滝の少し手前には落差40mの「九段ノ滝」があり、末広がりの段瀑があたかも門番のように立ち塞がります。
個性的な数々の美瀑を従え、深閑とした奥地で大水量を落とす大滝。
滝見台からでもその堂々とした雄姿を遠望することができ、滝巡りをライフワークにしている方には大変好評であると聞きます。


↑ 滝見台より

南アルプス前衛の知られざる景勝地として一見の価値があるので、もっと多くのハイカーの方に知られてもよいような気がします。


Ⅱ.北精進ヶ滝へ

冬の到来がようやく肌に感じられるようになった11月末の南アルプス。
以前から関心のあった大武川流域で、来夏の遡行の下見をかねて、ちょっとした冒険ハイキング!?を楽しんできました。
下界は晴れているにも関わらず、雪雲がどんよりと横たわる地蔵岳や甲斐駒を遠くに見上げながら、国道20号から精進ヶ滝林道(県営林道精進ヶ滝線)を目指します。
ようやく冬らしくなり、山の上はそれなりの降雪が見られます。八ヶ岳にも大きな雪雲がかかり、金峰山もうっすらと白くなっていました。
精進ヶ滝林道には落ち葉が散乱していますが、崩落個所などはなく通行に支障はありません。見返り峠を過ぎると、道は平坦になり程なく遊歩道入口にある駐車場へ。
まずは滝見台を目指しますが、滝見台までの遊歩道歩きだけでは、登山レポートらしくないので、今回はそこから北精進ヶ滝直下(滝壺)まで進んでみるつもりです。途中渡渉することもあるかと思い、季節外れの沢装備をまとい、ビブラムの沢靴を履いてスタートします。

まずは石空川にかかる大きな吊橋を渡り、遊歩道に入ります。



落ち葉を踏みしめながら沢沿いを進むとやがて一ノ滝へ。



この先の連瀑には立派な橋がかかっており、梯子も整備されています。三つの滝を観賞しながら進むと、沢は一旦穏やかな渓相になり、「竜洗峡」と呼ばれるナメ床に。



水は清く澄みわたり、時折突風により落ち葉が盛大に舞い上がります。沢が左にカーブしていくともう遊歩道の終点滝見台です。バス停みたいなベンチがあり、ゆっくりと大滝を遠望できるようになっています。
滝見台からは適当に沢に降りて、九段ノ滝を訪れます。





この辺りは部分的に白砂が広がる美しい沢床。白砂の浜を従えて映える滝は大変立派なもの。もしも直登するなら、概ね2段になっており下段は右から簡単に登れそうですが、上段は傾斜がきつく落ち口の突破が難しそうな気がしました。
九段ノ滝は地形的にみて右岸の高巻きが妥当。適当に取り付いてみると、やがて赤テープに立派な踏み跡も現れ、矢印まで書いてあります。些か拍子抜けしてしまいましたが、豊富な赤テープが行き先を導いてくれます。



ルートファインディングの要素が全くないまま、落ち葉のトラバースを過ぎると踏み跡は下降し、まもなく大滝が眼前に現れます。



少し氷をまとった大滝は2段になっており、下段の最下部からでも十分観賞はできますが、折角なので上段の滝壺まで登ってみることにします。ここから先は渡渉を余儀なくされるので、沢靴が役立ちましたが、氷水の渡渉は冷たいを通り越して痛い!その上岩が濡れて凍っているので、結構しんどいものがありました。沢を渡って右の乾いたゴーロ帯に入れば、あとは攀じ登るだけとなります。






真下から望む大滝の巨大さは確かに凄いものがあります。落差121mと公称されますが、滝の測定は結構曖昧なものが多く、どこからどこまで測るのか決まりがないので、もっと落差は大きいような気がします。下段の滝を含めれば、一部で紹介されるように落差180mはありそうです。本当に東日本最大であるかは分かりませんが、実際一つ山を隔てた大武川一ノ沢にはアイスクライミングで有名な一ノ沢大滝150mもあり、探せばもっと大きな滝はどこかにあるような気がします。
それはともかく、大滝を前にしたときに抱く感情のカオスをいつも言葉でうまく表すことができません。
圧倒的な光景に言葉を失うだけなのか、只々その神々しさに畏怖の念を抱くのみなのか、あるいは何か底知れない漲るパワーを与えてくれることに感謝するのか。
震える寒さのなかでは、盛夏に感じるような爽快感や清々しさは得られませんでしたが、やはり自然に対していつも謙虚でなければならないということを改めて教えられたような気がしました。

誰しも秘密のお気に入りスポットというものがあるはず。
喧騒とは無縁で、寂寞としながらもそこはかとなく美しい場所。そして、自分を見つめ直すことができる場所。
北精進ヶ滝はそんなスポットとして心に登録しておきたい場所になりました。


ちなみに大滝より上の遡行を目指す場合は、左岸の大高巻きが容易だと聞きます。確かに左岸のガレの傾斜はそれほどきつくなさそうです。大滝より上は平凡な渓相の後、二俣となり、さらに大滝を抱く北沢と、厄介な連瀑の続く南沢に分かれます。地蔵岳へ至る面白いルートとして、充実した遡行ができそうなので、来夏是非チャレンジしてみたいと思っています。


Ⅲ.大武川流域

長大な黒戸尾根と静謐な早川尾根、そして地蔵岳より東に派生する尾根に囲まれる大武川流域は、なかなか現在の登山者には馴染みのない世界、言わば南アルプスの空白地帯といってもよい山域かもしれません。
唯一バリエーションとして、鳳凰三山の秘峰!?とされる離山北稜(地蔵岳北面)を辿るルートもありますが、やはりマイナーの域を出ることができません。
しかし、大武川流域にもかつて登山道が存在していた時代が確かにありました。
今でこそ北岳の登山口である広河原へは、当たり前のように南アルプス林道で入山することができますが、1957(昭和32)年に夜叉神トンネルから広河原まで南アルプス林道が開通するまでは、大武川が広河原へのアプローチとして利用されていました。白州町大坊から大武川に沿って登り、赤薙ノ滝を抱く赤薙沢を辿り、尾無尾根を登り詰めて広河原峠に至る登山道。古くから北岳に至る最短ルートとして古の岳人を迎えていましたが、1959(昭和34)年の台風によって廃道化したとされます。これ以外にも、かつては大武川本流沿いに仙水峠に至る登山道もあったようです。
魅惑の大滝が随所に存在するという点では、大武川は大変興味深い流域。先に紹介した「北精進ヶ滝」だけでなく、大武川本流に君臨する「六町ノ滝」、桑木沢の「黒戸噴水滝」(黒戸尾根刃渡り東面)、篠沢の「篠沢大滝」(黒戸山南東面)など、訪れるのは容易ではありませんが、滝巡りをライフワークにしている方には垂涎の流域といえるかもしれません。
もっともこの辺りは本格的な沢登りの領域。中級以上のコア(というかマニアック)な世界が広がりますが、人里から近いわりにあまりにもディープな世界を存分に体感する歓びを私たちに教えてくれます。仙丈ヶ岳の西側にある深大な三峰川源流域のように、大変なアプローチと困難を強いられる訳でもありません。比較的楽なアプローチで訪れることができる山域でありながら、我々の冒険欲を十分に満たしてくれそうです。
ちょうど2015年11月より日本登山体系が復刊されており、「第9巻南アルプス」は2016年1月に刊行されます。30年以上前の情報とはいえ、大武川流域の貴重な情報を入手しやすくなるので、来年以降もっと大武川に目を向ける方が増えることに一役担うかもしれません。
時代の変遷とともに、登山者が目を向ける山域も変わっていきますが、大武川流域のように、自然が再び原始の世界へと回帰を始めている世界にこそ、本当の登山の楽しみ方が隠されているような気がします。

フォトギャラリー

北精進ヶ滝は東日本最大の大滝!?

遊歩道は吊橋から始まります

一ノ滝からの連瀑帯は立派な吊橋と梯子で越えていきます

三ノ滝(見返りノ滝) 右に吊橋が架かります

竜洗峡と呼ばれる穏やかな渓相

滝見台から大滝を遠望します 下半分は九段ノ滝です

白砂の浜が美しい九段ノ滝

九段ノ滝は落差40m 上部は傾斜がきつそうです

大滝まで豊富な赤テープを頼りに明瞭な踏み跡を辿ります

眼前に迫る北精進ヶ滝の雄姿

氷水の渡渉は痛いです(><)

大滝下段は少し凍りついていました

大滝直下より見上げる 凄い迫力です!

落ち口をズームアップ

大滝を越える場合、左岸の大高巻きになります

北精進ヶ滝はまた訪れたいお気に入りスポットになりました

・実際に行かれる際は、現地の最新情報をご確認ください。
・ご自身の技術や体力に合った無理のない登山計画で山を楽しみましょう。

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