南アルプス 烏帽子岳初冬 ~ 三伏峠から塩見岳の大展望台へ
- 投稿者
-
伊藤 岳彦
横浜西口店
- 日程
- 2016年12月06日 (火)~2016年12月07日 (水)
- メンバー
- 単独行
- 天候
- 曇後晴
- コースタイム
- 鳥倉林道ゲート(50分)鳥倉登山口(180分)三伏峠(60分)烏帽子岳(45分)三伏峠(160分)鳥倉林道ゲート
- コース状況
- 本文をご参照ください
- 難易度
感想コメント
烏帽子岳初冬
厳しい冬を間近に控えた12月初旬の南アルプス。
三伏峠より一投足、塩見岳の大展望である烏帽子岳で荘厳な夕焼けを拝んできました。
南アルプス初冬の世界の美しさを感じて頂ければ幸いです。
2016/12/6(火) 曇後晴
鳥倉林道ゲート[8:54]…鳥倉登山口[9:34]…三伏峠[13:33]…幕営地[13:44/14:26]…烏帽子岳[15:32/16:15]…幕営地[17:10/21:05]…鳥倉林道ゲート[24:03]
烏帽子岳は塩見岳の大展望!
日本三大峠の一つ、南アルプス・三伏さんぷく峠(標高2,580m)。
塩見岳登山のベースとして夏はひとときの賑わいをみせるこの峠も、昨今の積雪期は訪れる人も稀なとても静かな峠へと姿を変えます。
アプローチとしては、歴史ある塩川ルートが林道沢井線の法面崩落のためここ数年完全通行止となっているので、鳥倉林道を利用するしかありません。
しかし鳥倉林道の通行も駐車場のある越路ゲートまで進入できるのは、例年12月中旬まで。
それ以降は野ヶ池上冬期ゲートまでとなってしまいます。
① 大鹿村の現在の道路状況についてはこちらをご覧ください
② 大鹿村の村内冬期閉鎖路線一覧についてはこちらをご覧ください
12月初旬のこの時期、まだアプローチとして利用できる鳥倉林道を辿り、三伏峠から烏帽子岳へ登ってきました。
かなり健脚の方であれば、初冬期2泊3日で塩見岳に登ってくることは可能ですが、1泊2日で三伏峠周辺で遊んでくるだけでも、雪山登山の良いトレーニングになるものです。
三伏峠から仰ぐ塩見岳の展望はとても素晴らしいもので、深田久弥曰く「この峠からの塩見岳は天下一品である」と評しているように、昔から旅人や岳人の心に残る風景であったことがうかがえます。
しかし折角ならば峠からさらに東に足を延ばし、烏帽子岳で大展望を恣にするのもオススメ!
三伏峠の東に鎮座する烏帽子岳は、標高2,726m。無雪期ならば小1時間ほどの登りです。
縦走路上の一ピークとしてそんなにネームバリューはありませんが、塩見岳の展望台としては最高のロケーション!
当然森林限界を越えているので、大井川中俣を隔てて巨立する塩見岳の大観を目の当たりにすることができ、南に目を転じれば、小河内岳の彼方に荒川三山や赤石岳など南アルプス南部の高峰を雄大に望むことができます。
この烏帽子岳、あまり知名度は高くはありませんが、北アルプスの烏帽子岳よりも高い!蝶ヶ岳・爺ヶ岳・唐松岳よりも高い!のです。
日本山名辞典で調べてみると、全国で41もある烏帽子岳の中で一番標高が高いのが、“南アルプスの”烏帽子岳だということが分かります!
個人的にはこの烏帽子岳はもっとメディアに取り上げられ、初級者向け雪山登山の好ルート、或いは積雪期1泊2日の南アルプス入門として紹介されてもよいような気がします。
手頃なラッセルを経験できるルートとしてもオススメできるでしょう。
また三伏峠には、昔ながらの三伏峠冬期小屋も健在。テント泊に不安のある方は利用させていただくのもよいと思います。
三伏峠まで淡々と登る
夜間の鳥倉林道を慎重に運転し、前夜は越路ゲート前の駐車場で仮眠。
途中林道中間部において舗装工事が行われており、立て看板によると 【12/22まで通行規制 8:30~17:00】 とのこと。
帰りはどうしようかなと思いながら、眠りにつきます。
翌朝は生憎の空模様でしたが、予報によると夕方には天気が回復しそう。
運が良ければ烏帽子岳の山頂で夕日が見れそうです。
まずは駐車場から鳥倉登山口まで1時間ほどの林道歩き。
↑ まずは林道歩きから
完全舗装の林道に雪は全くなく、秋枯れといった感じ。
途中の橋がスケートリンクと化しているときもあるのですが、今回は労せず登山口まで辿り着くことができました。
林道終点から登山道に入ります。
↑ 鳥倉登山口
ここから三伏峠までは約3時間。
変化のない単調な樹林帯の登りを黙々とこなします。
↑ 最初はカラマツ帯の登り
途中に○/10と書かれた看板があるので、よい目安となります。
↑ 4/10 ここでアイゼン装着
雪は総じて少ないですが、4/10から上の登山道は凍結しています。
ここでアイゼンを装着し、グングンと登っていきます。
↑ 段々と雪が深くなっていきます
塩川ルートの分岐まで来れば、三伏峠まではあと僅かの登りです。
↑ 塩川ルートの分岐 立入禁止状態
塩川ルートは既に完全な廃道扱いで、歩いたことのある方も非常に少ないと思われますが、本来はこのルートこそが三伏峠や塩見岳への王道登山ルートでした。
私が塩川ルートを初めて歩いたのは、もう20年以上前のこと。
遠い昔の夏休み、南アルプスの懐に独り入ることにワクワクしながら、林道終点の塩川小屋まで季節運行の伊那大島駅発バスに揺られて入ったことが今では良い思い出となってしまいました。
ちょっと歴史を紐解いてみると、このルートは明治時代の幻の道と言われる「伊奈街道」の一部。
明治19年に開通した当時は、大鹿村大河原から塩川を経て三伏峠を越え、大井川西俣を沢沿いに下降し、二軒小屋へ。さらにその先伝付峠を越えて甲州新倉(田代入口)まで道がつながっていたそうです。
この街道を利用し、伊那谷から身延山へお参りに行く人もいたようですが、元々の目的は伊那谷に駿河の海産物を運ぶためのもの。
しかし保守管理が大変困難であること、加えて国鉄中央線が開通したことを理由に、この道は存在意義を失って僅か数年で街道としては利用されなくなったと言われます。
さらっと書き連ねると簡単なように思えますが、現代人の感覚では今ここを歩いたら大変な山旅になってしまいます。
塩川ルートも4年程前は通年樺沢ゲートまで車で進入可能でしたが、現在は村道沢井線の復旧の目処は立っておらず、塩川へ徒歩で通行することもできないことになっています。
塩川ルートは樹林帯の長い急登が続く楽ではない道でしたが、歴史ある道としてとても歩きやすいルートでした。
このまま人知れず朽ち果てていくのは仕方がないにしても、また一つ歴史あるルートが人々の記憶にも残らず消失していくことに一抹の寂しさを感じてしまうのは私だけでしょうか。
善悪は別として、経済効果と利便性をひたすら追求し、自然破壊と表裏一体のアプローチが造られていくことが当然のこととなり、そこに我々は疑問を抱くことさえせず、「楽に登れる山」を愉しむことがスタンダードになってしまっているとしても、その山の歴史を知るとともに、古人の足跡を振り返り、その息遣いを想像することを忘れないでいたいものです。
話が大きくそれてしまいました。
分岐からは登山道をジグザグにゆっくりと登っていきます。
↑ 空が明るくなってきました
三伏峠小屋200歩手前に看板があります。
↑ ここまで来ればあと少し
久しぶりの三伏峠はとても静か。
青空が時折垣間見えますが、依然として深いガスが立ち込めています。
↑ 深閑とした三伏峠小屋
↑ 冬期小屋もあります
今回はテント泊のつもりでいたので、小屋を素通りし、もう少し先の開けた場所まで下っていきます。
↑ 森が深くなっていきます
↑ 分岐点
↑ 烏帽子岳方面のトレースはありません
分岐を過ぎてさらに下り、きれいな雪のある開けた場所で今回は幕営。
樹林帯の中ではきれいな水が作りにくいので、意外と場所選びには神経を使います。
三伏峠のテン場といえば、今は小屋のすぐ近くですが、その昔は三伏沢の源頭にありました。
沢沿いのとても気持ちのよい場所でしたが、大腸菌の問題があったのでしょうか、幕営禁止となってしまったのがとても残念です。
そういえば素泊まり専用の三伏小屋というのもありました。確か¥3000だったように思います。
その時の古き良き記憶があるからなのでしょうか、何となく三伏沢近く(といってもこの時期は全て雪に覆われていますが......)で幕営したくなってしまうのです。
烏帽子岳でたそがれる
テントを設営し、荷物を整理したらすぐに出発。
↑ 青空が見え始めました
当然ワカンを持ってきているのですが、膝まで潜るところはそんなにありません。
結局今回ワカンを使用することはありませんでした。
↑ それほど雪は深くありません
夏道ルートも何となく分かるので、登路に迷うことなく順調に高度を上げていきます。
↑ 塩見岳が見えました
冬の三伏峠には何度か訪れていますが、塩見岳を見ることができたのは実は今回が初めて。
それだけに感慨深いものがありました。
↑ 烏帽子岳も見えました
↑ その名の通り端正な姿をしています
南側が切れたったところもありますが、特に危険個所はありません。
ダイナミックな雲の動きに心を奪われながら、モナカ雪のなかをガンガン突き進んでいきます。
↑ 頂上直下
ほとんどラッセルの苦労もなく、無事に登頂。あとは雲が切れるのを待つだけです。
↑ 凍り付いた道標
山頂は風も冷たく、かなりの寒さ。
しかし雲が大きく東に流れていくと、次第に視界が広がっていきます。
↑ 塩見岳が見えました①
↑ 塩見岳が見えました②
南部は依然雲のなかですが、北部は視界が開け、大展望が広がっていきます。
↑ 仙丈ヶ岳を望む
↑ 間ノ岳を望む
↑ 黄昏の南アルプス北部
↑ 最後に富士山が見えました
荒川三山や赤石岳が見えなかったのは残念ですが、体も冷え切り、段々と暗くなってきました。
名残惜しくも下山を開始します。
↑ 烏帽子岳を振り返る
↑ 自分のトレースを辿ります
↑ 帰路南部の山々が見え始めました
↑ 南アルプス南部を望む
黄昏の南アルプス雪嶺はえもいわれぬ荘厳な美しさ。
強烈な寒気に身をさらすことは避けられませんが、苦痛を上回る歓喜があります。
雪山で見る夕焼けは、雪面が紅く燃え上がるひと時が儚いが故に感動的なのかもしれません。
今冬もまだ見たことのない美しさを求めて、自分なりの雪山に登ることができればよいと思っています。
最後までご一読いただき、有難うございました。
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