谷川連峰屈指の名渓 湯檜曾川本谷 ~ 王道の超絶美渓を巡る珠玉の沢旅
- 投稿者
-
伊藤 岳彦
横浜西口店
- 日程
- 2018年08月22日 (水)~2018年08月23日 (木)
- メンバー
- 単独行
- 天候
- 晴
- コースタイム
- 白毛門登山口駐車場(120分)武能沢渡渉点(30分)白樺沢出合(55分)十字峡(30分)抱返り滝下(60分)七ツ小屋沢出合(120分)2段40m大滝下(100分)二俣(5分)池ノ窪沢出合(50分)稜線登山道(30分)清水峠(280分)白毛門登山口駐車場
- コース状況
- ※ 本文をご参照ください
- 難易度
感想コメント
湯檜曾川本谷
湯檜曽川本谷は谷川連峰屈指の名渓にして、沢の王道。
個性的な美瀑群と変化に富んだナメ・瀞・釜が幾重にも連なる雄大なスケール感は秀逸です。
夏空きらめく晴天の下、沢登りの醍醐味を十二分に味わうことができました。
2018/8/22(水) 晴
白毛門登山口駐車場[7:22]…(途中仮眠)…武能沢渡渉点[10:31]…白樺沢出合[11:17]…十字峡[12:12/12:27]…抱返り滝下[12:54]…七ツ小屋沢出合[13:51]…2段40m大滝下[15:48]…二俣[17:32]
2018/8/23(木) 晴後曇
二俣[9:45]…池ノ窪沢出合[9:50]…稜線登山道[10:39]…清水峠[11:10]…白毛門登山口駐車場[15:54]
■ 夏空の川歩き
眼下に望む湯檜曾川の悠然とした流れを目にすると、いよいよあの先の世界へ行けるというワクワク感が心に広がっていきます。
↑ 湯檜曽川を見ながら
過去に十字峡まで遡ったことはありますが、毎年のように天候に恵まれず、これまで本谷遡行を完遂する機会を逸していました。
台風が近づいていますが、初日の天気は問題なく、明日の夕方まで天気はもちそう。
この絶好の機会を逃さず、ようやく湯檜曾川本谷にチャレンジすることができました。
深夜の関越道をひた走り、明け方に白毛門登山口駐車場まで。
いつもなら昼まで寝ないと行動できないのですが、今日は眠気よりも“湯檜曾川本谷へ早く行ってみたい”という気持ちが非常に強い。
一睡もせずに歩くことはもはやできない、と思っていただけに自分でもこの心理状態は驚きです。
登山に必要なものは、経験・技術・知識・お金・時間など色々なものがありますが、一番大事なものはやはり“気持ち”。
好奇心と言い換えてもいいかもしれません。
“あの世界へ行ってみたい”という強い気持ちが何よりも大事なことであると、今更ながら気づいたように思います。
湯檜曽川は谷川本峰から一ノ倉岳、蓬峠、清水峠、朝日岳、白毛門へと連なる、いわゆる“馬蹄形”に連なる山稜の中央を南下し、湯檜曽で利根川に合流する大渓流。
右岸に本邦屈指の岩場であるマチガ沢・一ノ倉沢・幽ノ沢・堅炭かたずみ岩が屏風の如く広がり衆目を集めますが、西黒沢・東黒沢・白毛門沢・ゼニイレ沢・大倉沢・抱返り沢・芝倉沢・白樺沢・袈裟丸沢などの支流をもち、近くてよいバリエーションの場を提供してくれます。
武能岳から流下する武能沢を渡ると、新道は白樺尾根に取り付き、旧道と合流して清水峠や蓬峠へと至りますが、武能沢出合から湯檜曽川に下ると、魚止滝下に立つことができ、本谷の遡行はここから始まります。
湯檜曽川本谷は、沢登りの面白さが凝縮されていると謳われる、谷川連峰屈指の名渓。
上越らしい開豁な谷筋のなか、大滝、ナメ、瀞、釜、淵が随所に散りばめられ、沢を愛する者を魅了してやみません。
魚止滝にはじまり、ウナギの寝床、十字峡、アナゴの寝床、抱返り滝2段20m、大滝2段40mなど、壮大なゴルジュのなか百花繚乱の美瀑がめくるめくように現れ、その荘厳な造形美は記憶に深く残るものとなります。
湯檜曾川を訪れる際のアプローチは、川沿いの新道を使います。
上部に並行するように、明治初期の遺産とも言える旧道(旧国道)もありますが、新道の方が古いのはよく知られるところです。
⇒ 清水越道の歴史概略はこちら
武能沢渡渉点に着いたのが10:30頃。
駐車場からここまで、“眠くなったらその場で眠る”を繰り返してきたので、3時間もかかったことになります。
しかし眠気もなくなり、テンションも程よく上がってきました。
これならよいコンディションで怪我なく遡行ができそうです。
通常湯檜曾川本谷遡行は、ここ武能沢渡渉点から始まります。
↑ 武能沢渡渉点
武能沢を5分ほど下降すると湯檜曾川本谷に出ることができます。
本谷ですぐ6m魚止滝が現れますが、過去に来たことがあるので今回はパス。
渡渉点から登山道を少し上がったところに、ゴルジュ上の広河原へ通じる踏み跡があるので、ショートカットすることにしました。
↑ 踏み跡入口にケルン?
踏み跡と言っても必ずしも明瞭ではありませんが、ゴルジュ内に出ないように、瀑音の強弱で沢との距離を推し量りながら下降ポイントを探します。
上手く進めば明瞭な下降路を辿り、平凡な河原へ降り立つことができます。
今回はここで入渓準備を整えました。
↑ 入渓点
夏の青空が広がる河原歩きは気分爽快。
水温は少し高めですが、水は清く澄んでおり、テンションも一気に上がります。
因みに右岸にビバークできそうな場所がありますが、整地された箇所は少なく、快適な幕営地とは言えない感じ。
↑ ビバーク適地?
タクティクスとして、ここをベースに空身で本谷遡行を試みるのもありですが、増水すれば一発アウトの場所なので、天気次第というところでしょうか。
さて本日も遡行開始!
最初は穏やかな河原歩きから始まります。
やがて左岸から白樺沢が出合います。
↑ 白樺沢出合
白樺沢は20分ほど先にある両門ノ滝で袈裟けさ丸沢を分けますが、どちらも登攀的な日帰り遡行が楽しめる美渓として知られます。
今回は本谷遡行。しばらくは雄大な川歩きが続きます。
やがて現れる最初の2m滝。
↑ 2m滝
左から登ると、滝上には広々とした一枚岩が広がっています。
↑ ちょっと昼寝します
続く幅広3m滝は左から。水温が低いときは左岸巻きでしょう。
↑ 幅広3m滝
↑ 続いて2条3m滝
滝上はすり鉢状の河原となります。
↑ すり鉢状の河原
↑ 名もない枝沢
この先で渓は90°右へ曲がります。
↑ 右へ曲がると……
【ウナギの寝床】
「ウナギ淵」と表記する文献もあります。
両側がほぼ垂直に立ち上がった釜は、泳ぐこともでき、左岸を巻いていくこともできます。
↑ 左岸巻きは容易
↑ 徐々に下がって再び渓へ
■ 絶景十字峡
ここからしばらくは明るいゴルジュが続きます。
渓はここで今度は左へ90°曲がります。
↑ 水量豊富な8m滝
↑ 正面は涸れ滝15m滝
↑ 8m滝は左壁を登ります
滝上は一転して広々とした空間。
↑ 広々とした空間
続いて3段25m滝が眼前に現れます。
↑ 優雅な3段25m滝
この辺りはヌルヌルした苔があり、スリップ注意。
細かいスタンスを頼りに、右側を登ります。
↑ 続く3m滝を超えると……
【十字峡】
正面には天へと続くような大連瀑が大迫力で遡行者を圧倒します。
初めてここを遡行した先人は、
これを登るのか!?
と驚愕したことでしょう。
正面に見えるのは、実は抱返り沢という支流の多段100m滝。
登山体系では出合いの大滝55mと記されています。
↑ 出合いの大滝を見上げる
抱返り沢は、朝日岳より西に派生する支尾根に詰め上がる急峻な渓。
登攀的な沢登りを好まれる方には大変興味深いルートになりそうです。
またここは大倉沢が2条8m滝をもって出合うところ。
↑ 大倉沢も出合います
大倉沢は朝日岳を源頭とし、核心部に大滝40mをもつなど、充実した渓相が魅力の渓です。
十字峡と呼ばれるのは、本流と抱返り沢と大倉沢の位置関係によるもの。
黒部渓谷下ノ廊下にある十字峡のように、スッキリとした十字ではありませんが、個性的な沢が交差する自然の造形美は独特な美しさに溢れている気がします。
本流はここで再び左に90°曲がり、ダンジョンのようなゴルジュがさらに続いていきます。
↑ 十字峡にて記念撮影
■ 抱返り滝は迫力満点
ここからはU字のゴルジュとなります。
↑ 十字峡から先へ
この辺りは釜と流れが交互に続くので、
【アナゴの寝床】
と呼ばれるそうです。
ちょっと厄介なトイ状小滝がありました。
右岸に残置スリングがあるので、右岸越えかと思いきや、ツルツルで傾斜もあるので重い荷物を背負っての通過ができません。
↑ 右岸の様子
結局諦めて左岸を攀じ登ることに。
サックを先に放り上げて、空身で強引に這い上がって突破しました。
↑ ここを登りました
その先は「アナゴの寝床」ゴルジュの出口。2段8m滝です。
↑ 2段8m滝
右岸がバンド上になっているので、バランスよく越えていきます。
↑ 右岸の様子
↑ その先も淵
↑ ここも右岸を歩きます
↑ エメラルドグリーン
そしてこの先で忽然と現れるのは、ハイライトの一つ、
【抱返り滝】
2段20mの大滝は大水量で迫力があります。
↑ 抱返り滝2段20mの雄姿
渓はここで再び測ったかのように、右へ90°曲がります。
さて登路は左。ちょっと飛沫を浴びながらまず中段まで上がります。
↑ 抱返り滝下段は左から
↑ 水に迫力があります
上段は左壁のスラブを登るのが一般的のようです。
↑ 上部スラブ
しかし重荷を背負ってのスラブ突破はいささか不安。
ラバーソールに履き替えるのも面倒なので、安全第一の高巻きを選択しました。
↑ 高巻きは凹状の草付へ
最初は明瞭だった踏み跡もすぐに不明瞭となりますが、あまり上に行かないように意識しながら、上手にトラバースをして、ドンピシャで落ち口へ。
無駄な筋力を使わずに上手く高巻くことができました。
↑ 踏み跡は最初明瞭
↑ 落ち口へ
■ 開豁なナメを歩く
ここからは両岸が草付きのV字斜面となり、ナメと釜が連続する美しい渓相。
顕著な滝はしばらく出てきませんが、もはや言葉のいらない、癒しの世界が続きます。
やがて3条10m滝が現れます。
↑ 3条10m滝が見えてきました
↑ 美しい3条10m滝
登路は左のチムニー(=煙突の意。岩壁の縦の裂け目で、人が入れるぐらいの幅があるもの)。
↑ 登路は左のチムニー
足場はしっかりとしているので、見た目ほど難しくはありません。
岩の挟まった上のトンネル?が出口ですが、少しはみ出た岩を攀じ登るのがちょっと厄介でした。
↑ 途中下を振り返る
↑ トンネル?内は平ら
↑ 落ち口から
■ 美瀑競演
3条10m滝を過ぎると、2条4m滝が本流にかかる七ツ小屋沢出合へ。
ここまでで初日の遡行行程の約半分となります。
↑ 七ツ小屋沢出合
沢床が本谷より低く、間違いやすいところなので注意が必要。うっかり直進しないように気を付けなければなりません。
↑ 本流にかかる2条4m滝
↑ 本流をさらに先へ
↑ トイ状の滝
出合より20mほど進むと、水門岩があります。
↑ 珍しい水門岩
本流が増水するとここから水が溢れだし、階段状の滝となって隣の七ツ小屋沢へと水が流れ落ちるとのこと。
増水しているときを見計らって、どなたかが調べたのでしょうか。
↑ 水門岩より下を覗く
因みに階段状の岩の中には平らな一枚岩があるのが分かります。
好天ならばここでビバークするのも面白いと思ってしまいました。
ここからは様々な滝が競演するかのように現れます。
↑ この滝は左岸巻き
↑ ありふれた幅広滝
↑ 左から容易に上がれます
↑ 水が美しい
↑ 立派な8m滝
左のカンテを登るという文献もありますが、ここは無理せず右岸巻き。
↑ 踏み跡明瞭です
やがて水流中を渡るルートをもつ10m直瀑が現れます。
↑ 10m直瀑
『東京起点 沢登りルート120』(山と渓谷社/初版2010年)によると、“右壁を登るパーティーが多いようだが、きわどい登攀を強いられる”とのこと。
↑ 右壁の様子
“ここは右壁から斜上バンドに沿って水流中を左壁に移り、左壁を直上して越える。斜上バンドで全身ズブ濡れになるが、右壁を直上するより簡単だ。高巻きは不可。(2008年調査)”と記述があるように、一般的には水流中の斜上バンドをトラバースするのでしょう。
↑ 斜上バンド
いくら三重防水にしてきたとはいえ、なるべくザックをズブ濡れにはしたくないので、私もまず空身で斜上バンドを歩いてみました。
↑ ここを突っ込みます
なるほどズブ濡れになりますが、空身ならば容易に左壁を直上できそうです。
しかし戻って、ふと左岸を見ると、あれっ?高巻きの踏み跡らしきものが……。
↑ 高巻きの踏み跡?
何年もの間に多くの方が強引に高巻きしているうちに、踏み跡ができてしまったのでしょうか。
試しにザックを背負って、踏み跡を辿ってみると……。
↑ 高巻きできるんだ
上に登りすぎると笹の中で足が踏ん張れなくなるので、トラバースする箇所は注意が必要です。
結局、高巻き可。ザックを濡らさずに10m滝を越えられることが分かりました。
ちょっと拍子抜けした感じで、淡々と先を進むと、沢は右にゆるやかに曲がっていきます。
カーブするところで、右岸より枝沢が20m大滝をもって出合います。
↑ 右岸枝沢にかかる大滝
そういえば、カーブする辺りの左岸に、ビバークできそうな平地がありました。
↑ ビバーク可?
その先で個性的な赤茶けた壁の2段滝が現れます。
↑ 円形釜をもった2段滝
下段6m滝は左から、上段10m滝は右から登れるそうですが、一般には左岸の高巻き。
↑ 高巻き中
踏み跡は幾つもあるようですが、どれも不明瞭。
要領として少し高めに巻き、傾斜の少しでも緩いところを見つけて、滑り台下降したら滝上に出ることができました。
↑ 滝上は再び穏やかな渓相
■ 大滝を越えて
いよいよ今日のハイライト、大滝2段40mが見えてきました。
↑ 大滝が見えた!
しかしその前に、立ち塞がる何気ない小滝。
↑ 意外な難所です
完全な泳ぎを強いられる深い釜を携え、ツルツルで掴みどころのない岩で構成されています。高巻き不可。
パーティーであれば、ショルダー(=肩を踏み台にすること)などで協力して突破することになるのでしょうが、単独遡行の場合はこういう“最初の足掛かりがない場所”が難所となります。
常套手段の“倒木立てかけ”や“ハンマー投げ”もここでは無理。
小さなとっかかりを使って、乗り越えるしかありません。
左壁に人差し指が引っかかるくらいの穴が幾つかありますが、それらが唯一の手がかり。
最初ザックを背負ったまま、穴に指をかけてみましたが重すぎて登れず……。
次に、チコハンマーのピックを穴にかけて、上体を上げることはできましたが、やはり重すぎて登れず……。
結局空身で何とか這い上がった後に、ズブ濡れのザックをスリングで引っ張り上げることでようやく突破。
↑ ここ登りました
ハイライトの前にHP(体力)を大量に消費してしまいました。
さて大滝です。
【2段40m大滝】
↑ 大滝の全容
まずは下段の階段状を登り、中段のテラスまで。
ホールドは豊富で、容易に登ることができます。
↑ 下段は階段状
↑ 登りながら
↑ 中段のテラスへ
ここから上段の水流沿いの直登は不可。
↑ 大滝上部
面白いことに中段テラスの右岸に細い水量の枝沢が流れ込んでいます。
↑ 中段に流れ込む枝沢
テラスから枝沢の右手にある側壁を見上げると、残置ピトンが2ヶ所。数mはなれています。
↑ 残置ピトン
エキスパートはこの側壁を直上するのでしょうが、私にはちょっと無理。
行き詰ったかに思いましたが、ここで登山体系に書かれていた“左にトラバースしてバンドの切れた所から直上”という文言を思い出しました。
なるほど、枝沢をトラバースして左端を登ればそんなに難しくなさそう。
↑ ここを横切るように斜上
濡れた重いザックを背負ってもフリーで登れそうでしたが、ここは安全を考え、空身で登った後、20mロープでザックを引き上げる作戦を選択。
水流のトラバースもそんなに危なくはなく、左端の直上も容易。
ロープによるザックの引き上げもうまくいきました。
あとは、草付と灌木の境を大滝の落ち口に向かってトラバースするだけ。
しかし、夢中だったのか必死だったのか、細かい写真を撮るのをすっかり忘れてしまいました……。
■ 二俣が遠い
大滝を越えてホッとしたのか、疲れがドッと出てきました。
もうすぐエスケープにも使える峠ノ沢出合に着くはず。
『東京起点 沢登りルート120』(山と渓谷社)によれば、峠ノ沢出合下に幕営適地があるとのこと。
よい幕営地であれば、そこで行動終了としたいところです。
しかし……。
↑ どこにも幕営地がない?
見落とした可能性もありますが、どうも安心して泊まれる場所を見つけることができませんでした。
そのうちに峠ノ沢出合に到着。
↑ 峠ノ沢出合
峠ノ沢は名前の通り、清水峠に突き上げる枝沢。
エスケープに最適で、主に日帰りで湯檜曾川本谷を遡行する際に使われることが多いようですが、かなりハードな行程であるような気がします。
こうなったら仕方がないので、確実な幕営地のある二俣まで足を伸ばすことにします。
二俣まで約1時間。気持ちを切り替えてリスタートです。
峠ノ沢出合を過ぎて、さすがに源頭の趣きを見せ始めますが、依然10mクラスの滝が幾つか現れます。
まだ登らせるんですか?
という感じですが、怪我をしないように集中力を高めなければなりません。
↑ この滝は右から越えました
やがて次のエスケープとなる池ノ窪沢出合に到着。
↑ 池ノ窪沢出合
ここまで来れば、二俣はもうすぐ。
倒れそうになるほどではありませんが、さすがにクタクタです。
↑ 二俣に到着しました
時刻は17:30。
誰にも会うことはなく、この日は10時間行動したことになります。
擦り傷ひとつなく、ここまで無事に来ることができてホッとしました。
さて幕営地ですが、沢より少し高いところに程よい平地があります。
↑ 幕営適地
完全に整地された真っ平な場所ではありませんが、ビバーク地としては極上のもの。
きっと多くの方が利用されたところなのでしょう。
近くに小さな焚火跡もありました。
一番奥に“熊の糞”と思われる物体があるのはちょっといただけませんが、見なかったことにして今宵はここで過ごすことにしました。
↑ フライなしです
【コラム】 沢中泊
沢登りはとにかく軽さが一番重要ですが、私は基本沢中泊ではテント本体だけを使用することにしています。
もちろん夜半雨が降りそうであれば、フライシートを持参することもあります。
因みにテントは、アライテントの“トレックライズ0”を年がら年中、厳冬期の南アルプスでも使用しています。
過去にはツエルトやタープ、或いはゴロ寝で過ごしたこともありますが、やはり季節によっては風邪をひくリスクが高い(=明け方身体が冷えるのが怖い)ので、やはりちょっと重くてもテント本体を携行します。
いつもいつも盛大な焚火ができるとは限りません。
雨中のゴロ寝を、ネオプレーンを3枚重ね着して、頭の部分に折り畳み傘を広げて、乗り切ったこともありますが、いい思い出とは言えないものです。
あと、遡行ルートによっては初日に多くの泳ぎを強いられ、それが水温の低いところであると、身体の消耗具合が半端ないものになるので、夜に身体を温められる環境が必要となります。
例えば奥秩父・荒川源流域の入川や滝川の本流遡行では、唇が青くなることさえあります。
こういうときは体の内部を温める効能がある葛根湯が欠かせません。
何にしても、日常生活に戻ったときに、良いコンディションを維持していることが大事だということなのではないでしょうか。
■ 稜線へエスケープ
翌朝目が覚めると時刻は9:00。
私は山で時間に束縛されるのがイヤなので、基本的に“何時に起きる”とかは考えなくなってしまいました。
同様に“何時に食べる”“何時に寝る”もできません。
そんなことはともかく、空は今日も晴れ上がっていますが、近づく台風の影響で非常に風が強いです。
おそらく夕方には雨となることでしょう。
さて、詰めですが……。
ここまで来たら普通2時間ほどかけて朝日岳へ忠実に右俣を詰めあがるのがセオリー。
因みに本流は右俣で、名称もゴボウ沢に変わるようです。
また左俣で藪漕ぎなしで稜線登山道に出ることもできるそうです。
しかし、下山路を考えると、朝日岳→笠ヶ岳→白毛門の稜線縦走よりも、清水峠から旧道&新道のほうが、アップダウンが少ないだけでなく、沢が多く横切るので水筒を空で歩くことができます。
という訳で、二俣から一番清水峠近くに詰め上がることができる池ノ窪沢が一番便利。
もう絶景はおなか一杯なので、台風接近を言い訳に、池ノ窪沢を詰めることにしました。
↑ 二日目も晴天 しかし強風です
5分ほど下流に進めば、池ノ窪沢出合です。
↑ 昨日も通った池ノ窪沢出合
池ノ窪沢に関する遡行データは調べてこなかったのですが、何とかなるでしょう!という感じ。
出合付近は藪がひどく、ちょっと厄介ですが、まもなく沢は普通に開けてきます。
幾つか小滝もありますが、問題はありません。
↑ 所々藪に覆われています
↑ 幾つかの小滝がありました
最後は水も涸れ、上越らしい結構な藪漕ぎを強いられます。
堅い笹の藪漕ぎはとても大変。南アルプスのハイマツ漕ぎ以上です。
↑ 上越の藪漕ぎは大変です
それでも藪漕ぎは時間にして15分ほど。
突如登山道に飛び出し、歓喜の雄叫び!?をあげます。
ウオー!道だ!
あとは真夏の谷川連峰の美しさを感じながら平坦な登山道を歩けば、出発点に戻ることができます。
↑ 清水峠を望む
帰路万感の思いを込めて湯檜曾川本谷を見下ろしたとき、人生でそう何度も味わうことのできない、とてつもない充実感が沸き上がってくるのを感じました。
気分転換や心のリセットなどでは表現できない、寛容な心持ちで満たされた感じ。
今なら『汝の敵を愛する』ことさえできてしまうかもしれません。
湯檜曾川本谷はまさに聞きしに勝る名渓。
日本に生まれて本当に良かったと思ってしまいました。
もちろん、上を見ればキリがありません。
湯檜曾川本谷にしても大きな地理でみれば、利根川の一支流に過ぎず、利根川本谷のスケールの荘厳さは想像を絶するものなのでしょう。
しかし現在の自分の身の丈に合った遡行ルートとしては、湯檜曾川本谷はおそらく上位に位置するもの。
これからも「あの世界に行ってみたい」という好奇心を大切にしながら、日々研鑽に努めたいと思います。
最後までご一読いただき、有難うございました。
※ 画像サイズはスマートフォンで見やすい大きさに設定してあります。
※ 滝表記については、『沢登り銘渓62選』(山と渓谷社/初版2016年)を参照させて頂きました。
フォトギャラリー
・実際に行かれる際は、現地の最新情報をご確認ください。
・ご自身の技術や体力に合った無理のない登山計画で山を楽しみましょう。