奥秩父の美渓 大常木谷 ~ 多摩川源流域随一の深山幽谷へ (飛龍山南西面 一之瀬川支流)

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投稿者
伊藤 岳彦
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日程
2016年06月27日 (月)~
メンバー
単独行
天候
コースタイム
大常木谷出合下降点(15分)一之瀬川入渓点(15分)大常木谷出合(30分)五間ノ滝(30分)千苦ノ滝下(50分)山女魚淵(40分)早川淵(10分)不動滝(55分)御岳沢出合(20分)会所小屋跡にて遡行終了(115分)竜喰谷遡行終了点(130分)大常木谷下降点
コース状況
本文をご参照ください
難易度
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  • おとな女子登山部

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 大常木谷



多摩川源流域随一の美渓と謳われる大常木谷。
奥秩父らしい深山幽谷の趣のなか、美瀑と深淵で彩られたゴルジュを無心で越えていく陶酔感は他では味わうことができないものです。
梅雨の晴れ間、太古さながら人跡未踏の谷にて、奥秩父の森の深さと美しさに心を奪われる遡行を楽しんできました。



総画像数130枚でお送りする深山幽谷の美の極み。
手つかずの自然が紡ぐ渓の美しさを感じて頂ければ幸いです。




2016/6/27(月) 曇

大常木谷出合下降点[10:30]…一之瀬川入渓点[10:43]…大常木谷出合[11:00]…五間ノ滝[11:32]…千苦ノ滝下[12:03]…山女魚淵[12:56]…早川淵[13:40]…不動滝[13:49]…御岳沢出合[14:42]…会所小屋跡にて遡行終了[15:01]…竜喰谷遡行終了点[16:54]…大常木谷下降点[19:04]





目次


  • Ⅰ 大常木谷遡行

  • Ⅱ 概要と案内




  • Ⅰ 大常木谷遡行


    1 遡行

    大常木谷へは3年振りの再訪。
    その時は濡れ鼠になり、満足のいく写真を撮ることができなかったので、今回は良い記録を残したいという思いがありました。
    多摩川源流域を訪れるときは、「道の駅たばやま」で仮眠するのが定番。
    朝の強い陽射しによって浅いまどろみから目を覚まします。
    この日は梅雨の晴れ間。雲がやや多いですが、天気はもちそうです。
    青梅街道から一ノ瀬林道に入り、大常木谷下降点より100mほど下にある駐車スペースまで。
    谷に下降する前、林道より大常木谷を対岸に大きく望める場所があります。
    山の深さを実感し、再訪とはいえ身の引き締まるような思いがします。


     ↑ 林道より大常木谷を望む

    尾根を切り取ったような小さな広場が大常木谷下降点の入口。
    駐車スペースは1台分しかありません。
    「山火事防止」の看板が目印になるでしょうか。


     ↑ 大常木谷下降点の入口


     ↑ この看板が目印になるでしょうか


    【↓】 大常木谷出合まで

    まずは一之瀬川に降り立つために、急峻な踏み跡を辿ります。
    傾斜のあるヤセ尾根ですが、踏み跡は明瞭。
    入渓点まで一気に急下降します。


     ↑ 踏み跡明瞭です


     ↑ 一之瀬川が見えてきました

    梅雨時ですが、前日も晴れていたので増水している感じはありません。
    平水で水温も普通。これなら順調に遡行することができそうです。


     ↑ 入渓点

    一之瀬川で入渓し、大常木谷出合までは15分ほど川を下降することになります。







    下流部は険悪なゴルジュで知られる一之瀬川本流も、大常木谷出合より上は非常に穏やかな渓相。
    ナメ床に広がる白い絨毯を淡々と踏みながら、ゆっくりと川を下降していきます。








     ↑ 大常木谷出合が見えてきました


    【↓】 序盤の渓相

    大常木谷出合は穏やかな雰囲気ですが、山の深さを何となく予感させるものに満ち溢れています。
    出合付近には一部植林があるそうですが、ここから先は人の手が一切入っていない太古さながらの森に足を踏み入れます。


     ↑ 大常木谷出合の様子


     ↑ 水がとても澄んでいます


     ↑ 序盤はとても穏やかな渓相

    大常木谷にはたくさんの淵とともに、心癒される静かな水の流れが多いのも特徴の一つ。
    透明に澄んだ泉のような空間を歩く感覚はとても不思議なもの。時折魚影が走ります。


     ↑ 心癒される水の流れ




     ↑ ふと見上げると緑がとてもきれいです







    しばらく進むと、大ダテと呼ばれるガレ沢の出合(だと思います)。
    大規模な崩落地となっており、釜をもった小滝がかかります。
    ここは左岸の固定ロープを利用し、上手にトラバースしなければなりません。
    ガレている右岸を巻くこともできそうですが、倒木が厄介。こちらは時間がかかりそうです。


     ↑ 大ダテ出合は大規模な崩落地


     ↑ 釜をもった小滝


     ↑ 左岸の固定ロープを利用します


     ↑ 釜をへつりながら進みます

    その先は倒木のかかる5×8m滝。
    左側は口を開いたような岩が、ちょっと怖い雰囲気を醸し出しています。
    ここは倒木を利用して滝に取り付き突破します。左岸巻きは容易です。


     ↑ 倒木のかかる5×8m滝


     ↑ ちょっと怖い雰囲気


     ↑ その先もゴルジュが続きます


     ↑ 五間ノ滝が見えてきました


    【↓】 五間ノ滝を越えて

    やがて現れる序盤のハイライト、五間ノ滝8m
    暗いゴルジュのなか、忽然と姿を見せる瀑には何か大きさ以上の威圧感があります。
    ルートは右。大きな釜を少し泳ぎを交えながらへつり、水流の右脇を直登しなければなりません。
    大常木谷遡行では山女魚淵での泳ぎが避けられないので、今回はザック内完全防水で臨んでいます。
    積極的に釜を泳いで滝に取り付くと、少しシャワーを浴びながら右壁を直上。
    ホールド、スタンスともに豊富にあるので、恐怖感を感じることなく、快適に登ることができます。

    【↓】 五間ノ滝






     ↑ 泳ぎを交えながらへつります


     ↑ 右壁を直登します


     ↑ 少しシャワーを浴びます


     ↑ 滝の途中より見下ろす


     ↑ 上部の様子


     ↑ 年代物の残置支点


     ↑ 滝上より見下ろす

    五間ノ滝を越えると、切り立ったゴルジュのなか、ナメ滝や釜、淵などが交互に現れ、変化に富んだ渓相を見せてくれます。


     ↑ 五間ノ滝上は再び穏やかな渓相


     ↑ 見た目以上に深い淵があります


     ↑ 左をへつりながら進みます


     ↑ 名もないナメ滝が美しい






     ↑ 何気ないところに水の美しさを感じます


     ↑ 右を巻き上がります


     ↑ 再び静かな流れ 魚影が走ります


     ↑ 深い淵はへつって進みます


     ↑ 渓が大きく左に曲がります


     ↑ 緑の映えるナメ滝


     ↑ 右岸からヤシキ窪が出合います


     ↑ なにやら大きな瀑音が......

    渓は先で左に90°曲がっていますが、大水量が落ちる瀑音が聞こえてきます。


    【↓】 千苦ノ滝を越えて

    千苦ノ滝25mは大常木谷の核心の一つ。
    下部ゴルジュの出口に位置し、勢いよく水流を集約して落とす美瀑です。
    宗教がかった苦しそうなネーミングに反して、格調高い優美さが感じられます。
    エキスパートは左壁を直登しますが、一般的には左岸の大高巻き。
    高度感のあるトラバースとなりますが、踏み跡は明瞭で、固定ロープもあり、高巻きとしては至れり尽くせり感があります。

    【↓】 千苦ノ滝








     ↑ 滝下の空間














     ↑ 左壁全容


     ↑ 左壁上部の様子


     ↑ 落ち口から見下ろす


    【↓】 高巻きルート

    平水でも充分に迫力のある大滝を堪能した後は、高巻きで越えることにします。


     ↑ 高巻き全容


     ↑ まずは右へ斜上


     ↑ 続いて直上


     ↑ 今度は左にトラバース


     ↑ ルンゼ状のトラバース


     ↑ ロープに引っかからないように注意します


     ↑ 切れ目を渡る箇所は慎重に


     ↑ 落ち口への下降は容易


     ↑ 落ち口に抜けることができます

    千苦ノ滝を越えると、また少し渓相は穏やかとなり、ゴルジュのなか淡々と先を急ぎます。














    【↓】 山女魚淵を越えて

    渓は佳境を迎え、中流部のゴルジュ帯へ。
    山女魚やまめは泳ぐことを避けられないとても深い淵です。
    初めてここを訪れたときはまだ足のつかないところへ突っ込むことに恐怖感があり、6Lのプラティパスを膨らませて、浮き輪代わりにし、ヌンチャクでハーネスに連結するとか、おかしなことをしていましたが、浜松勤務時代に鈴鹿の神崎川での泳ぎを経験したおかげで、何の抵抗もなく泳ぎ出すことができるようになりました。
    左岸に残置スリングがいくつかありますが、ホールドのないトラバースとなるので、ここは積極的に泳いで突破したいところ。
    日本登山体系には右岸高巻きとありますが、以前はもっと大きく深い淵だったのでしょうか。
    確かに右岸に古い残置ロープが見られますが、下降が急峻すぎるので、現実的ではないように思えます。

    【↓】 山女魚淵






     ↑ 泳ぎます


     ↑ 右岸に固定ロープがありますが......

    最後滝に這い上がるところに、以前は長いロープが垂れ下がっていましたが消失していました。
    増水時はどうなるか分かりませんが、平水であればバランスよく滝の右脇を越えれば問題ありません。


     ↑ 壁際をトラバースします


     ↑ 渓はここで右に90°曲がります


     ↑ 不思議な色の岩がありました


     ↑ 深い淵が続きます


     ↑ 倒木サーカスで越えます








     ↑ 大きな釜をもつ小滝


     ↑ 右岸巻き容易です


     ↑ 澄み切った水が印象的でした


     ↑ 崩落地にある小滝


     ↑ 早川淵は右岸を簡単に巻けます




     ↑ モミジ沢出合


    【↓】 不動滝を越えて

    大常木谷後半のハイライトは不動滝2段5m・7m。
    深山幽谷に彩りを添える美しい連瀑です。
    下段5mは右側を、上段7mは左側を登ります。
    ただ上段は最後が立っているので、通常は右岸の枝沢を上がり、懸垂下降で沢に戻るのが一般的。
    ここは技量に合わせて無理なく、突破したいところです。

    【↓】 不動滝





    まずは下段5mを右から登ります。ホールド充分ですが、上部のナメは岩に掘られた?穴がガバの役割を果たしてくれるので、バランスを保持できますが、これがないとちょっとキツイかもしれません。自然にできたものなのか、先人が掘ったものかは分かりませんが、とてもありがたいホールドでした。


     ↑ 右壁の様子


     ↑ 岩に開いた穴がありがたい

    下段を越えると、上段が全容を現します。
    左を登れそうにも見えますが、無難に右岸を巻いてしまいました。


     ↑ 上段7mの全容


     ↑ 左岸はルンゼ状になっています


     ↑ 左壁の様子①


     ↑ 左壁の様子②


     ↑ 滝の落ち口


     ↑ 残置支点がありました

    右岸の高巻きは容易。枝沢はホールド充分で、簡単に上まで上がれます。
    立派な木が何本もあるので、支点には困りません。
    懸垂下降するなら20mロープがあれば充分でしょう。
    ふと先に何となく踏み跡が伸びているので、試しに進んでみると、少し距離はありますが、崩れやすい土の斜面に下降路を発見。
    不動滝上段は懸垂下降でないと降りられないと思い込んでいましたが、ライトウェイト&スピード重視ならロープ不要で突破できてしまうことが分かりました。


     ↑ 右岸の枝沢を上がります


     ↑ 懸垂下降地点 上から見下ろします


     ↑ 下から見た様子


     ↑ 残置支点に時の流れを感じます


     ↑ 先にある下降路の様子

    不動滝を越えると、もう大きな瀑はありませんが、しばらくきれいなナメ床が続きます。
    右岸支流であるカンバ谷出合を過ぎると、今までのゴルジュが嘘のように開けた谷となり、やや冗長なゴーロ状の河原歩きとなります。
    右岸には大きな台地が広がっており、素敵な幕営適地が多数。
    泊まるなら会所小屋跡が一般的ですが、幕営地には事欠きません。








     ↑ カンバ谷出合


     ↑ 上流部はゴーロ状の河原歩きとなります


     ↑ 素敵な幕営適地①


     ↑ 素敵な幕営適地②


     ↑ さらに上流へ


    【↓】 大常木林道にて下山

    やがて会所小屋跡にある石垣が見えてくると、今日の遡行も無事終了。
    会所小屋は1970年代まで造林小屋として多くの方が働いておられたそうです。
    増水にも容易に耐えられる高台のうえ、きれいに整地されたとても快適な幕営地。
    時間に余裕があれば、一夜の夢を預けたいところです。


     ↑ 石垣が見えたら遡行終了


     ↑ 会所小屋跡は素敵な幕営適地

    帰路は東京都水源林巡視路である大常木林道を辿ります。


     ↑ 大常木林道にて下山します

    この道は地図に記載はないものの、苔の緑をはじめ原生林の美しさを堪能できる素晴らしいルート。
    水源林を守るという使命と歴史の重さがひしひしと感じられます。
    幾つか崩落箇所もあるものの、石垣や木橋で比較的よく整備されているのが分かります。


     ↑ 崩落箇所が随所にあります


     ↑ 歴史の重さを感じるルートです

    太右衛門尾根など幾つもの枝尾根を乗っ越す度に視界が開け、また深い森に道が戻っていきますが、その明と暗のバランスがとても絶妙でした。
    特にシナノキノタルで乗っ越すモリ尾根は誰も歩くことのない雄大な尾根。
    大常木谷と竜喰谷を分ける堂々たる体躯が印象に残りました。
    またシナノキノタルと竜喰谷遡行終了点の中間地点辺りに、とても美しい苔の自生地があります。
    荒川源流域では瑞々しい多くの苔を見てきましたが、多摩川源流域のそれは何か熟成されたような感をもつ気品のあるもの。
    これほど質の高い苔が見られるところはそうあるものではありません。


     ↑ 苔の美しさに魅了されます

    竜喰谷遡行終了点である木橋のあるところまで来て、約半分。ここまで2時間弱です。


     ↑ 竜喰谷遡行終了点を横切ります

    ここから先は2週間前、竜喰谷遡行の帰りにも歩いたところ。
    本来ならゆっくりと森の美しさを愛でながらのんびり歩きたいところですが、もう夕闇が迫ってきています。
    暗くならないうちに早歩きで幽玄の森を一気に駆け抜けました。




    2 遡行を終えて

    首都圏近郊にこれだけ美しい自然が太古の姿のまま残っているものなのか。
    大常木谷はそう瞠目させられるほどに大変美しい渓でした。
    泉のような浅い流れと迫力ある大滝が紡ぐ静と動の世界。
    ゴルジュのなか交錯する光の陰影。
    熟成されたような苔の緑が生み出す森の深み。
    淵の底まで見通せるような澄み切った清流。
    あらゆる雑念が取り払われ、ふと気づくと『きれいだな』と独り呟いている記憶。
    ただ無心で滝を登り、深い釜を泳ぎ、渓を飛び歩く無の境地。
    それらが全て、手つかずの自然のなかに存在するが故に、本当に美しい自然とは何なのか、それを訪れた者に示してくれる希少な渓であるというのは言いすぎでしょうか。
    人の手が加えられた自然があまりにも当たり前になっているからこそ、美しい自然とは“ありのままの姿”のことを意味するのかもしれない。
    大常木谷を再訪し、今回そんなことを考えてしまいました。




    Ⅱ 概要と案内




    1 多摩川

    多摩川は奥秩父主脈縦走路上の笠取山南面にある水干みずひを水源とし、柳沢川・泉水谷・滑瀞谷・後山川・小袖川・小菅川・日原川・大丹波川・秋川などの支流を合わせて東進する一級河川。
    源流部で一之瀬川、奥多摩湖上流部で丹波たば川、下流で多摩川と呼び名を変えていきます。
    言うまでもなく、多摩川は東京都民の水道水として重要な役割を果たしてきました。
    その水源地帯は奥多摩のみならず、奥秩父や大菩薩の山々にもまたがり、東京都水道水源林として大切に保護され、現在でも大常木林道など地図に掲載されることもないような水源巡視路が人知れずきちんと整備されています。
    多摩川源流域の小菅村・丹波山村・一ノ瀬地区(笠取山南面)は行政的には山梨県に属しますが、その大半が東京都水道局の管理する水道水源林であることは広く知られています。
    江戸時代までは徳川幕府領ながら地域住民が山に入り、概ね良好な森林経営がなされていましたが、明治以降国や皇室の管理下に置かれると地域住民が山に入るのに様々な制約が入り、源流域の森林の荒廃が著しく進行。
    渇水や濁水が頻繁に発生し、憂うべき状況となってしまいました。
    明治中期になりようやく、時の東京府は1901(明治34)年に水源地の荒廃を憂い、小菅村の森林などを皇室から譲り受けて、自ら経営を開始します。
    そして1909(明治42)年、当時の東京市長尾崎行雄は、多摩川の荒廃した水源地帯を5日間に渡って踏査。「東京市民の給水の責務を負っている東京市が、水源林の経営を行うべきである」として、一帯を買収して水源の涵養を自ら行うことを決断。
    その後、これを契機として、荒廃した水源地帯が東京市の管轄に入るとともに、植栽や崩壊地の復旧事業など積極的な施策が功を奏し、水道水源林として今日みられるような見事な森林が形成されるようになりました。
    まさに給水百年の計の樹立。
    今我々東京都民が安心して暮らせるのは、尾崎行雄のおかげであると言っても過言ではなく、その先見の明は感嘆と敬服に値します。


    2 多摩川源流域の沢登り

    沢登りの観点から多摩川源流域を見てみると、遡行価値の高い秀渓が幾つも谷を刻んでいることが分かります。
    丹波より西へ数キロのところにある滑瀞なめとろには、支流に幻の大滝を抱く火打石谷と、「置草履の悪場」を核心とする登攀的な小常木谷
    大菩薩北面を流れる泉水谷の一大支流には、4段40mナメ滝を抱く大渓流小室川谷
    そして大水量との格闘を余儀なくされる一之瀬川本流には、人跡未踏として太古の自然の姿を今に伝える大常木谷と、曲り滝など数多の美瀑を抱く竜喰谷
    まさに豪華絢爛と呼ぶに相応しい美渓のオンパレード。
    なかでも大常木谷は多摩川源流域随一の美渓として謳われる素晴らしい谷なのです。


    3 大常木谷

    “多摩川源流域随一の美渓”と謳われる大常木谷は、奥秩父を代表する名渓の一つ。
    奥秩父主脈縦走路の一角、飛龍山の北西に位置する大常木山を水源として南進し、一之瀬川に注ぎます。
    スケールと山深さでは一つ上流の竜喰谷をも凌駕し、深山幽谷の極みを垣間見ることができます。
    見所は五間ノ滝、千苦ノ滝、山女魚やまめ淵、早川淵、不動ノ滝と続く下流から中流にかけてのゴルジュの美しさ。
    名のある美瀑と戯れ、深い淵を泳ぐ爽快感は何物にも代えがたいもので、首都圏近郊でこれだけの山の深さを体感することができる渓は他にはないと言っても過言ではありません。
    前半部の暗く険しいゴルジュ帯を抜けると、後半部は穏やかなゴーロ状の河原歩き。
    変化に富んだルートはやや長いものの、清流が織り成すめくるめく風景はきっと心に刻み付けられることでしょう。
    山岳ガイドの山田哲哉さんはその著「奥秩父 山、谷、峠そして人」のなかで、

    “大常木谷は、出合付近に一部だけ植林の痕跡を残すものの、人の手の入った形跡を一切残さない縞模様の岩肌を見せる素晴らしい谷だ。そして、多摩川水系のほかのすべての谷が伐採、堰堤などの影響から逃れられなかったなかで、奇跡の谷との思いを強く持っている。”

    と絶賛されています。

    日帰り強行軍でトライするならば、会所小屋跡まで遡行、水源林巡視路である大常木林道で下山するのが常道。
    時間に余裕があるならば、会所小屋跡で一夜の夢を預け、翌日奥秩父主脈稜線まで忠実に渓を詰めるべきですが、ここは時間や天候を考慮し、無理のないプランで遡行を楽しみたいところです。
    沢慣れた方のなかには、竜喰谷を下降に利用される方もおられます。
    多摩川源流域の沢中泊遡行としては、泉水谷支流小室川谷と並ぶ双璧の好ルート。
    連休があった場合などには、是非選択肢に入れて頂きたいと思います。



    4 アプローチ

    【交通機関利用】

    JR奥多摩駅またはJR塩山駅からタクシーを利用するしかありません。

    【マイカー利用】

    青梅街道(国道411号線)から一ノ瀬林道に入り、大常木谷出合の下降点まで。
    一ノ瀬林道はよく舗装されていますが、道幅狭いのですれ違いに注意。
    大常木谷出合の下降点付近に数台分の駐車スペースがあります。


     ↑ 下降点より100mほど下の駐車スペース


     ↑ 下降点には1台分の駐車スペースしかありません



    5 大常木林道

    大常木谷遡行のエスケープに使われるのが、大常木林道。
    一般的な地図には掲載されていない東京都水源林巡視路です。
    青梅街道にある余慶橋を起点とし、岩岳尾根を登り、ハシカキノタルから岩岳尾根の西側をトラバースして、大常木谷に降り立ち、会所小屋跡を経て、更に西へ、モリ尾根をシナノキノタルで越し、狢むじなの巣を経て三ノ瀬に至るルート。
    水源地帯の標高1500mのラインに作られており、かつて東京市が大正から昭和初期にかけて伐採と植林(一部の人工林の手入れと整備)のために築いた林道で、この道自体は昔丹波と一ノ瀬を結ぶ古道であったようです。
    林道の一部、とりわけ竜喰谷を越えて大常木谷に至り、岩岳尾根に登り返す間は、一切の伐採や人の手の入っていない多摩川水系唯一の自然が残された貴重な場所。
    1970年代には大常木谷の御岳沢出合い上流には会所小屋と呼ばれる立派な造林小屋があり、多くの人々が生活していたと言われます。
    沢ヤでなくとも、奥秩父の森の深さを堪能するルートとして、本当に山が好きな方には知っておいて頂きたいルートです。


    6 立ち寄り湯の情報

    ご参考にして頂ければ幸いです。

    丹波山温泉のめこいの湯(木曜休)の情報はこちらをご覧ください




    最後までご一読いただき、有難うございました。

    ※ HTMLを使用したレポート掲載については許可を得ております。




    フォトギャラリー

    不動滝2段5m7m

    五間ノ滝8m

    千苦ノ滝25m

    千苦ノ滝の落ち口

    名もない美瀑

    ゴルジュ帯を進みます

    ゴルジュ内の小滝

    穏やかな一之瀬川本流

    心癒される瀞

    下流部のゴルジュ

    深山幽谷の趣

    澄んだ淵に魚影が走ります

    山女魚淵を泳ぎます

    大きな釜をもつ小滝が沢山あります

    苔の深みが違います

    大常木谷はとても美しい渓でした

    ・実際に行かれる際は、現地の最新情報をご確認ください。
    ・ご自身の技術や体力に合った無理のない登山計画で山を楽しみましょう。

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