奥秩父の名渓 豆焼沢遡行 (雁坂嶺東面 滝川支流)

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投稿者
伊藤 岳彦
横浜西口店 店舗詳細をみる
日程
2015年05月21日 (木)~
メンバー
単独行
天候
コースタイム
国道140号「出会いの丘」駐車場(70分)トオの滝(90分)4段50m大滝下(80分)両門の滝(60分)登山道(10分)雁坂小屋(180分)出会いの丘
コース状況
■高巻き主体の遡行です。
■懸垂1回のみ。30mロープで十分でしょう。
■アプローチの杣道はよく踏まれています。
■両門の滝手前にビバーク適地。薪少なめ。
■水温やや低め。
■魚影見られませんでした。
■「出会いの丘」売店なし。トイレのみ。
■7/1~11/30 雁坂トンネル無料
難易度
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感想コメント

奥秩父北面を代表する険谿「豆焼沢」。
高低差1500mを約4kmで駆け降る急峻な沢で、日本三大峠の一つ雁坂峠を見下ろす雁坂嶺(2,289m)を源とし、東進して滝川本流に注ぐ秀逸の美渓として知られます。
1998年雁坂トンネル開通によって最も甚大な影響を受けた沢であり、「ホチの滝」真上に雁坂大橋が架かるなど、トーガク沢出合より下流はまさに「死の谷」へと変貌を遂げてしまいましたが、上流部の連瀑の美しさは今以て健在。
見所は、ホチの滝・トオの滝・4段50m大滝といった美瀑の堂々たる容姿と、両門の滝から続くスダレ状のナメ滝群の目を見張る美しさです。
自然の造形に畏怖する感覚と、癒される感覚がそれぞれ強烈に心に刻まれる、荒川水系屈指の名渓と言っても過言ではないでしょう。
かわいらしい名前に反して、その名の由来は物哀しいもの。
その昔、二人の旅人が冬にこの沢に迷い込み、最後の糧である豆を焼いて食べた方だけが猟師に助けられたという逸話からくるそうです。
通常日帰り強行軍の方が多いようですが、釣師を避けた遅い入渓で、深い森に抱かれながら焚き火を見つめる夜を堪能するのも一興。
薪集めには難儀しそうですが、大滝上にはビバーク適地がいくつかみられます。
完全遡行を目指すならば出会いの丘よりワサビ沢を急下降して豆焼沢へ入渓するべきですが、雁坂大橋に気分を害されてしまう方や、時間に余裕がない方は、トオの滝まで続く立派な杣道を利用し下流部をショートカットすることも可能です。
今でも演習林従事者の方が利用される道なので意外に良く整備されています。
トーガク沢より先はごく一部荒廃がみられますが、危険箇所はなく、アプローチとしては十分に使えるルートです。
数々の美瀑とナメ滝の饗宴に酔いしれた後は、詰めらしい詰めもなく、雁坂小屋の取水場で遡行終了。
帰路は黒岩尾根道を利用した快適な下山で出会いの丘へと戻ることができます。

爽やかな初夏のような一日、久方ぶりの奥秩父で、新緑きらめく癒しの遡行を満喫してきました。
前半のハイライトは「豆焼の大滝4段50m」。
奥秩父には他にもっと落差のある滝がありますが、大水量を落とす直瀑とも違い、4段に分かれ、最後2条に迫力ある白い飛沫を迸らせるこの大滝の美しさはまさに芸術的!この滝を見に行くだけでも十分価値はあるでしょう。
そして後半のハイライトは「両門の滝」とその右俣につづく「スダレ状の50m大ナメ滝」。
両門の滝は珍しい左右非対称の大滝で、左俣の2段15mの滝がよいアクセントになっています。
登路である右俣50m大ナメ滝は適度な傾斜があり、とめどなく飛び散る白い飛沫の絨毯の上をゆっくりと登ると心が洗われるような気がします。
その優美な美しさはあまりにも幻想的。癒し系遡行の真骨頂がここにあるといっても過言ではないでしょう。

帰路は快適な黒岩尾根道を駆け下ります。
この道は長らく廃道だったものですが、国道140号豆焼橋の出現によって2000年に復活再建されたルート。
本来は滝川の豆焼沢出合に至るものでしたが、現在は林道も開発され、豆焼橋へと安全に導いてくれます。
途中黒岩付近より望む水晶谷の巨大排気口が目に付きますが、実はこのルートは手つかずの美しい原生林が広がる素晴らしい登山道です。
非常に歩きやすく、展望はないものの清々しい森林浴を堪能できるので、ランナー系の方や、ハイキングから少しステップアップを考えている方にもオススメです。初めてのテント泊で雁坂小屋を目指すのもよいでしょう。


径(みち)なき渓を辿る旅には冒険の要素が大なり小なりあり、どんなに小さな遡行であっても、未知の世界を独力で乗り越えていく楽しみがあります。
自分の身の丈に合った一つの冒険をクリアしたときの達成感は、やはり何物にも代えがたいものです。
日頃知らず知らずのうちに背負い込んでいる有形無形のプレッシャーを雲散霧消させ、 頭の中を全くの空っぽにしてしまいますが、心をとても豊かなものに再生してくれる気がします。
豊かな心があれば、毎日笑顔で働くことができます。
シンプルですが、とても大事なことなのかもしれません。

奥秩父の渓はやはり素晴らしい。
とりわけ滝川水系は水量豊富ながら谷がとても深いので、近年は訪れる人も稀な山域です。
雁坂トンネルの開通があったとはいえ、豆焼沢上流部や滝川本流の原始性は失われてはいません。
原生林の深い森と豊富な清流が織り成す渓谷美は、どれだけ人間による開発の魔の手が伸びようと、その本質は変わらない気がします。
そう感じるのは、雁坂越えのような甲州武州往来の長い歴史のなかに脈々と残る古人の息遣いや痕跡が優しい風景のなかに隠されているからなのかもしれません。
10代の頃は全く分りませんでしたが、奥秩父はとてもディープな世界。そのことをようやく今になって強く感じることができるようになりました。
深さを知れば、より深みにはまるもの。
今夏はできる限り、滝川本流だけでなく、さらには入川流域を訪れ、森の深さを自分なりに感じてみたいと思います。

フォトギャラリー

豆焼沢は見所満載の名渓です

トオの滝より入渓しました

姿のよい小滝が続きます

小さいながら端正な柾小屋滝

スダレ状の美瀑 マイナスイオン全開です

新緑の美しさに目を奪われながら穏やかな渓を辿ります

清流に心が洗われます

小粒ながら立派な6m滝

4段50m豆焼の大滝は大迫力!

大滝下部 奥秩父屈指の名瀑です

大滝上では連瀑が続きます

姿のよい4段20m滝

光射すミニゴルジュを越えていきます

上流部の爽快なナメ滝

両門の滝 左俣は2段15m 右俣はスダレ状50m

心癒されるナメ滝をゆっくり登っていきます

水の流れの美しさに思わず足が止まります

快晴の新緑遡行ほど気持ちの良いものはありません

最上流部の連瀑帯を越えていきます

帰路、豆焼橋より豆焼沢を仰ぎ見る

・実際に行かれる際は、現地の最新情報をご確認ください。
・ご自身の技術や体力に合った無理のない登山計画で山を楽しみましょう。

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