秘境中の秘境 魚野川本流 ~ 紅葉燃ゆる超絶美渓を旅する(志賀高原 野反湖北西 中津川源流)

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投稿者
伊藤 岳彦
横浜西口店 店舗詳細をみる
日程
2016年10月18日 (火)~2016年10月20日 (木)
メンバー
単独行
天候
晴時々曇
コースタイム
野反湖駐車場(260分)魚野川入渓点(150分)高沢出合(75分)黒沢出合(200分)小ゼン沢出合(20分)幕営地(30分)庄九郎大滝(25分)幕営地(140分)五三郎小屋(200分)野反湖駐車場
コース状況
本文をご参照ください
難易度
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  • スタートナビ
  • おとな女子登山部

感想コメント





 魚野川本流



秘境中の秘境を流下する大渓流・魚野川本流。
ブナとミズナラの原生林のなか、美瀑とナメ床が迎えてくれる癒しの美渓です。
紅葉が渓の美しさを際立たせる10月下旬、珠玉の沢旅を満喫してきました。



紅葉燃える超絶渓谷美が広がるディープな世界。
癒しの大渓流の美しさを感じて頂ければ幸いです。




2016/10/18(火) 曇後晴

野反湖駐車場[8:11]…地蔵峠[8:50]…渋沢吊橋[12:10]…魚野川入渓点[12:28]…千沢出合[12:54]…桂カマチ[12:59]…箱淵入口[13:11]…イワナの棲む淵[13:53]…高沢出合[14:53]…幕営地[15:05]


2016/10/19(水) 晴時々曇

高沢出合幕営地[9:01]…大ゼン[9:09]…ナマリ岩[10:06]…黒沢出合[10:16]…カギトリゼン[11:40]…イワスゴゼン[12:25]…ヘリトリゼン[13:01]…小ゼン沢出合[13:35]…幕営地[13:55]…庄九郎大滝[14:21]…幕営地[14:53]


2016/10/20(木) 晴時々曇

幕営地[6:48]…ネジレゼン[6:58]…白草沢出合[7:35]…詰めの枝沢出合[8:10]…五三郎小屋[9:05]…野反湖駐車場[12:32]




目次


  • Ⅰ 魚野川本流遡行

  • Ⅱ 概要と案内




  • Ⅰ 魚野川本流遡行


     念願の大渓流へ

    群馬・長野・新潟の県境近く。
    標高2,000m級の山々に囲まれ、湖面の標高が1,513mあることから「天空の湖」と賞賛される野反湖
    関東屈指とされる自然の宝庫であり、人造湖ながら、湖畔ではニッコウキスゲやレンゲツツジなどの高山植物が咲き乱れ、湖にはニジマスやイワナが放流されています。
    周囲は原生林で囲まれており、その眺めは通常のダム湖とは違い、一見するとまるで自然湖のよう。
    登山口としては、200名山である白砂山や、外輪山一周コースの起点となっており、さらに上信国境稜線の登山道である奥志賀縦走路は志賀高原に通じています。
    また周囲には遊歩道もあり、遊歩百選にも選ばれているそうです。
    まさに群馬県が誇る絶景スポットであり、キャンプやハイキングのベースとしてもっと知名度が上がってもよいような気がします(※ 群馬・長野・新潟の県境に位置しますが、住所は群馬県吾妻郡中之条町で、実質的には群馬県にある湖とされます)。

    野反湖から秋山郷まで、魚野川渓谷のトレッキングルートを歩いたのは、もう随分前のこと。
    マイナーながら黒部渓谷の下ノ廊下を彷彿とさせる渓谷道として知られ、昭文社エアリアマップには小黒部的な趣きがあると紹介されています。
    野反湖から地蔵峠を越え、長いトラバースを経て、渋沢ダムまでグングンと下降した後、眼下に広がる渓谷美に心奪われつつ、遠くに秘峰・鳥甲とりかぶと山を望みながら歩く珠玉のルート。
    この部分は国道405号の不通区間、いわゆる点線国道(開かずの国道)にもなっています。

    魚野川という秘境中の秘境を流れる大渓流があることを知ったのはその時だったように思います。
    源流は登山道を離れ、千沢を分けた後、渓は深さを増し、源頭部まで長大な癒しの渓相が続きます。
    見所は桂カマチ・箱淵・大ゼン・ナマリ岩・カギトリゼン・イワスゴゼン・スリバチゼン・ヘリトリゼン・燕ゼン・庄九郎大滝・ネジレゼンなど、美しすぎる大滝やナメ床、そして深い淵のオンパレード。
    また魚野川という名前の通り、浅瀬でも魚影が乱舞するあまりにもディープな世界は遡行者の心に深く印象が残るものとなります。
    沢登りをするようになってから、日夜ルート研究に勤しむなかで、いつかは行ってみたい渓として自然と上位にリストアップされるようになっていました。
    アプローチがやや大変なものの、沢登りとしての難易度はそれほど高くはなく、ブナとミズナラの原生林に包まれながら、スケール豊かな癒しの渓歩きができるので、是非紅葉の時期に訪れてみたいという気持ちがありました。


     入渓直前、にわか雨に降られる

    秋深まる10月半ば、念願の大渓流を旅するべく、一路野反湖へ。
    白砂山登山口にもなっている野反湖バス停前駐車場にて車中泊するため、前夜に訪れましたが、かなりの濃霧にまかれ、運転にはとても気を使いました。
    駐車場は未舗装ながらかなり広いスペース。他に車輌は見当たりませんでした。
    ただトイレには夜中でも灯りが点いているので安心です。
    未明には霧も晴れ、ふとまどろみから目覚めると、湖畔が幻想的な月影に照らし出されていました。
    翌朝は明るくなってから8時過ぎのスタート。まずは入渓点となる渋沢ダムを目指します。


     ↑ 白砂山登山口からスタート

    丁度紅葉は見頃を迎えており、久方ぶりの紅葉トレッキングに自然とテンションが上がっていきます。
    この辺りは訪れる方もそれほど多くはないと思われますが、とてもよく整備されており、道幅も広く大変歩きやすいルートとなっています。


     ↑ 歩きやすい登山道

    40分ほどの登りで地蔵峠を越えると、その先は大倉山のトラバース。さらに西大倉山を過ぎると、百二十曲りと呼ばれる急坂となり、大倉坂を下ると渋沢に架かる吊橋が見えてきます。


     ↑ 途中野反湖を望むことができます


     ↑ 大倉坂を下ります

    出発時晴れていた空も、大倉坂を下る頃には、怪しい空模様となり、遂にはにわか雨が降り出しました。
    しかし本降りになるときには、荒廃した営林小屋跡まで来ていたので、幸運にも雨宿りをすることができました。


     ↑ 営林小屋跡で雨宿り

    30分ほどにわか雨に降られましたが、すぐに空は明るくなり、天気は回復。いよいよ入渓です。
    入渓点は幾つかあるようですが、渋沢に架かる吊橋を渡る直前に、渋沢の河原に降りる踏み跡があるので、そこから渋沢左岸に簡単に降りることができます。


     ↑ 吊橋手前から入渓できます

    雨上がりの渋沢河原で沢装備に換装。
    水温の低さを想定し、ソックスはスキンメッシュソックス+ネオプレーンソックス3mm厚。
    ネオプレーンタイツの上に、普段は履かないレインパンツを着込みます。
    上着はダブルネオプレーンを着用し、準備完了。
    いよいよ魚野川本流に足を踏み入れます。


     河原をゆったり歩く

    まずは千沢出合まで広大な河原歩き。
    紅葉の美しさに思わず独り歓声をあげてしまいます。
    右岸から左岸へ、左岸から右岸へ、渡渉を交えながらゆっくりと進みますが、水温は思ったほど低くはなく、足が痺れるほどの冷たさではないので助かりました。


     ↑ 紅葉も見頃です

    紅葉を愛でながら、30分弱で千沢出合に到着。


     ↑ 千沢出合

    出合の手前、右岸に幕営適地がありましたが、増水には注意が必要でしょう。


     ↑ 千沢出合付近の幕営適地

    因みに千沢は平凡な河原となって本流に注ぎますが、その奥は滝センが千ほどもあると言われる超険悪な渓相。
    エキスパートでも安易に立ち入ることはできないとされます。
    なお上信越の沢では滝のことを“セン”“ゼン”と表現することがあります。


     ↑ 千沢を望む


    ■■■【PHOTO GALLERY ①】■■■





















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     箱淵に飛び込む

    序盤のハイライトは桂カマチと呼ばれる絶景ゴルジュと箱淵と呼ばれる大きな淵。
    千沢出合を過ぎると、すぐに桂カマチが現れます。


     ↑ 本流の渓相が変わります


     ↑ 桂カマチ

    16年夏刊行された「沢登り銘渓62選(山と渓谷社)」では、“水量が太ももまであるようなら遡行難易度が上がる”“太もも以上あるようなら遡行は諦めた方がいい”という記述があるので、一つの目安になるでしょう。
    ただ今回は水量は脛ほどもない平水だったので、些か迫力に欠ける感がありました。


     ↑ 水位はそれほど高くありませんでした

    桂カマチを過ぎると、すぐに桂ノ沢出合。倒木のかかる滝が印象的でした。


     ↑ 桂ノ沢出合

    序盤のハイライトのもう一つは箱淵
    水量豊富な大きな淵ですが、何十メートルも泳ぐ長瀞ながとろを想像していたので、予想と全く違った地形に少し戸惑いを覚えてしまいました。


     ↑ 箱淵の入口

    左岸には巻き道があり、丁寧に赤布も付けられていましたが、滑りやすく危なそうに見えます。


     ↑ 赤布見えますか?

    今回は泳ぐことを前提に完全防水で臨んでいるので、正面突破!
    基本的にはホールド豊富な左岸の岩肌をバランスよく歩いて行きますが、落ち葉で足を滑らせないように注意が必要です。


     ↑ 左岸をバランスよく


     ↑ 落ち葉に注意です

    泳ぎを強いられたのは右岸から左岸に渡る一箇所のみ。
    さすがに水が冷たそうなので、少し躊躇してしまいましたが、他に方法がないので、意を決して飛び込みました。
    ほんの僅かな距離を泳いだだけで、全身がビビビッと痺れる感じ!
    しかしダブルネオプレーンで、何とかここを突破できました。


     ↑ ここ泳ぎました


     ↑ 水が豊富です


    ■■■【PHOTO GALLERY ②】■■■





















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     魚影乱舞

    途中に非常に深く大きな釜があります。
    ここでは大きなイワナが優雅に泳ぐ姿を見ることができます。


     ↑ 大きなイワナがいました

    秋山郷の釣師が多く通っていたのでしょうか、“20cm以下放流”という看板もありました。­
    私は釣りは全くの門外漢なのですが、釣師にとってはまさに垂涎の秘境なのでしょう。


     ↑ 看板ありました

    イワナの写真が撮れればと思ったのですが、残念ながらどうしても撮ることができませんでした。


     ↑ とても深い釜です


    ■■■【PHOTO GALLERY ③】■■■





















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     高沢出合は最高の幕営適地

    千沢出合から約2時間弱で魚野川右岸支流最大の高沢出合へ。


     ↑ 高沢出合

    高沢出合は意外にも急流です。


     ↑ 水深もありそうです

    左岸を進んでくると行き詰まり、右岸へ渡ることを考えなければなりませんが、急流のなか首まで水に浸かることになりそうな感じ。
    本流側の出合より先であれば容易に渡渉できるので、ここは無理せず、左岸を少し高巻いて渡渉点に降り立つことを選択しました。
    高巻きからの下りはやや急峻でしたが、ザックを先に下に降ろし、空身で下ればロープ不要で降りることができました。


     ↑ 灌木のところから下ります

    高沢出合の高台にある幕営地は大変素晴らしいロケーション。
    本流側高沢側どちらからでも登れますが、高沢側から登る方が容易でしょう。
    また幕営地より眺める美しい淵の眺めは格別で、8mほどの高台にあるので増水になっても安心です。


     ↑ 本流側より高台を見上げる


     ↑ 素晴らしい眺めでした

    幕営スペースは3人用テントが余裕で張れるくらいはあり、実用的な物干しロープがかけられていたのはとても有り難かったです。


     ↑ 幕営スペース


     ↑ 物干しロープに感謝です


     ↑ 幕営地より上を見上げる

    秋は日暮れが早いもの。初日は予定通り、ここで夜を明かすことにしました。


     ↑ ささやかながら焚き火もできます

    なお高沢は中流域にて中高沢と大高沢に二分されますが、両俣とも出合に60m大滝を秘める魅力溢れる沢。
    高沢出合にて一泊すれば、翌日野反湖まで戻れるので、いつか挑戦してみたいものです。


     大ゼンとナマリ岩

    二日目も朝から青空が見え、穏やかな天気。
    まずは黒沢出合まで1時間ほど約2kmの渓歩きです。
    快適だった高沢出合の幕営地に別れを告げて、しばらく進むと比較的大きな滝が現れます。
    大ゼンと呼ばれるオーソドックスな滝。


     ↑ 大ゼン①


     ↑ 大ゼン②


     ↑ 大ゼン③


     ↑ 大ゼン④

    魚が棲む大きな釜をたずさえていますが、左岸巻きは容易。


     ↑ 大きな釜です


     ↑ 左岸の様子

    段々と山が深まっていく気配に心が躍ります。
    淡々と穏やかな流れのなかを歩き、黒沢出合の手前で現れるのがナマリ岩
    何となくゆるキャラっぽくみえる不思議でシンボリックな奇岩です。


     ↑ ナマリ岩が見えてきました


     ↑ 不思議な奇岩です

    ナマリ岩の脇は幕営適地となっており、焚火跡も見られます。
    沢床に近いため増水時には注意が必要ですが、平らな砂地なので寝床としてはとても快適です。


     ↑ 焚火跡ありました

    ナマリ岩の先が黒沢出合。
    区切りが良いので、ここで小休止することにします。


     ↑ 黒沢出合

    なお黒沢は出合こそ平凡ですが、魚野川左岸を代表する沢として遡行価値の高い大変興味深い渓。
    3段100mの豪瀑を抱く黒沢本流のみならず、その支流には2段25m滝を抱くカヤ沢と、70m大滝を抱く大ナゼ沢があります。
    いずれも岩菅山の岩壁群を流れ落ちる沢だけに、巨大な滝をもち、技術的に高度なものを求められると登山体系には記されています。


    ■■■【PHOTO GALLERY ④】■■■



















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     カギトリゼン登れず

    いよいよ魚野川本流の核心部へ。
    個性的な名前をもつ4つの大滝が連続し、遡行者に至福の時を約束してくれます。
    まずはカギトリゼン。最初にしてもっともインパクトのある滝でした。


     ↑ カギトリゼンが見えてきました


     ↑ 幅広の大滝です

    これまで高さのある大滝には多く出会ってきましたが、横幅がとても広い大滝は意外に少ないものです。
    折角なので直登できないかまずは隈なく観察。
    右壁は無理そうですが、左壁に固定ロープがあり、ホールド的に左壁がセオリーなのでしょう。
    中央右寄りにもホールドがありそうでしたが、下はデカくて深い大釜なので、ちょっと長い時間水に浸かるのは勘弁。
    ということで、左壁を登ってみることにしました。


     ↑ 左壁の様子

    しかし……
    まず壁に取り付くために、淵に飛び込まなければなりません。
    ここは廃盤品である沢ベストを着用し、トリプルネオプレーンで突入!
    が、何という水温の低さ!一気にテンションが下がってしまいました。
    そこからは固定ロープがぶら下がっているところまで、強引なシャワークライムが求められますが、ここで突っ込むと水は冷たいし、かなり高い確率で怪我をしそう。


     ↑ ここを横切って登るのはツラい......

    結局ここは無理をせず、髙巻きで越えることにしました。


     ↑ ちなみに上から見た図(高巻き後)

    あらためて周りの地形を見渡すと、右岸の壁は脆く、足場もなさそう。
    左岸は壁の上が台地上というか尾根状になっているようなので、釣師が越えるとしたらこっちだろうということで、下流を観察してみると、少し下にルンゼ上の枝沢があります。
    案の定、赤布に残置ロープまであり、ここが高巻きの取り付きでした。
    ちょっと戦意喪失状態のまま高巻きに入りましたが、ここの足場も決してよくはありません。
    滑落に注意しながら慎重に歩を進め、笹藪帯に入ればひと安心。
    あまり上に行きすぎないように注意し、滝上から笹薮滑り台で降りてカギトリゼンを越えました。
    個性的な滝上から眺める下流の風景の素晴らしさはなかなかのもの。
    水の流れと紅葉の美しさにしばし見惚れてしまいました。


     ↑ 滝上より見下ろす


     イワスゴゼンを巻く

    次なる大滝はイワスゴゼン
    名前の由来は岩菅山からきているのでしょうか。


     ↑ イワスゴゼンが見えてきました


     ↑ 美しさでは随一と言われます

    こちらもカギトリゼンに負けず劣らず立派な幅広大滝。


     ↑ 左壁の様子


     ↑ 右壁の様子

    しかしもう登ろうという気は起こらず、最初から巻き道を探してしまいました。
    巻きは左岸。古いトラロープがあり、結構急峻な登りとトラバースで越えるようです。


     ↑ 巻きの取り付き


     ↑ トラバースの様子


     ↑ トラバース中に滝を見下ろす

    滝上は大ナメ床が広がる極上の空間。
    逆光のなか眩く輝く大ナメ床が印象に残りました。


     ↑ 滝上から見下ろす


     ↑ 大ナメ床とスリバチゼン


     ↑ 光る大ナメ床


     スリバチゼンを巻く

    三番目の大滝はスリバチゼン



     ↑ スリバチゼンが見えてきました

    その名の通り、すり鉢状の大滝です。


     ↑ スリバチゼン①


     ↑ スリバチゼン②

    泳いで取り付けば登れる滝ですが、ここも当たり前のようにパス。
    最初から巻き道を探します。
    巻きはイワスゴゼンと同様に左岸。明瞭な踏み跡があります。


     ↑ 巻き道は明瞭


     ↑ 滝上から見下ろす


     ヘリトリゼンは登れます

    最後の大滝はヘリトリゼン


     ↑ ヘリトリゼンが見えてきました

    大釜があるものの、この滝は右壁を誰でも登れる易しい滝。


     ↑ 紅葉に映えるヘリトリゼン


     ↑ 釜は深そうです


     ↑ 水が美しい


     ↑ 滝上から見下ろす

    一連の幅広滝はここで終わりとなります。


    ■■■【PHOTO GALLERY ⑤】■■■

















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     庄九郎大滝へ

    4つの大滝を越え、山の深さも佳境を迎えてくると、そろそろ今夜の幕営地を探さなければなりません。
    本来ならば本流を最後まで詰め、遡行を完成させたいところですが、源頭まで詰めてしまうと野反湖までの大縦走になってしまうので、今回はやむなくショートカット。
    核心部を越えた先で稜線に詰められる小ゼン沢を遡行するつもりでいました。
    そうすると小ゼン沢出合での幕営がベストなのですが、さすがに至る所に幕営適地がある訳ではありません。
    本流を少し遡った左岸に幕営適地があるようなので、そこを目指すことにします。
    しかしいきなり本流に立ち塞がる美瀑燕ゼン
    豪快に水を叩き落とすオーソドックスな滝です。


     ↑ 燕ゼン①


     ↑ 燕ゼン②

    直登は困難なので、左岸を髙巻きます。


     ↑ 左岸の様子


     ↑ 滝上から見下ろす

    その先5分も遡ったところ、確かに幕営適地がありました。
    焚火跡もあり、平坦なスペースで落葉の絨毯が気持ちよさそう。
    今宵はここで夜を明かすことにして、ザックを下ろします。


     ↑ 快適そうなテン場です

    このままダラダラと休んでもよいのですが、本流の先には名のある美瀑庄九郎大滝が遥かに訪れる遡行者を待っています。
    折角なので、空身で滝見物に行くことにしました。
    途中、庄九郎沢出合手前にあるオッチラシという美しいナメ床があり、そこも見所の一つになっています。


     ↑ オッチラシ

    深く美しい渓相のなか、しばらく進むと今回の沢旅の最後のハイライト庄九郎大滝に到着。
    深山幽谷の趣がスダレ状に水を落とす大滝の美しさを際立たせているように思えます。


     ↑ 庄九郎大滝①


     ↑ 庄九郎大滝②

    直登するなら左壁のシャワーですが、この水の冷たさでは困難を極めるかもしれません。


     ↑ 左壁の様子

    高巻きは左岸に求めるそうですが、明瞭な踏み跡は見当たらず、遠目に見た感じでは結構難しそうに見えました。

    庄九郎大滝を堪能したあとは、テン場に戻って安らぎの時間を過ごすことにします。
    最近は私も年齢相応というか長年の登山による体の酷使が原因か、随分と腰痛に悩まされ、テントのなかで体育座りができなくなってしまいました。
    車の運転も座席角度が直角になりつつあります。
    正座による炊事がルーティンとなっていましたが、今回はうつ伏せになったままお湯を沸かし、食事を摂ることに挑戦!?
    消化に良いかはともかく、腰に全く負担を掛けずに一晩を過ごす新たなテクニック!?をマスターしてしまいました。


    ■■■【PHOTO GALLERY ⑥】■■■















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     小ゼン沢を詰め、稜線へ

    最終日は小ゼン沢を詰め、稜線を目指します。
    身体が温まってない状態で、慎重に燕ゼンを巻き下り、小ゼン沢に入ります。
    小ゼン沢はその名の通り小滝の連なる沢で、登山体系によると、魚野川本流核心部へ直接入谷する際の最短ルートとして古くから利用されているとのこと。
    中流部に一部傾斜がキツイところがありますが、全体的には穏やかな渓。
    実際右岸を中心に何となく踏み跡を見ることができ、意外に多くの方が登り降りしていることがうかがえます。
    小ゼン沢の入口にまず立ち塞がるのがネジレゼン


     ↑ ネジレゼン

    その名前から何となく“くの字滝”を想像していましたが、ごくありふれた滝でした。
    ただ直登は困難で、右岸高巻きを強いられます。
    落ち口より少し離れた右壁にトラロープがありましたが、これは下降用に残置されているのではないかと思われます。
    高巻き最初の踏みだしは意外に悪く、灌木頼りのモンキークライムでガレ場をトラバースしますが、上部の笹藪帯まで入ればもう安心。


     ↑ トラバースは慎重に

    傾斜の緩い笹藪滑り台のなか、制動をかけながら上手に降りて沢へ戻ります。
    そこから先は平凡な苔むした渓を淡々と登り続けます。
    白草沢を左俣に分け、傾斜のキツい中流部にある六段の滝を越えると、源頭の雰囲気へ。


     ↑ 白草沢出合


     ↑ 六段の滝上部?


     ↑ 源頭の雰囲気です

    地形図をよく確認し、五三郎小屋へ至る支流に入ります。


     ↑ 枝沢の出合 ここは左へ

    稜線は風が強いのか、枝沢にも風が吹き下りてきます。
    途中一箇所予想外の滝がありましたが、慎重に左岸を巻き、さらに上流へ。


     ↑ この滝は左岸巻き

    最後は藪漕ぎなしで、ひょっこり五三郎小屋が現れました。


     ↑ 五三郎小屋が遡行終了点

    無事に遡行を終えられたことに対して、もっと大きな感動があるかと思っていましたが、ただホッとしたというのが正直な気持ち。
    水と風の冷たさにいつものようにアドレナリンが出てこなかったのかもしれません。
    五三郎小屋は荒廃していましたが、非常時には役立つことでしょう。


     ↑ 内部の様子

    小屋の前で沢装備を外し、そこから先は野反湖まで一般登山道を辿ります。
    途中訪れたカモシカ平は広大な笹原が迎えてくれる気持ちのよい空間。


     ↑ カモシカ平

    残雪期に訪れることができたらきっと素敵だろうなと思いつつ、野反湖まで一気に駆け下りました。


    ■■■【PHOTO GALLERY ⑦】■■■















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    Ⅱ 概要と案内




    1 魚野川流域

    日本最長河川である信濃川の一水系である中津川。
    中津川は津南で信濃川に注ぐ河川で、その上流部が魚野川と呼称されます。
    秋山郷の南にある切明温泉で雑魚川を分けた後、上流はさらに南下し、本流は志賀高原の一峰赤石山を源頭とするほか、最大支流の千沢は野反湖を水源としています。
    魚野川の水源を取り囲むのは、苗場山・赤倉山・佐武流山・白砂山・野反湖・大高山・赤石山など上信越国境山群と岩菅山で、静けさと山深さに満ちたシブイ秀峰群は魚野川流域を大変バラエティーに富んだものにしています。
    日本登山体系2『南会津・越後の山』では、魚野川本流のほか、支流である高沢中高沢・高沢大高沢・黒沢本流・カヤ沢・大ナゼ沢・奥ゼン沢・小ゼン沢・庄九郎沢、さらには渋沢西ノ沢・檜俣川悪沢・雑魚川外ノ沢が紹介されています。
    しかし野反湖より北走する千沢は、数多の雄瀑を抱く魅力的な渓ながら険悪すぎるため詳細は記されていません。


    2 魚野川本流

    原生林豊かな秘境中の秘境を流れる大渓流として、アプローチが困難な故に、深淵な静けさに満ちた魚野川本流。
    16年夏刊行された「沢登り銘渓62選(山と渓谷社)」では“美しさの表現を出し尽くしても足りないほどの美渓”として絶賛されています。

    【アプローチ】
    アプローチとしては、秘境秋山郷の南、名峰鳥甲とりかぶと山の登山口である切明温泉から魚野川渓谷沿いの水平歩道を渋沢ダムまで辿る情趣溢れるルートが本来望ましいと思われます。
    小黒部的な趣きのあるトレッキングルートは紅葉時期は特に素晴らしいとされます。
    私もかつて、野反湖畔で幕営をして、1泊2日で和山温泉まで北上したことがありますが、深さと静寂さに包まれる山旅は記憶に残るものとなりました。
    今回も出来れば下流から水平歩道を歩いてアプローチしたかったのですが、東京起点ではあまりにも遠すぎるため、野反湖から地蔵峠を越えて渋沢ダムへ至るルートをやむなく選択しました。

    【見所】
    ブナとミズナラの原生林のなか、魚影が走り、ゆったりと流れる美渓。
    そのなかで、桂カマチ・箱淵・大ゼン・ナマリ岩・カギトリゼン・イワスゴゼン・スリバチゼン・ヘリトリゼン・燕ゼン・庄九郎大滝・ネジレゼンなど、美しすぎる大滝やナメ床、そして深い淵が長大な癒しの大渓流に彩りを与えてくれます。

    【詰めと下山】
    本来ならば源流部まで辿り、北ノ沢を詰めて寺子屋峰に出るか、南ノ沢を詰めて赤石山に出るべきでしょう。
    しかしそれでは野反湖まで戻る場合、大縦走となってしまうので、今回のルートのように小ゼン沢を詰めるショートカットもオススメです。

    【幕営適地】
    幕営に適した平地があるのは、千沢出合・高沢出合・ナマリ岩脇・燕ゼン先左岸など。
    なかでも高沢出合にある幕営適地は絶景が楽しめるオススメスポットです。


    3 野反湖からのアプローチ

    【交通機関利用】

    JR長野原草津口駅発野反湖行バス乗車、終点野反湖下車。
    期間5月1日から10月20日まで。それ以外の期間は花敷温泉まで。

    六合くに地区路線バスの情報はこちらをご覧ください


    【マイカー利用】

    渋川市街からJR吾妻線沿いに長野原草津駅方面へ。国道292号線に入り北上、野反湖駐車場まで。
    途中に道の駅六合くにがあります。


     ↑ 野反湖バス停付近の無料駐車場


    【入渓点まで】

    野反湖から地蔵峠越え渋沢ダムまで約3時間50分。
    大倉坂を下ったところにある渋沢吊橋が入渓の目印となります。
    吊橋の手前に河原に下りる踏み跡があり、ロープ不要で簡単に入渓ができます。


    4 立ち寄り湯の情報

    ご参考にして頂ければ幸いです。

    道の駅六合 応徳温泉の情報はこちらをご覧ください

    バーデ六合の情報はこちらをご覧ください

    道の駅あがつま峡 天狗の湯の情報はこちらをご覧ください




    最後までご一読いただき、有難うございました。

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    記憶に残る沢旅となりました

    ・実際に行かれる際は、現地の最新情報をご確認ください。
    ・ご自身の技術や体力に合った無理のない登山計画で山を楽しみましょう。

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