東丹沢の美渓 キュウハ沢 ~ 小規模なゴルジュが楽しい早春の沢登り(丹沢山東面 本谷川支流)
- 投稿者
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伊藤 岳彦
横浜西口店
- 日程
- 2017年04月24日 (月)~
- メンバー
- 単独行
- 天候
- 曇
- コースタイム
- 塩水橋(55分)キュウハ沢出合(40分)エンジン慰霊碑(7分)F1(20分)7m大滝(90分)二俣(50分)天王寺尾根登山道(70分)塩水橋
- コース状況
- 本文をご参照ください
- 難易度
感想コメント
キュウハ沢早春
東丹沢の本谷川流域は私にとっては未知の世界。
アプローチがやや長く、夏はヒルも多いようなのでなかなか足が向かないエリアでしたが、とても丹沢とは思えないその奥深さに深く魅了されました。
今回訪れた沢は、本谷川流域で最もポピュラーなキュウハ沢。
春の到来を感じさせる遡行はとても清々しいものでした。
2017/4/24(月) 曇
塩水橋[11:19]…キュウハ沢出合[12:14]…エンジン慰霊碑[12:55]…F1[13:02]…四町四反ノ沢出合[13:19]…二俣[14:51]…天王寺尾根登山道[15:38]…塩水橋[16:47]
■ エンジン慰霊碑で黙祷
深夜の宮ヶ瀬湖を望みながら、県道70号線を南下し、塩水橋ゲートまで。
古くは丹沢林道と呼ばれた県道70号線は、ヤビツ峠に通ずるもので、ライダーや走り屋の方に人気があり、自転車ヒルクライムの練習場所としても知られるところです。
しかし、車同士がすれ違うのもままならないほど狭い箇所が多く、対向車には要注意。
真夜中なら対向車はないだろうと高を括っていたら、まさかの対向車出現!
お互い後進前進を繰り返しながら、何とかすれ違いましたが、真っ暗闇のすれ違いがこんなに大変だとは思ってもいませんでした。
塩水橋ゲート前には正規ではありませんが、10数台ほど停められるスペースがあり、奥で切り返しも可能。
丹沢山へのハイカーや釣り師の方で賑わうところなので、平日の遅い時間でも満車になる可能性がありそうです。
なるべく多くの方が駐車できるように、前の方から詰めて縦列駐車するのが暗黙のルールなのかもしれません。
エンジンを切ると、漆黒の闇のなかに轟く豊富な瀬音。
日頃新宿の喧騒のなかで右往左往しているのが嘘のようなひと時を感じてしまいました。
翌日はぐっすり眠ってから昼頃からのスタート。
↑ 塩水橋ゲートから出発
まずは入渓点まで小1時間の林道歩き。よいウォーミングアップになります。
瀬戸橋で塩水林道を分け、本谷川沿いに本谷林道を進んでゆきます。
本谷川は、宮ヶ瀬湖に注ぐ中津川の一支流。
塔ノ岳の東側にある新大日の北東に派生する長尾尾根から、塔ノ岳・丹沢山を経て、丹沢三峰に囲まれた水を集めて西進する奥深い渓で、塩水橋において右俣である塩水川と、左俣である本谷川に分かれます。
本谷川の景色は堰堤が多いのは残念ですが、首都圏近郊とは思えない奥深い自然のなか、穏やかに流れる渓の美しさに心が和みます。
山肌に淡い桜色を望むことができ、薄緑色の風景のなかに見事なアクセントを刻んでいました。
↑ 心和む風景です
丹沢山登山口となる本谷橋を過ぎると、ここから先は沢登り愛好者のみが訪れる世界。
因みに吉備人出版の「東丹沢登山詳細図」には、キュウハ沢出合から日高へ登る【120】日高東尾根~日高林道ルート(道標なし 経験者向)が掲載されていますが、訪れる方は稀でしょう。
林道終点手前のキュウハ沢橋が入口。
↑ キュウハ沢橋
看板などはなく、沢も出合は貧相な感じ。うっかり通り過ぎてしまいそうです。
キュウハ沢は、本谷川流域のなかで最もポピュラーな渓。
神奈川県で唯一の百名山である丹沢山(1,567.1m)を水源にして東を流れる佳渓として知られ、初級をクリアした方の次なるステップアップに最適な沢です。
因みに日本登山体系では、本谷川流域で遡行価値のあるものとして、キュウハ沢の他に、オバケノ沢・大棚沢・三角沢・四町四反ノ沢・桶小屋沢・塩水川本谷などが紹介されています。
まずは入渓点まで巨大堰堤を5つ越えなければなりません。
各堰堤の梯子を利用して越える手段もあるそうですが、適当に右岸の斜面を突き進んでゆくと、何となく高巻きっぽい踏跡を発見。
それを利用し4つ目の堰堤まで左側を越えていきます。
5つ目の堰堤の手前で、沢装備に換装。
どんよりとした空の下、まだまだ風は冷たく、沢日和には程遠いですが、未知なる世界を訪れるワクワク感に心が躍り出します。
キュウハ沢といえば、忘れてはならないのが、戦闘機エンジンのお話。
対岸に渡渉し、まずは有名な?エンジン慰霊碑を訪れます。
↑ エンジン慰霊碑
太平洋戦争末期に墜落した戦闘機のエンジンと言われ、旧陸軍四式戦闘機『疾風はやて』のエンジンという説が有力だと言われます。
疾風は旧中島飛行機(スバルの前身)が最後に送り出した高速重戦闘機で、「帝国陸軍の新鋭戦闘機」と言われた名機。
↑ ウィキペディアより引用
当該エンジンは、正式名『誉ハ-45』と呼ばれた空冷複式18気筒エンジンだということで、ミリタリーに関心の高い方には垂涎のお宝なのかもしれません。
↑ 誉ハ-45
因みにキュウハ沢の中流域(大滝の先)にもう一基のエンジンが水にさらされたまま、いまだに原型をとどめたまま存在しているそうですが、残念ながら今回発見することはできませんでした。
慰霊碑にはワンカップがお供え物として置かれています。
遠い昔祖国を守るために散った英霊の存在を強く感じ、思わず長い黙祷を捧げてしまいました。
儀式が済んだら、いざ入渓!いよいよキュウハ沢の核心に突入します!
■ キュウハ沢は気分爽快
水温はやや低めですが、心地よい陽射しが降り注ぎ、早春らしい遡行が楽しめそうです。
↑ 入渓点
入渓してすぐに現れるのがF1。ゴルジュ入口の3m滝です。
↑ 3m滝
左壁を登りますが、ホールド豊富なので、快適に乗り越えることができます。
↑ 左壁を登ります
↑ すぐにF2が見えます
続いて大水量を叩き落とすF2は4m滝。雪解け後なので、水量がとても多いようです。
↑ 大水量のF2
ここは釜を奥までへつって、右壁を登るのがセオリー。
↑ 頑張ってへつります
さすがに腰まで水に浸かると結構シビれますが、沢登りの季節がやってきたことを強く実感させられる瞬間です。
↑ 右壁は容易に登れます
↑ お気に入りの1枚
まるで生き物のような水の美しさに魅せられながら、F2を越えると、ゴルジュ内の連瀑が迎えてくれます。
↑ 深い釜をもつ小滝
↑ 連瀑の全容
↑ 次々と現れる小滝
↑ 無心で越えていきます
連瀑帯を巻きながら突破すると、まもなく四町四反ノ沢出合。
↑ 四町四反ノ沢出合
四町四反ノ沢も遡行価値のある渓。
上級者の方のなかには、キュウハ沢遡行→四町四反ノ沢下降、あるいは四町四反ノ沢遡行→キュウハ沢下降で周回してくる方もおられるようです。
本流のすぐ先には、キュウハ沢最大の7m大滝が立ち塞がります。
高さはわずか7mながら、垂直に水を落とすオーソドックスな美瀑です。
↑ 7m大滝①
↑ 7m大滝②
↑ 7m大滝③
直登は左のチムニーですが、残置ピトンは古く、昨今はほとんど登られていないように思えます。
↑ 左壁の様子
巻きは右岸。四町四反ノ沢から斜面に取り付く高巻きです。
意外に高い所まで登る感じで、どうやって沢に降りるか、ちょっと迷うところ。
急斜面にそれらしい踏み跡をみつけ、ロープ不要で何とか沢に戻ることができました。
↑ 結構高巻きます
↑ 沢に戻りました
ここからは小滝が続きます。
↑ 小滝を越えていきます
↑ 水が躍動しています
途中に2段の滝が2つ立ち塞がります。
↑ 2段6m滝
この滝は左岸を巻きましたが、少し上へ追いやられてしまい、懸垂下降で沢に戻りました。
↑ 高巻き途中から
↑ 1回だけ懸垂しました
↑ 続いて2段5m滝
下段は簡単ですが、上段は左岸を巻き気味に越えなければなりません。
ここでは生木に近い倒木をつかんでのゴボウ登りで強引突破。
↑ 右の倒木をつかむゴボウ登り
禁断というか邪道の手段ですが、沢登りは何でもありなのがいいところです。
ここからはやや勾配の強いゴーロ歩き。いささか単調になります。
↑ ゴーロ歩き
やがて標高1,000mの二俣に到着。依然水量が豊富です。
↑ 二俣より本流を望む
■ 左岸枝尾根で脱出
本流はこの先最後の連瀑帯に突入しますが、今回は疲れをあまり残さないために最短距離での下山をしたいという考えがありました。
本流を忠実に辿ると、長いガレ歩きの果てに丹沢山山頂に出るそうですが、今回はセオリーを見送り、あえて登れそうな左岸枝尾根で脱出を図ることにします。
まずはチコハンマーを片手にザレた急斜面を強引に直上。
↑ 直上します
何とか突破すると、比較的なだらかな枝尾根へ。
この辺りは手つかずの自然が残る感じで、素のままの自然を彷徨する楽しみがあります。
↑ なだらかな枝尾根
そのまま枝尾根を直上すれば登山道に出るはずですが、段々登りがかったるくなってきたので、トラバースに変更。
ある程度標高を上げれば、水平移動できるようになるので、トラバースで登山道を目指すことにします。
↑ 気持ちよいトラバース
一部灌木頼りのモンキートラバースを強いられるところもありますが、概ね危険個所はなく、順調に水平移動することができます。
丹沢の植生は、ハイマツ主体の上越と違って、容易にトラバースできるのでとても助かります。
午後の優しい陽射しのなか、森の彷徨を堪能しつつ横へ横へと進んでゆくと、予想通りに天王寺尾根へ。
↑ ウオー!道だ!
キュウハ沢の核心を楽しみ、短時間で下山するためのルートとして、よいコースを発見できたように思えます。
あとは高速道路のような登山道を駆け下るのみ。
天王寺尾根は植林帯を辿るルートですが、とても歩きやすい良い道でした。
↑ 天王寺尾根を下ります
▮ やっぱり沢登りは面白い
キュウハ沢はとてもシンプルながら、美しさと奥深さを兼ね備えたとても良い渓でした。
雪解けの影響か、とても水量が豊富でしたが、かえって迫力があり、躍動する水から漲る生命力を感じ、心をリフレッシュすることができました。
時には仕事に忙殺されてしまう時もありますが、“自分らしい自分の山”をしっかりとやることの大切さを知る一日となったような気がします。
やっぱり沢登りは面白い!
たとえ短い時間であっても、遡行を完成して生還するために、自分の体力・技量・知恵をフルに活用する面白さに満ちています。
何より自分なりのルートで遡行を完成したときに得られる達成感はとても得難いもの。
翌日は気持ちが落ち着き、泰然自若たる心構えで仕事に励むことができるようになります。
今年も各地の沢を訪れ、白く輝く清流から限りないパワーをもらい続けたいと思います。
最後までご一読いただき、有難うございました。
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