奥秩父 ヌク沢左俣右沢 ~ 圧巻の200m大滝を抱く豪快な渓へ (甲武信岳南東側 戸渡尾根東面)

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投稿者
伊藤 岳彦
横浜西口店 店舗詳細をみる
日程
2017年05月19日 (金)~
メンバー
単独行
天候
晴後曇
コースタイム
西沢渓谷無料駐車場(25分)ヌク沢出合(90分)近丸新道横断点(60分)二俣(45分)大滝最下部(70分)大滝最上部(45分)登山道(150分)西沢渓谷無料駐車場
コース状況
※ 本文をご参照ください
難易度
Google Map
  • スタートナビ
  • おとな女子登山部

感想コメント






ヌク沢左俣右沢



ヌク沢左俣右沢は奥秩父屈指のスリリングなルート。
『幻の滝』と呼ばれる200m級の大滝は圧巻の一言です。
こんなところにこんな世界があるのか。
新緑耀くなか、数々のナメ滝を辿ってからの大滝越えは、大きな充実感を与えてくれました。





  2017/5/19(金) 晴時々曇

西沢渓谷無料駐車場[6:02]…ヌク沢出合[6:28/6:45]…近丸新道横断点[8:13]…二俣[9:11]…大滝最下部[9:58]…大滝最上部[11:10]…登山道[12:01]…西沢渓谷無料駐車場[14:22]







■ ヌク沢下部は意外にきれい

深夜の国道140号をひた走り、仮眠のため広瀬ダム駐車場まで。
最近は道の駅「みとみ」よりも静かで暗く仮眠しやすいので、こちらを利用することが多くなってきました(トイレもあります)。
翌朝は西沢渓谷市営無料駐車場に移動してからのスタート。
まずはヌク沢出合までの20分ほどの林道歩き。よいウォーミングアップになります。

日本でも屈指の渓谷美を誇る笛吹川
国師岳から甲武信岳、雁坂峠に至る奥秩父の中核の全てを水源とし、白く輝く花崗岩のナメと、南に面する明るさに満ちた谷が広がります。
渓谷ハイキングの代名詞とも言える『西沢渓谷』はもちろんのこと、対をなす東沢には、沢登りの原点でもあり、甲武信岳へのクラシックルートでもある『東沢釜ノ沢東俣』をはじめ、バラエティ豊かな支流があり、美渓として名高い『鶏冠谷』は右俣左俣ともに高い遡行価値があります。

今回訪れたのは、二俣よりやや下流で笛吹川に注ぐヌク沢
木賊山や破風山を源頭とし、戸渡尾根と青笹尾根に挟まれた流域を南下します。
そのなかでも左俣右沢は、笛吹川流域屈指の好ルートとして人気のある登攀的な渓。
核心部に200m以上はある3段の大滝をもち、特に中段80m滝の圧倒的な迫力は一見の価値があります。
最近の“山と高原地図(昭文社)”では「幻の滝」として記されています。
大滝までは、ナメ滝が幾つも現れる爽快な渓で、花崗岩系の岩盤の上で、原生林の美しい緑が映えますが、惜しむらくは幾つもの堰堤と、夥しい倒木の数々。
奥秩父の中でも笛吹川流域は、大菩薩連嶺ほどではないにしても、顕著な自然破壊が人知れず進行してきた山域で、ヌク沢では6基ほどの巨大堰堤が行く手を塞ぎ、興醒めは避けられません。
さらに2008年頃の台風の影響で、美しいナメ床を倒木が覆ってしまっているのはとても残念。
加えて、青笹尾根上部までヌク沢林道が意味もなく延伸されており、林道に架かる立派な橋を遡行中に望むとき、やりきれない想いがするのは恐らく私だけではないでしょう。

近丸新道入口を過ぎて、最初に現れる沢がヌク沢。


 ↑ ヌク沢に架かる橋

沢に入りすぐ先にある堰堤を越えてから、沢装備に換装します。


 ↑ 入渓点

ヌク沢は途中で近丸新道が横切っているため、下流部の遡行を省略し、中流部から入渓することも可能。
今回は時間的に余裕があったので、下流部より遡行開始。
下流部はナメ床中心の穏やかな渓相で、思っていた以上にきれいなところでした。
谷底の深い緑の下、清流のなかを快適に歩いていくことができます。
むしろ堰堤や倒木がないので、下流部の方が雰囲気がよいかもしれません。
その意味で、初めての沢歩きの方が訪れるのにも適していると思われます。
下流部だけを遡行して、近丸新道で下山すれば簡単な半日コース。
時間のないときの沢遊びに丁度よいのではないでしょうか。


          



ナメ床を中心とした穏やかな渓相のなか、小さいながらも顕著な美瀑が途中幾つか現れます。


       


下流部の終わりに、登攀的な6m小滝があります。

 


 ↑ 6m小滝

この滝は残置ピトンのある左壁が登れますが、取付のホールドやスタンスは細かいものでした。


 ↑ 左壁の様子


 ↑ 古い残置がありました

巻く場合は少し戻った左岸からでしょう。
続く7m小滝は左岸巻き。巻きは容易です。

 


 ↑ 6m小滝

小滝を越えれば、まもなく近丸新道横断点です。
どなたか登山者がいたら、変なオジサンだと思われてしまいそう。
誰もいなくて助かりました。



■ 堰堤を交えながらナメ床を歩く

近丸新道横断点にある堰堤は一番興醒めするところ。


 ↑ 近丸新道横断点

堰堤越えは左岸。何となくある踏跡を辿る意外な大高巻きです。
堰堤から先はまたしばらく穏やかな沢歩き。
因みに堰堤上には幕営適地がありました。

         


小1時間さらに遡ると、また堰堤が現れます。
ここから先は3つの堰堤越え。


 ↑ この堰堤は左岸巻き


 ↑ 次の堰堤も左岸巻き


 ↑ その次の堰堤は右岸巻き


 ↑ 堰堤上は二俣

二俣に立つと、右手の上にあまりにも立派な橋が架かり、「なんでこんな山奥にこんな立派な橋があるんだろう」とやりきれなくなってしまいます。
この橋が架かる林道こそが、「鶏冠山林道東線」。
現在工事はストップしているようですが、本来の計画では、“ヌク沢、戸渡尾根を越えて鶏冠谷を横切り、鶏冠尾根を経て東沢釜ノ沢を通り、信州沢、金山沢を越えて黒金山林道と結ばれるはずだったらしい”というもの。
この部分は、山田哲哉氏著『奥秩父 山、谷、峠そして人』(東京新聞)に詳しく記されています。


 ↑ 林道に架かる橋

話がそれてしまいました。
二俣は左へ。すぐに最後の堰堤があります。


 ↑ 最後の堰堤は左岸巻き

この堰堤の上部は崩壊しており、意外な大高巻きを強いられます。


 ↑ 堰堤上部は崩壊

左俣に入ると、徐々に傾斜がきつくなっていきます。







倒木が多いのが残念。昔はとてもきれいなナメ床であったと思われます。



■ 大滝下段100mは右を登る

左俣は奥ノ二俣で左沢と右沢に分かれます。


 ↑ 奥ノ二俣は右へ

ここから大滝まではナメ滝の連瀑帯。
ゴルジュっぽい雰囲気のなか、傾斜のある連瀑を越えていきます。

           


連瀑帯の最後の滝は直登困難な10m滝。
豪快に水を飛ばす滝で、さながら大滝の門番のようです。


 ↑ 連瀑帯の最後の10m滝

右岸巻きは容易。途中美味しい湧き水が出ていました。


 ↑ 美味しい湧き水

やがてハイライトである大滝へ。
まずは大滝下段100m。
諸説あるようですが、登山大系では上中下合わせて3段260mと記されています(下段100m・中段80m・上段80m)。
一般的には上段は50mとして計230mとしてみなす文献が多いようです。


 ↑ 大滝下段100m

ただ下段は100mを一気に落とす直瀑を登攀するのではなく、豊富なバンドをもつ階段状の滝を攀じ登っていく感じ。
大滝下段のルートは一般的に左岸。
足場が豊富なのでグングンと高度を上げることができます。

            


そしていよいよ核心の大滝中段80mへ。



■ 大滝中段80mはド迫力!

さすが下から見上げる大滝中段80mは噂通りのド迫力!




 ↑ 大滝中段80m

容姿端麗な大滝とは異なり、まるで“壁”を水が流れている感じ。
上越のスラブとはまた似て非なる趣ですが、首都圏近郊ではとても珍しい景観と言えるのではないでしょうか。

この大滝の登りは、ルート次第でおそらく難易度は異なるものと思われます。
力量に応じたルートファインディングが求められるところ。


 ↑ 左側にメインの水流

ガイドブックなどで紹介されている一般的なものは、二つに分かれる右側の水流沿いを20mほど登ったところから、水流わきを斜めに直上。対岸に渡ったら、左側を登る、というもの。
しかしあまりに滝というか壁がでかすぎて、全体像がよく把握できなかったのは、私にクライミングのセンスがないからでしょう。
優れたクライマーであれば、オンサイトで美しいルートが見えてしまうものなのかもしれません。
ただ高巻きというか、水が流れていないルンゼっぽい右端を上がれば比較的容易に登れるというのは分かりました。
とりあえず行けるところまでフリーで登ってみて、ダメなら右端に逃げればいいや、という邪よこしまな気持ちで、まずは右側の水流沿いを登ってみることにしました。


 ↑ 右側の水量沿いを登ります

ホールドは豊富ですが、濡れているところはとても滑るのでやはり注意が必要です。
20mくらい上のバンドまでは私でも簡単に登れましたが、その先水流に沿って登るのはさすがに難しそう。


 ↑ 途中下を見下ろす

無理をしても意味がないので、最終的には随所で写真撮影をしながら、右端を登る安全なルートを選択。


 ↑ 中間部から見上げる


 ↑ さらに上部へ


 ↑ それなりに傾斜があります


 ↑ 右端を登りながら


 ↑ 落ち口が見えました


 ↑ あともう少しです

それなりに傾斜があるものの、感覚が麻痺しているのか、恐怖感を感じることはありません。
登攀と呼べるものではありませんでしたが、順調に高度を上げ、大滝中段を無事に突破。
よく晴れていれば富士山が見えるそうですが、この日は残念ながら見ることは叶いませんでした。
続く大滝上段50mは、見た目30mほどの階段状の滝。


 ↑ 大滝上段50m

滑りやすい左壁をだましだまし際どいバランスで登って、大滝を越えました。


 ↑ 滝上より見下ろす




■ 原生林の森を詰め上がる

大滝上段を越えると、トイ状の滝とナメ滝が続きます。


 ↑ トイ状の滝


 ↑ その先のナメ滝

登山大系では、最後まで詰め上がり、“つめの木賊山の縞枯れも一見に値する”と記されています。
しかしガイドブックにあるように、この辺りから右岸枝尾根を上がり、戸渡尾根を目指すルートが一般的なのでしょう。
今回はもうクタクタなので、最短距離で詰め上がることにします。


 ↑ 遡行終了点

踏み跡は不明瞭ですが、戸渡尾根を目指し、原生林の斜面をガンガン登っていきます。


 ↑ 上を目指します


 ↑ 美しい原生林

30分強で突然登山道が出現。トラロープが張ってあるところに出ました。


 ↑ ウォー!道だ!

どんな遡行であれ、登山道に出るとやはりホッとします。
あとは歩きやすい近丸新道を駆け下りるのみ。
とても充実した一日を過ごすことができました。



■ 遡行を終えて

ヌク沢左俣右沢は登攀的な沢登りが楽しめる、噂通りスリリングなルートでした。
『ヌク沢大滝』は『豆焼沢の大滝』『和名倉沢の大滝』『千丈ノ滝』など奥秩父が誇る名だたる大滝とは異質なものでしたが、クライマー気質が強い方には興味深いものでしょう。
“幻の滝”と言われるだけあり、初めて訪れると、こんなところにこんな大滝があるんだ、とビックリさせられてしまいます。
ヌク沢遡行そのものは、堰堤が多いこともあり、残念ながら沢登りとしての魅力は半減してしまっています。
それでも原生林とナメ床の美しさは今もって健在であり、笛吹川流域らしい明るい渓相を楽しめました。
紅葉の時期に大滝を遡るのもきっと素敵だと思うので、山が赤く燃え上がる季節にまた訪れてみたいと思います。




最後までご一読いただき、有難うございました。

※ HTMLを使用したレポート掲載については許可を得ております。

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フォトギャラリー

圧巻のヌク沢大滝

序盤の渓相

下部は意外にきれいです

美しいナメ滝が続きます

6m小滝

7m小滝

中流部も穏やかな渓相

傾斜のある連瀑帯

連瀑帯最後の10m滝

大滝下段100m

水が迸ります

苔が美しい

大滝下段の最上部

大滝中間部より見上げる

それなりに傾斜があります

大滝右端を登りながら

大滝中段の最上部

大滝上段50m

原生林を詰め上がります

大滝にて記念撮影

・実際に行かれる際は、現地の最新情報をご確認ください。
・ご自身の技術や体力に合った無理のない登山計画で山を楽しみましょう。

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