谷川連峰 湯檜曽川 紅葉の十字峡と袈裟丸沢右俣遡行
- 投稿者
-
伊藤 岳彦
横浜西口店
- 日程
- 2017年10月18日 (水)~
- メンバー
- 単独行
- 天候
- 曇
- コースタイム
- 白毛門登山口駐車場(90分)武能沢渡渉点(20分)白樺沢出合(15分)ウナギ淵(30分)十字峡(40分)白樺沢出合(25分)袈裟丸沢出合(25分)二俣(100分)登山道にて遡行終了(180分)白毛門登山口駐車場
- コース状況
- ※ 本文をご参照ください
- 難易度
感想コメント
十字峡
湯檜曽川本谷は谷川連峰屈指の名渓にして、沢の王道。
個性的な美瀑群と変化に富んだナメ・瀞・釜が幾重にも連なる雄大なスケール感は秀逸です。
ただ今回は天候に恵まれず、沢中泊を断念。
日帰りで十字峡まで往復した後、支流の袈裟丸沢右俣を遡ってみました。
遡行記録としては中途半端なものですが、紅葉のピークを迎えようとしている十字峡の美しさをご覧頂ければ幸いです。
2017/10/18(水) 曇
白毛門登山口駐車場[10:32]…武能沢渡渉点[11:58]…白樺沢出合[12:17]…ウナギ淵[12:31]…十字峡[12:58/13:09]…白樺沢出合[13:48]…袈裟丸沢出合[14:13]…二俣[14:37]…登山道にて遡行終了[16:18]…白毛門登山口駐車場[19:10]
■ 清水越新道を歩く
眼下に見下ろす湯檜曽川の紅葉は案外これからという感じですが、芝倉沢を過ぎると山の様相が段々と深まっていくのが分かります。
アプローチとして今歩いている清水越新道は、上越国境上にある清水峠越えの歴史ある道。
訪れる方はそれほど多くはありませんが、とても静かなトレッキングを楽しむことができます。
↑ 湯檜曽川を見ながら
上部に並行するように、明治初期の遺産とも言える旧道(旧国道)もありますが、新道の方が古いのはよく知られるところです。
ちょうどグッディ掲載、高桑信一氏のコラムでは、この旧道が取り上げられています。
<好日山荘情報誌『グッディ・リサーチ No.35』2017年秋号 P24・P25参照>
そういえば、途中に看板もありました。
↑ 明治7年開通なんですね
一ノ倉沢出合や武能沢出合、白樺尾根上部に宿泊茶屋があったというのは驚きです。
運送会社は当時ベンチャー企業だったのかもしれません。
山深い歴史ある道を歩いていると、過去に多くの先人が行き交ったことを想像し、古人の息遣いというか、何か人の温もりみたいなものを感じてしまうものです。
タイムスリップは大袈裟ですが、おそらく明治の頃から変わらない風景のなかを歩いているのでしょう。
そうした風景は、あらゆる雑念を消し、心を落ち着かせてくれます。
何もかもが目まぐるしく変化していく時代のなかでは、成果を出すために、状況に応じて変わっていくことを常に求められ、心が休まることがありません。
無論それも生存のために大事なことですが、それでも処理しなければならない案件、考えておかなければならないことが余りにも多いような気がします。
それだからこそ、ふと風景のなかに変わらないものを感じたとき、我々は心の安らぎを覚えるのかもしれません。
⇒ 清水越道の歴史概略はこちら
さて、今回の目的地は湯檜曽川流域。
当初の予定では、白樺沢出合付近にベースキャンプを張り、2日目に本谷を遡行するつもりでしたが、残念ながら天気は下り坂。
紅葉の湯檜曽川本谷を遡ってみたいと毎年のように願っていますが、いつも天候に恵まれません。
夜遅くより本格的な雨が降り出す気配が濃厚なので、やむなく日帰りで十字峡まで往復、さらに短時間で遡行できる袈裟丸沢右俣を訪れてみることにしました。
湯檜曽川は谷川本峰から一ノ倉岳、蓬峠、清水峠、朝日岳、白毛門へと連なる、いわゆる“馬蹄形”に連なる山稜の中央を南下し、湯檜曽で利根川に合流する大渓流。
右岸に本邦屈指の岩場であるマチガ沢・一ノ倉沢・幽ノ沢・堅炭かたずみ岩が屏風の如く広がり衆目を集めますが、東黒沢・白毛門沢・ゼニイレ沢・芝倉沢・白樺沢・袈裟丸沢などの支流をもち、近くてよいバリエーションの場を提供してくれます。
武能岳から流下する武能沢を渡ると、新道は白樺尾根に取り付き、旧道と合流して清水峠や蓬峠へと至りますが、武能沢出合から湯檜曽川に下ると、魚止メ滝下に立つことができ、本谷の遡行はここから始まります。
渓相は明るく開豁で、ナメ・瀞・釜・滝が散りばめられ、特に十字峡と呼ばれる屈曲したゴルジュの景観はとても見事なもの。
核心は後半部の大滝ですが、十字峡までなら白樺沢出合から小1時間で遡行することができ、下降も難しいものではありません。
一方、袈裟丸沢右俣は白樺沢に注ぐ大きな支流で、スダレ状のナメ滝が続く明るい美渓。
2段25m大滝や大ナメ滝25m、3段25m大ナメ滝など、短い流程のなかに見所がギッシリと詰まった登攀的な渓として知られます。
そろそろアプローチの新道ともお別れです。
武能沢渡渉点で入渓準備を整え、まずは本谷へ下降。
↑ 武能沢渡渉点
渡渉点にどなたかの荷物がデポしてあったので、釣人がいるんだろうな~と思いながら、武能沢出合まで降りてみると、案の定おられました。
仕方がないので、魚止メ滝はパス。
一旦、武能沢渡渉点まで戻り、登山道から巻き上がることにします。
5分ほど登山道を登ったところに踏跡があるようですが、あまり深く考えず適当に藪に突入。
右手に聞こえるゴオーという瀑音はゴルジュによるものなのでしょう。
瀑音の強弱で沢との距離を推し量り、歩きやすいところを選び、泥濘ぬかるみの多い灌木帯の手前で、ゴルジュ上の広河原に出ることができました。
↑ 広河原に出ました
右岸の開けた場所は幕営適地ですが、湯檜曽川は出水のとても早いところ。天候には充分注意しなければなりません。
石がゴロゴロしてる砂地ですが、整地すれば何とかなりそうです。焚き火跡もありました。
広河原から白樺沢出合まではわずかの距離。
ここ数日の気温低下の影響でしょうか、水温は4月初めのように冷たく、足先が痺れる感じがあります。
↑ 上の方は紅葉してます
↑ 開放的な川床
■ 紅葉の十字峡へ
白樺沢出合を過ぎると、しばらくは開放的な渓相が続きます。
さすが本谷だけあって、沢歩きというより川歩きという感じ。
紅葉を見上げながら、気分よく歩いていくことができます。
↑ 広々とした川歩き
最初に現れる2m滝は左から越えていきます。
↑ 最初に現れる2m滝
続く大きな釜をもつ幅広3m滝には倒木が横たわっていました。
↑ 幅広3m滝
泳いで取り付けば簡単に越えられそうですが、水が冷たいのでパス。
左岸バンドからの巻き。取り付きに残置スリングがありました。
↑ 左岸バンド
バンド上をトラバースしていくと、ちょっと足場の不安定な箇所があります。
難しいと感じた場合は、もう一段上の草付きに明瞭な踏み跡があるので、そこを辿る方が安全です。
渓は再び河原となり、すり鉢の底のような空間が広がります。
↑ 再び河原状に
↑ 名もない枝沢
渓はここで右に90°曲がります。
↑ 右に曲がると…
ウナギ淵。ウナギの寝床とも呼ばれるそうです。
盛夏に泳いだらとても気持ちのよいところでしょう。
また魚影もあるので、釣人にとっては天然の釣堀になるのではないでしょうか。
↑ ウナギ淵
左岸巻きは容易。平らなバンド伝いに歩いていくことができます。
↑ 巻きは容易
ウナギ淵を過ぎると、引き続きゴルジュとなり、正面に涸滝15mをもつ涸棚を望むことができます。
↑ 正面に涸棚
ゴルジュ内の水位は深くても腰くらいまで。
無理に巻くよりも、水の中を進んだ方がいいと思います。
↑ それほど深くありません
涸棚出合では8m滝が本流にかかり、ここで渓は今度は左に90°曲がります。
↑ 涸棚出合
↑ 本流にかかる8m滝
↑ 巻きは左から
岩を攀じ登って8m滝を越えると、今度は3段25mナメ滝が目の前に現れます。
↑ 3段25mナメ滝
ナメ滝越えは傾斜のゆるい右側から。
ヌルヌルしたところが沢山あるので、細かいスタンスをひろいながら進んでいきます。
↑ ナメ滝は右から
↑ 3m滝
続く3m滝を越えると、いよいよ十字峡です。
↑ 十字峡 正面は泡返り沢
正面には天へと続くような大連瀑が大迫力で遡行者を圧倒します。
初めてここを遡行した先人は、
これを登るのか!?
と驚愕したことでしょう。
正面に見えるのは、実は泡返り沢という支流の多段100m滝。
登山体系では出合いの大滝55mと記されています。
↑ 出合いの大滝を見上げる
泡返り沢は、朝日岳より西に派生する支尾根に詰め上がる急峻な渓。
登攀的な沢登りを好まれる方には大変興味深いルートになりそうです。
本流はここで再び左に90°曲がり、ダンジョンのようなゴルジュがさらに続いていきます。
↑ 本流の先の様子
またここは大倉沢が2条8m滝をもって出合うところ。
↑ 大倉沢も出合います
大倉沢は朝日岳を源頭とし、核心部に大滝40mをもつなど、充実した渓相が魅力の渓です。
十字峡と呼ばれるのは、本流と泡返り沢と大倉沢の位置関係によるもの。
黒部渓谷下ノ廊下にある十字峡のように、スッキリとした十字ではありませんが、個性的な沢が交差する自然の造形美は独特な美しさに溢れている気がします。
“燃えるような”と形容される紅葉とまではいきませんでしたが、10月の十字峡を訪れることができて大満足。
来年こそはこの先の本谷遡行をやり遂げたいと思いました。
■ 袈裟丸沢右俣へ
十字峡から往路を引き返し、白樺沢出合まで30分強の下降。
途中ロープを出す場面もなく、淡々と降りてくることができました。
さて、ここからは袈裟丸沢右俣遡行です。
時刻はすでに14時前ですが、日暮れまでには遡行を終えることができそう。
折角なので行ってみることにしました。
仕切り直して、今度は白樺沢に入ります。
↑ 白樺沢出合
すぐに2mのナメ滝。
↑ 2mナメ
その先は局地的なゴルジュ。奥に3mCS滝があります。
↑ ゴルジュ
“ひとまたぎ”と呼ばれることもあるようですが、確かに突っ張りで越えるのが楽しそうなところ。
盛夏の水遊びにはもってこいの場所です。しかし、この水温。深さも結構あります。
恥ずかしながら、思わずパパッと巻いてしまいました。
↑ 3mCS滝
ゴルジュを抜けると一転、渓はとても開放的になります。
↑ 上越らしい開放的な渓相です
途中に幅広4m滝があります。
↑ 幅広4m滝
再び河原状となり、穏やかな渓相に戻ります。
↑ 再び河原状に
右手に枝沢。湧き水でしょうか。不思議なところから結構な水量が流れています。
↑ 不思議な枝沢
この先はナメ床を幾つか過ぎると、やがて二俣です。
↑ 二俣
二俣はいわゆる両門の滝となっています。
左が白樺沢にかかる3段40m滝。右が袈裟丸沢にかかる2段7m滝。
登れる滝が連続する白樺沢も、遡行価値の高い渓として知られます。
↑ 白樺沢出合の3段40m滝
今回の進路は右。袈裟丸に入ります。
まずは2段7m滝を右から越えていきます。
↑ 袈裟丸沢出合の2段7m滝下段
↑ 2段7m滝上段
この滝のすぐ上で、渓はゆるやかに左に曲がり、最初の核心である2段25m滝が現れます。
広々とした空間に鎮座する美瀑は大変優雅なものです。
↑ 2段25m滝
登路は、水流から少し離れた左壁と、ブッシュ混じりの右壁とされます。
少し戻ったところから、右岸の高巻きもできそうです。
右壁は難しそうなので、左壁を選択。
↑ 左壁の様子
ツルツルの岩を何とか突破し、中間のバンドまで上がることができましたが、上段は岩がハングしており、ここを上がるのは私にはちょっと無理。
やむなく小さく左から巻いてしまいました。
この部分は登るのに精一杯となり、細かい写真を撮る余裕がありませんでした。
この上は傾斜のあるナメ滝25mとなります。
↑ ナメ滝25m
左岸の灌木を頼りに登るか、水流際をラバーソールのフリクションで登るのが一般的とされますが、先ほどの巻きが大きかったため、落ち口に降りるのにロープが必要な状況に。
魔が差したというか、時間が押しているためか、このまま25m滝は安易に右岸から巻き上がってしまいました。
巻き上がったところは広場になっているので、小休止。
後ろを振り返ると、湯檜曽川本谷の切れ込みの上にそびえ立つ笠ヶ岳が印象的でした。
↑ 笠ヶ岳を望む
渓はこの先で再び1:1の二俣となります。
左は袈裟丸沢左俣。登山体系などにも特に遡行図は載っていませんが、中流部に大滝があるようです。
↑ 袈裟丸沢左俣出合
今回はポピュラーな右俣へ。
↑ 右俣へ入ります
右俣に入ると、まもなく逆くの字滝2段15m。
真上に送電線が走っています。
↑ 逆くの字滝2段15m
この辺りは右壁の小さなスタンスを頼りに、バランスよく登っていきます。
さらに8m滝が2つ続きます。
↑ 最初の8m滝
右から強行突破できそうですが、ちょっとスタンスが細かそう。
ここも無理せず右岸の灌木帯から強引に高巻いてしまいました。
この辺りまで来ると、段々と集中力が切れ、滝を直登する意欲が減退気味。
こういうときはスリップなど怪我をしやすいので、頭の中で警報が鳴っている感じがします。
↑ 続くY字8m滝
ここはガバが豊富なので、慎重に左壁を登りました。
↑ とても滑りやすい
この上は再び二俣。水量比3:2。左に進みます。
↑ この二俣は左へ
続いて第二の核心である3段25m滝が現れます。
↑ 3段25m滝
難しそうなのは最下段のみという感じ。
右から小さく巻いて、2段目に上がることができれば、あとは水流の右を登っていけばよさそう。
しかし落ち葉が多く、滑りやすい岩肌がとても不安。
普通ならばテンションを上げて挑戦するべきところですが、この時は集中力も切れ、どうもテンションが上がりません。
ここでも頭の中で警報が鳴っています。
怪我をすると元も子もないので、結局高巻きを選択しました。
高巻きは右岸。灌木を頼りに急斜面をトラバースしていく感じで、意外に時間がかかってしまいました。
無事3段25m滝を越えると、その上は多段30m。
ナメ滝が幾つも続きますが、どこからどこまでで30mなのかよく分かりませんでした。
↑ 多段30m滝?
この上は水線も細くなり、小滝が幾つか続きます。
↑ 小滝を越えていきます
やがて奥ノ二俣のような黒ナメ滝7mへ。
↑ 黒ナメ滝7m
とても滑りやすい滝なので、右から高巻きました。
ここからは少し傾斜もゆるくなり、そろそろ登山道が横切りそうです。
道がつけられるとしたら、地形的にあの辺だろうと見当をつけて進んで行くと、やがて目印といわれるCS滝3mが現れます。
↑ CS滝3m
この上で登山道が横切りますが、注意をしていないと確かに通り過ぎてしまいそうな感じでした。
↑ 登山道はこんな感じ
↑ これで無事下山できます
いつもなら、遡行達成の充実感から “ウオー!道だ!” と叫ぶところなのですが、この袈裟丸沢遡行は高巻きばかりとなってしまい、まるで反省するために遡行したような気持ちになってしまいました。
“挑戦してみて自分の力量では無理だと判断したから高巻く”というのはあとで納得できるものですが、“挑戦もせずに安全第一を言い訳に高巻く”というのはどうも山に対して不誠実であるような気がして、とても後味の悪いものです。
十字峡と袈裟丸沢遡行という二兎を追うことをしてしまったために、集中力を長く維持できなかったように思えます。
湯檜曽川流域は決して軽い気持ちで訪れてはいけない場所。
山に対して誠実であるためには、挑戦する気持ちを失ってはいけないのではないだろうか。
そのためには、体調とメンタルをしっかりと整え、危機管理をしながらベストを尽くさなければならないのではないだろうか。
それが山に対する礼儀でもあるのではないだろうか。
帰路、湯檜曽川を挟んで量感溢れる馬蹄形の山並みを望みながら、そんなことを考えてしまいました。
最後までご一読いただき、有難うございました。
※ HTMLを使用したレポート掲載については許可を得ております。
※ 画像サイズはスマートフォンで見やすい大きさに設定してあります。
※ 滝表記については、『沢登り銘渓62選』(山と渓谷社)を参照させて頂きました。
フォトギャラリー
・実際に行かれる際は、現地の最新情報をご確認ください。
・ご自身の技術や体力に合った無理のない登山計画で山を楽しみましょう。