谷川連峰 赤谷川探勝 ~ 美瀑アミダノセンと雄滝雌滝を巡る爽快な渓歩き(主稜線南面 赤谷川本谷下部)

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投稿者
伊藤 岳彦
横浜西口店 店舗詳細をみる
日程
2018年07月10日 (火)~
メンバー
単独行
天候
曇一時雨
コースタイム
川古温泉駐車場(120分)赤谷林道終点先より入渓(20分)アミダノセン(60分)雌滝(10分)登山道渡渉点(60分)赤谷林道終点(85分)川古温泉駐車場
コース状況
※ 本文をご参照ください
難易度
Google Map
  • スタートナビ
  • おとな女子登山部

感想コメント






赤谷川探勝




赤谷川は渋沢まで立派なる道ありて渋沢入を伐採中なりき。それより上流へは鉱山の廃路あるも通用不可能なり。渋沢と赤谷川とのドアイ[※=土合。沢の合流点を指す地方語。出合、落合に同じ]には伐採者の夏小屋三あり。赤谷川はそれより上流に向いて半里行くと二分す。右手は阿弥陀川[赤谷川本谷]にて左手は笹穴川[現在の金山沢]なり。川はこの点まではすこぶる歩き良し。

 大島亮吉 『笹穴川上流』より 1931年初出





谷川連峰屈指の豪快さを誇る赤谷あかや川本谷。
一度は完全遡行を試みたい名渓ですが、今回は下見を兼ねて日帰りでの下流部遡行。
突然のゲリラ雷雨に阻まれ、渡渉点より先へ行けませんでしたが、「アミダノセン」「雄滝」「雌滝」は想像をはるかに越える素晴らしい瀑でした。





  2018/7/10(火) 曇一時雨

川古温泉駐車場[10:11]…赤谷林道終点[12:03]…入渓点[12:08]…アミダノセン[12:26]…雌滝[13:27]…登山道渡渉点[13:40]…赤谷林道終点[14:44]…川古温泉駐車場[16:10]







■ 荒々しい流れ

水温は思っていたほど冷たくはない。
アプローチで火照った躰には心地よく、首まで浸かっても気持ちよいくらいだ。

しかし、さすがは赤谷川本谷。
激しい流れの真ん中に仁王立つと、その迫力に身震いするものを感じます。
連日起こっているであろう夕立のためか、水量はおそらく常よりもとても多いのでしょう。
普段近くて行きやすい奥多摩・奥秩父・丹沢の渓で感じる水の清らかさとは明らかに異なる印象。
荒々しい水の流れに、凶暴な意志のようなものを感じ、気を引き締めていかないと怪我をするぞ、という警告を受けたような気にさせられました。


 ↑ 赤谷川本谷に降り立つ



赤谷川は、オジカ沢ノ頭から万太郎山、仙ノ倉山、平標山へと続く谷川連峰主稜線の南側の水を集めて南進する大渓流で、その豪快さは谷川連峰屈指のもの。
昭和二(1927)年、日本登山史にその名を刻む、かの大島亮吉(1899~1928)によって支流の金山沢右俣(と思われる)が遡行された古い記録をもつものの、本格的な開拓は戦後になってからのこと。
しかし昭和の頃でも訪れる登山者は決して多くなく、山本来の静寂さが依然として保たれてきたと言われます。
本谷は「マワットノセン」「裏越ノセン」「ドウドウセン」といった超絶美瀑を有し、800mにも渡る巨岩帯や険悪なゴルジュ帯が連なる反面、上流部では穏やかで開豁な渓相が広がり、とても変化に富んだ沢中1泊の心に残る沢旅を約束してくれます。

支流にもそれぞれスケール豊かな大滝をもつ渓が幾つかあり、昨今訪れる登山者は極めて稀ですが、登山体系では「熊穴沢」「熊穴沢七段ノ滝」「東ノ滝沢」「越ノ滝沢」「エビス大黒沢」「金山沢左俣」「金山沢右俣」「金山沢右俣滝沢」「笹穴沢」が紹介されています。


今回はいつかは挑戦したい赤谷川本谷の偵察を兼ねた日帰り渓歩き。
赤谷林道終点の先から入渓し、登山道を使ってしまっては間近で見ることができない「アミダノセン」「雄滝」「雌滝」を望んだ後、登山道渡渉点を越えて、「マワットノセン」くらいまで行ければと思っていましたが、突然のゲリラ雷雨に阻まれてしまったため、渡渉点より先は断念。
それでも本谷の奥深さの一端を存分に味わうことができたように思えます。


アプローチの起点は川古かわふる温泉。
関越自動車道月夜野ICを降りて国道17号を新潟方面に向かい、猿ヶ京温泉手前の「相俣」の信号を右折して、県道270号線へ。
新田沢に架かる赤い鉄橋を渡ったら左折し、川古温泉まで。
温泉手前の左側に10台ほど停められる駐車スペースがあります。


 ↑ 駐車スペース

ここはまた、赤谷川の支流小出俣おいずまた川各支流の起点にもなっています。


 ↑ 赤谷林道ゲート

川古温泉からは未舗装の赤谷林道を辿り、まずは赤谷川橋まで約80分。


 ↑ 赤谷川橋手前を右へ

ここから右へ派生する林道(というか山道)を30分ほど辿ると林道終点へ。


 ↑ 赤谷林道終点

さらに伸びる山道を辿ると、すぐに金山沢出合が左手に見え、まもなく樹林帯のなかに小広場が現れます。
登山体系によると、ここはユウノ窪のテントサイトとされています。


 ↑ 素敵なテン場です

昭和の香り漂う趣きで、1人用テントなら10張くらい張れそう。焚火跡もあります。
森の中のとても静かなテン場なので、余裕があれば是非一晩お世話になりたいところです。
水はすぐ先の枝沢ユウノ窪で得られます(因みにエアリアマップではイラクボ沢と表記があります)。


 ↑ ユウノ窪



本谷遡行を行う場合、一般的にはここから伸びる「越路こしじ」登山道を使い、1時間ほど先から入渓しますが、今回は日帰りの渓歩きが目的。
折角なのでここから入渓し、帰路に上記登山道を使うことにします。



■ 言葉のいらない世界

ユウノ窪出合から本日も遡行開始。
水量はとても豊富ですが、水位は深くても腰くらいまで。
谷川連峰らしい渓の奥深さを存分に感じながら、水の中を突き進んでいきます。
ここからは何も言葉のいらない世界です。





















水量は依然豊富ですが、特に泳ぎや深いヘツリもなく、快適に歩いて行くことができます。
やがて渓は右に90°曲がり、何やら大きな瀑音が響いてきました。


 ↑ 瀑音響いてます



■ アミダノセンはド迫力の水量

そして、突如現れる大水量の大滝。




 ド迫力!


物凄い風圧で、気軽に近づくことができません。
これこそが「アミダノセン」に違いありません。
赤谷川本谷の別名は阿弥陀沢
その沢の名を冠するだけあり、大変見事な美瀑です。




 ↑ アミダノセン

因みに「セン」とは滝を意味する地方語。
複合語で「ゼン」とにごることもあります。
上信越には「○○ノセン」という名のある美瀑が幾つも存在します。

さて、直登はどう見ても無理......。っていうか、風圧で吹っ飛ばされそう。
左岸上部には登山道があるはずですが、おそらくかなり上の方にあると思われます。
という訳で、パッと目に付いたお誂え向きの左岸ルンゼを強引に登ることにしました。


 ↑ 左岸ルンゼを登ります

しかしルンゼを越えても、明瞭な踏み跡がある訳ではなく、急斜面のトラバースを余儀なくされます。
灌木が沢山あるので、体を支えられますが、滑落には注意したいところ。
傾斜のやや緩いところを見つけ、何とかロープ不要で沢へ戻ることができました。


 ↑ トラバースしたところ


 ↑ アミダノセン落ち口

もしもここを巻き下るとなると、結構面倒な感じ。
帰りにここを下ることがないようにしたいな、と思ってしまいました。
さて、一息入れて遡行再開です。












 ↑ 名もない美瀑


 ↑ 右壁を登ります


 ↑ ありがたい倒木




 ↑ 多くの小滝があります


 ↑ 大きな二条滝でした


 ↑ 右岸から小さな枝沢




 ↑ 稜線が見えました











■ 雄滝雌滝に感動

最近は沢に入る前に、極力事前に情報を得ないようにしています。
オンサイトによってルートファインディング能力を高めるためですが、先入観なしでより純粋な感動を得たいという欲求もあります。
そのため今回も「雄滝」「雌滝」があることは分かっていましたが、“おそらく10mくらいの滝が仲良く並んでいるんだろう”くらいの気持ちで歩いていたのですが......。


 ↑ んっ、あれは何だ?




 デカッ!


「雄滝」と「雌滝」

想像をはるかに越える大滝でした。




 ↑ 雄滝は二段滝




 ↑ 雌滝は優雅です

いわゆる「夫婦滝」ですが、さすが谷川連峰のスケールは大きい。
増水と相まって、真下から見上げる大滝の迫力は筆舌に尽くし難いものがありました。


 ↑ そろそろ登山道渡渉点です


 ↑ 上の平坦部が登山道


 ↑ 雲行きが怪しくなってきました

そろそろ渡渉点に着くと思い、注意深く辺りを見回すと、絶対見落とすはずもない赤い矢印がありました。


 ↑ 渡渉点には矢印あり

思わず

“渡渉ができなくて困っている山ガールをさりげなく助ける”

という妄想をしてしまいましたが、今どきここを通る登山者は、沢ヤを除けば皆無に等しいでしょう。



■ 脱出

渡渉点では右岸に「エビス大黒沢」が25m滝をもって出合います。




 ↑ エビス大黒沢出合の滝

因みにエビス大黒沢は高巻き不可の関門ノ滝、四段ノ滝60m、50m大滝を有する難渓として知られます。
高巻きができない、文字通り登らなくてはならない関門ノ滝
ちょっと興味をそそられます。


渡渉点で一息ついて、まだ時間は大丈夫なので先へ進もうとすると......。




ポツポツ......ザーッ!


大雨です


こんなところでゲリラ雷雨とはツイてないなとまず思いましたが、丁度エスケープに使える登山道があるところなので、『やっぱり俺って山の神に守られてる!』と都合のいい解釈をすることにしました。

さて脱出!というところですが、ふと遠く行く先を望むと、遥か遠くの壁に一条の白線が引かれているのが目に留まりました。


 ↑ 遥か遠くの壁に大滝が......

この時は、この大滝があまりにも感動的な風景に見えて、何故か胸が熱くなりました。

ともすれば我々は生活のため仕事のためだけに生きているように思ってしまうことがありますが、このような非日常的な風景に出会うと、

『こういう感動を得るために生きてるんだな!』

という気持ちにさせられます。

こんな気持ちになっただけでも、赤谷川に来て良かったと思いました。


 ↑ 今回は残念ながらここまで







        





帰路は登山道にて脱出。
完全廃道で踏み跡もなかったら面倒だな、と正直思っていたのですが、なんてことはない、立派な登山道です。
決して歩きやすい道ではありませんが、何か先人の温もりが残っているようで、ホッとするものがありました。


 ↑ 道は有難いものです




今回帰りの立ち寄り湯は、“奥平温泉 遊神館”。
国道から10分ほど離れたところにありますが、雰囲気の良い町営温泉です。
露天風呂・薬湯・大浴場・サウナもあり、充実しています。
¥570だと思って入ったら、

「感謝デーなので、¥300です。」と言われ、


「¥300でいいの!」


思わずデカい声で叫んでしまいました。
巻機山の帰りに立ち寄る「金城の里」¥320を越える新記録でした。



⇒ 奥平温泉 遊神館の情報はこちら



2017年11月に赤谷川支流の小出俣川左俣マチホド沢を訪れています。
大ヒラナメのセンと呼ばれる200mの石の絨毯は必見です。
関連遡行記録として、ご覧頂ければ幸いです。



⇒ 小出俣川左俣マチホド沢の登山レポートはこちら




最後までご一読いただき、有難うございました。

※ 画像サイズはスマートフォンで見やすい大きさに設定してあります。



フォトギャラリー

赤谷川の美しさは秀逸でした

赤谷川は谷川連峰屈指の豪快さを誇ります

ユウノ窪のテントサイト

入渓点にて

苔が美しい

迫力満点のアミダノセン

名もない美瀑が幾つもあります

雄滝は二段滝

雌滝はとても優雅でした

エビス大黒沢出合の25m滝

遥か遠くの壁に白線を刻む大滝が心に残りました

安全圏にて記念撮影

・実際に行かれる際は、現地の最新情報をご確認ください。
・ご自身の技術や体力に合った無理のない登山計画で山を楽しみましょう。

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