大菩薩 いにしえの名渓 小金沢本谷 其の壱 ~ 関東屈指の大渓谷へ (鶏淵から大樺沢出合まで)
- 投稿者
-
伊藤 岳彦
横浜西口店
- 日程
- 2021年07月15日 (木)~
- メンバー
- 単独行
- 天候
- 曇
- コースタイム
- 小金沢公園(25分)林道下降点(15分)入渓点(10分)鶏渕(90分)2連の堰堤上(100分)大樺沢出合(10分)林道へエスケープ(70分)小金沢公園
- コース状況
- ※ 本文をご参照ください
- 難易度
感想コメント
小金沢本谷
この帝都の近くに、これほど深く、これほど無駄のない、これほど美しい谷があらうかとは、小金澤を歩いて、本當に體得される僞らざる實感であつた。小金澤と土室澤の出合にかゝる、高い吊橋からのぞく、上流や下流の深いおもむきに、上流への遊志が、强くゆり動かされるのを覺える。
原全教 『奥秩父』 続篇 より
小金沢本谷は大菩薩峠より連なる小金沢連嶺の東を流れる一大渓谷。
かつては関東屈指の大渓谷と評された、いにしえの名渓です。
長らく発電所工事のため入渓ができませんでしたが、工事が終わり、林道への立ち入りが可能になりました。
梅雨の明けない曇り空でしたが、新たな遊び場を求め、未知なる世界へ足を踏み入れてみました。
※ 今回は分割遡行の第1回目として、鶏淵から大樺沢出合まで前半部を遡行してみました。
2021/7/15(木) 曇
小金沢公園[9:50]…林道下降点[10:14]…入渓点[10:32]…鶏渕[10:43] …2連の堰堤上[12:18] …大樺沢出合[13:54] …林道へエスケープ[14:04] …小金沢公園[15:17]
【画像が表示されない場合】
Google Chromeで好日山荘登山レポートを開くと、本文の画像が表示されない場合があります。
その場合は、
設定 > プライバシーとセキュリティ > Cookie と他のサイトデータ > 常に Cookie を使用できるサイトに “https://www.kojitusanso.jp/tozan-report/” を追加 >
安全でないコンテンツ > 許可にする
以上で、見ることができるはずです。
本文の画像は通常のフォトギャラリーと同じところに保管されているので、安全面での問題はないと思うのですが・・・。
差し支えなければ、お試し頂けると助かります。
■ 朗報
長い間入山禁止であった場所が、解禁されていたという朗報を得ました。
「行ってみたいけど、もはや行くことはできないだろう」と諦めていた世界に「行ける!」と分かっただけで、俄然生きるモチベーションが高まってしまうもの。
新しい遊び場を見つけたワクワク感は、気持ちを若返らせてくれます。
今回ご紹介するのは、大菩薩の東側を流れる小金沢。
正確には大菩薩峠の南に連なる小金沢連嶺の東側に位置します。
小金沢は小金沢山を水源として東進する一大渓谷で、その深遠な渓谷美によりかつては関東屈指の名渓と言われ、冒頭で紹介したように、原全教(ウィキペディア参照)氏が絶賛するほどでした。
東京近郊とは思えない山深さと大水量のなか、長大なゴルジュや幾つもの美瀑と淵が散りばめられ、沢を愛する者を魅了してやみません。
鶏淵にはじまり、御茶ノ水ノ滝、六人移り、不動滝など名のあるスポットがめくるめくように現れ、その深遠な渓谷美に心が動かされます。
これだけ雄大なスケールをもつ小金沢本谷ですが、並行して走る林道が、長い間通行止めとなっており、実質的に入渓不可とされてきました。
小金沢本谷沿いには、深城と大峠をつなぐ「真木小金沢林道」があり、この林道は葛野川地下発電所の建設に関係している?ようで、工事が終わったのは2年ほど前。
2020年7月30日初版の「新版 東京起点 沢登りルート100」(山と渓谷社)には、小金沢本谷が紹介されており、
『2019年現在、工事も終わり、小金沢公園脇のトンネル入口のゲートで一般車の乗り入れは禁止されているが、徒歩での入渓は可能となった』
と明言されています。
小金沢本谷は「沢」というより「川」と言うべき長大なルート。
上部は支流の大菩薩沢と本流のマミエ沢に分かれますが、とても源頭部まで一日で遡行できるものではありません。
しかし、幸か不幸か、林道が並行してあるということは、区間を分ける分割遡行ができるということ。
しかも、東京から比較的近いので、休みの度に通えます。
小金沢公園起点はもちろん、大峠を起点とした源流部散策もできそう。
まさに「誰もいない静かな遊び場」として、これから何度も訪れてしまいそうな予感がしています。
■ 小金沢公園
さてアプローチについてですが、起点となるのは小金沢公園。
↑ 奥に公園があります
国道139号線沿い、ふかしろ湖に架かる新小金沢橋を渡って右にある公園には、20台ほどの無料駐車場があり、きれいなトイレも完備されています。しかも無人。
怪しい路肩に停めることを強いられることの多い沢登りでは、これだけで有難いもの。
新宿から距離にして、90km強。
奥多摩から小菅経由の下道で行くもよし、中央道ならば大月ICからが一番ラクそうですが、上野原ICから県道で小菅方面へ行くこともでき、最近できた談合坂スマートICで降りるのもありです。
今回は夜中に小金沢公園に到着し、朝は10時頃の出発。
土日は釣師の方がいるのかもしれませんが、平日のこの日は他に誰もいません。
沢へ下る場所までは20分ほどの歩きなので、最初から沢装備で、フェルト靴を履いて出発。
↑ スタート地点
林道入口にある短いトンネルを抜けると、初めて訪れる世界に否応なくワクワク感が高まっていきます。
↑ 山深い世界へ
■ 謎のトンネル
しばらく進むと、大きなシャッターで閉じられた巨大なトンネルがありました。
↑ 突然現れるトンネル
???
一体このトンネルは何のためにあるのだろう?
気になったので調べてみました。
この小金沢本谷周辺は、一般的にあまり知られていませんが、東京電力による葛野川総合電源開発と呼ばれる壮大な開発が行われている山域。
小金沢連嶺の西にある大菩薩湖と、東にある松姫湖はかなり離れているのも関わらず、小金沢山を貫く10kmの地下パイプでつながっており、大菩薩沢とマミエ沢の合流点の地下500mには巨大な地下発電所があるそうです。
大菩薩湖のある上部ダム(上日川ダム)から地下発電所へ、世界最大級となる有効落差714mもの水を落とし、120万kwの発電をしているとのこと。
これは何と黒部ダムの4倍!
さらに2024年頃には4番目の発電機が営業を開始し、出力160万kwになるそうです。
これだけでも驚きですが、この発電所は揚水式の水力発電所で、上部ダムから下部ダム(葛野川ダム)へ落とした水を、再び上部ダムに引き揚げて再利用までしています。
電力需要が高まる昼間に、水を落として発電。逆に電力需要の低くなる夜間に、下部ダムから上部ダムへ水を送り返し、それをまた翌日発電に使用しているのだそうです。
話が長くなりましたが、このトンネルはどうやら地下発電所への入口。全長5kmもあるそうです。
地下発電所やトンネルができたことで、小金沢本谷がどのように変化したのか、知る由もありませんが、少なくとも沢が荒れたり、見た目が大きく変わった訳ではなさそうなので安心しました。
■ 入渓
小金沢本谷への下降は、大堰堤の先にある枝沢を利用するのが良いようです。
ひと際音が大きい大堰堤を樹林越しに見下ろしながら進むと、下降点はもうすぐ。
駐車場からは約20分ほど。
目印として、待避所⑨の先にある枝沢と覚えておけばいいでしょう。
↑ ここが下降点
「安全速度20」の黄色看板が沢への入口。枝沢の下降は容易。ほんのわずかで本谷へ降り立つことができます。
↑ ここを下ります
↑ 本谷が見えてきました
本谷へ降り立った第一印象は、沢というよりも川といった感じ。
↑ 本谷へ降り立ちました
豊かな緑に包まれた雄大な流れに、心が洗われる気がします。
さて、本日も遡行開始!
水温も7月なので低くなく、快適な遡行が楽しめそうです。
しばらくは穏やかな川歩きが続きます。
■ 鶏淵を越えて
やがて最初のハイライト、鶏淵ノ滝6mが現れます。
↑ 大きな釜をもつ鶏淵
原全教氏の著書には100年前の写真が掲載されているのですが、今以上に落差があり10mはありそうです。
長い年月をかけて滝上が削られてしまったのでしょうか。
さて、登路は左。
↑ 左壁の様子
岩がヌメっていますが、ガバは豊富にあり、容易に登ることができます。
↑ ガバは豊富です
↑ 登りながら
鶏淵を越えると、またしばらく穏やかな渓相が続きます。
↑ 上を見上げると緑が美しい
やがて、倒木が横たわる長淵が現れます。
↑ 倒木が見えました
↑ 水深浅く、通過は容易です
どうしてこのように見事に巨木が挟まるのか不思議に思ってしまうところです。
しばらく進むと、大きく右に曲がった地点に深い釜が現れました。写真では大きさが伝わりませんが、この釜の空間は案外広く、右岸側は特に足がつかないほど水深が深くなっています。
↑ 見た目以上に立派な釜
登路は左。泳いで左壁に取り付き、強引に斜上トラバースする感じです。
今回は安物ですがライフジャケットを持参したので、ここで試してみることにしました。
ザックを背負っていると通常浮くものですが、水の流れによっては沈んでしまうこともあり、油断大敵。
しかしライフジャケットがあると、心理的にやはり安心!
躊躇なく釜に飛び込むことができました。
↑ 登りながら。半端ない水量です。
↑ 無事に通過
↑ 釜を上から見下ろす
この辺りは、まさにウォーターワールドといったところ。
関東にはズブ濡れになって遊べる大水量の沢は案外少ないものですが、小金沢本谷はスケールの大きさで言っても別格。
このような豊かな大自然が首都圏近郊に存在することは大きな驚きです。
強いて言えば、荒川源流域の滝川本流や入川本流に渓相が似ている気がしますが、水量の多さでは小金沢本谷に軍配が上がるのではないでしょうか。
さて、その上も釜が続きます。
↑ 次なる釜
↑ 右岸を微妙なバランスで乗り越えます
↑ 水の美しさに魅了されます
↑ 釜を越えて
やがて再び横たわる倒木を見ると、2連の堰堤が見えてきます。
↑ また大きな倒木がありました
↑ 2連の堰堤
上段の堰堤は高さがあり、きっと昔はここに大滝があったのかもしれません。
この堰堤の巻きは右岸。明瞭な巻き道があります。
↑ 明瞭な巻き道
因みに、堰堤があるということは林道に通じる作業道があるということ。
案の定巻き道以外にも、上部林道へ通じる踏み跡を見ることができます。
あとで分かったことですが、この2連の堰堤は待避所⑯につながっていました。
↑ 待避所⑯
エスケープルートとして利用できるので、覚えておくとよいと思います。
■ 前半部の佳境へ
2連の堰堤を越えると、またしばらく穏やかな渓相が続きます。
↑ 右岸支流の滝沢出合
↑ 小滝を越えます
↑ この辺りは巻きます
↑ トラロープあります
↑ 巻きながら
↑ 左岸バンドを伝って下降
↑ 緑豊かです
↑ 再び穏やかな渓相
やがて左岸支流に連瀑をもつ無名沢が現れます。
かなりの高さをもつナメ滝です。
↑ 連瀑をもつ無名沢
ここを過ぎると、深いトロ場の続くゴルジュに突入します。
再びライフジャケットを着用し、いざゴルジュへ。
↑ ゴルジュへ入っていきます
↑ 深いトロ場
基本は水線通し。水深は深くても胸くらいまで。
左岸に幾つかトラロープがぶら下がっていますが、登る訳ではなさそう。水線トラバース用でしょうか。
↑ ロープがぶら下がっています
↑ ここは巻くしかなさそう
↑ 結構水は冷たいです
↑ 左岸巻き
この辺りはホールドもあり、見かけほど難しくはありません。
ロープを伝って、上部へ容易に抜けることができます。
↑ トロ場を越えて
↑ 一部ロープを伝って巻きます
↑ ちょっと一休み
■ 大樺沢出合で今日は終了
この辺りまで来ると、上部に林道が見え隠れします。
傾斜のゆるいところを辿れば、労せずエスケープ可能。
さすがに体も冷え、集中力も切れてきました。
一度に無理をせずとも、体調や気分に応じて遡行距離を自由に変えられるのが、分割遡行のよいところ。
今日はキリのいい大樺沢出合をゴールとして、もう少し遡行してみることにしました。
↑ 再びトロへ。水深は胸くらい
↑ ワイヤーは伐採の名残?
↑ ありがたいトラロープ
やがて洞窟のような隙間越しに、優美な美瀑が現れます。
↑ 大樺沢出合が見えてきました
↑ 大樺沢出合
↑ 2段3条の優美な美瀑です
もう少し先にハイライトの一つ、お茶の水の滝がありますが、今日はここまで。
ここから先は次回の楽しみにとっておくことにします。
↑ この先は次回のお楽しみ
ちょうどいい具合に、林道もすぐ上に見えます。
↑ ここを直上します
↑ もうすぐ林道だ
↑ ここに出ました
ここから駐車場までは1時間ほど。
渓を辿るのに比べると、林道歩きのいかに早いことか。
ふと空を見上げると、天気予報では雨だったはずなのに、夏らしい青空が祝福してくれました。
↑ 帰路、青空が広がる
今回で全体の3分の1ほど遡行したでしょうか。
次回は、大樺沢出合からお茶の水ノ滝を越えて、不動滝まで。
その次は、不動滝からマミエ沢出合までを遡行してみたいと考えています。
さらにアプローチを変えて、上流に広がる大菩薩沢やマミエ沢、その支流を遡るなど遊び方は幾通りも思いつきます。
関東屈指の大渓谷、小金沢本谷。
日本登山体系にはまだ深城ダムが建設される前のルート解説や遡行図が掲載されていますが、発電所工事が終わった現在と比べても、著しい変貌を遂げた訳ではなさそうです。
昭和の頃多くの遡行者が目にした世界と、現在の我々が目にする渓相がどう変化したのか、知る由もありませんが、深遠な渓谷美は今も健在!
その美しさに魅せられ、これから何度も訪れてしまうことになりそうです。
帰りの立ち寄り湯は、「小菅の湯」。
小金沢公園から松姫トンネルをぬけて10分ほど。
小菅の湯(金曜休)の情報はこちらをご覧ください
最後までご一読いただき、有難うございました。
※ 画像サイズはスマートフォンで見やすい大きさに設定してあります。
フォトギャラリー
・実際に行かれる際は、現地の最新情報をご確認ください。
・ご自身の技術や体力に合った無理のない登山計画で山を楽しみましょう。