大菩薩 いにしえの名渓 小金沢本谷 其の弐 ~ 関東屈指の大渓谷へ再び (大樺沢出合から不動滝まで)

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投稿者
伊藤 岳彦
横浜西口店 店舗詳細をみる
日程
2021年07月28日 (水)~
メンバー
単独行
天候
コースタイム
小金沢公園(70分)大樺沢橋の先より下降(5分)入渓点(15分)お茶の水の滝下(20分)同滝上(50分)倒木と岩組みの滝(15分)六人移り(15分)不動滝下(20分)林道へエスケープ(90分)小金沢公園
コース状況
※ 本文をご参照ください
難易度
Google Map
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感想コメント






小金沢本谷




この帝都の近くに、これほど深く、これほど無駄のない、これほど美しい谷があらうかとは、小金澤を歩いて、本當に體得される僞らざる實感であつた。小金澤と土室澤の出合にかゝる、高い吊橋からのぞく、上流や下流の深いおもむきに、上流への遊志が、强くゆり動かされるのを覺える。


 原全教 『奥秩父』 続篇 より





小金沢本谷は大菩薩峠より連なる小金沢連嶺の東を流れる一大渓谷。
かつては関東屈指の大渓谷と評された、いにしえの名渓です。
長らく発電所工事のため入渓ができませんでしたが、工事が終わり、林道への立ち入りが可能になりました。
台風一過の夏空の下、再び小金沢本谷を訪れました。

※ 今回は分割遡行の第2回目として、大樺沢出合から不動滝まで中間部を遡行してみました。





  2021/7/28(水) 曇

小金沢公園[10:10]…大樺沢橋の先より下降[11:20]…入渓点[11:25]…お茶の水の滝下[11:38] …同滝上[12:00] …倒木と岩組みの滝[12:51]…六人移り[13:05] …不動滝下[13:19] …林道へエスケープ[13:37] …小金沢公園[15:08]








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本文の画像は通常のフォトギャラリーと同じところに保管されているので、安全面での問題はないと思うのですが・・・。
差し支えなければ、お試し頂けると助かります。




⇒ 小金沢本谷前半部(鶏淵から大樺沢出合まで)の遡行記録はこちらをご覧ください。




■ いきなりゴルジュ

今日は分割遡行の2回目。
前回は大樺沢出合が遡行終了点だったので、今回はそこがスタート地点となります。
小金沢公園の駐車場から大樺沢橋まで1時間強の林道歩き。


 ↑ 夏空の下、林道歩き


 ↑ 大樺沢橋

橋の手前で入渓準備を整え、前回詰め上がった斜面を5分ほど下降。
小金沢本谷に降り立つと、またここに帰ってきたという不思議な感慨を抱いてしまいます。


 ↑ 今回の入渓点

いきなり陰鬱なゴルジュからのスタートとなりますが、これから新しい風景に出会えるワクワク感が湧き上がってくるのが分かります。

さて、本日も遡行開始!


 ↑ いきなりゴルジュ


 ↑ 結構水が冷たいです




 ↑ 渓が大きく右に曲がります

ここで渓が大きく右に曲がりますが、奥の方から何やら大きな瀑音が聞こえてきます。



■ お茶ノ水ノ滝

渓を曲がると、奥に大きな滝が現れました。


 ↑ 大きな滝が見えました

手前に深いトロがありますが、端の水深は胸くらいまで。無理に泳ぐ必要はありません。


 ↑ 手前の深いトロ

深いトロを過ぎると、目の前に大滝が立ち塞がります。
これこそが、


お茶ノ水ノ滝



 ↑ 神秘的です


 ↑ 深い釜を携えています


 ↑ 一見の価値ありです

深い谷底に屹立する、とても神秘的な大滝ですが、なぜこのような名前がついているのでしょうか。

東京の「御茶ノ水」は江戸初期に、外堀を掘るための神田山切り崩し中、高林寺の境内から水が湧き出し、その水を徳川秀忠のお茶をたてる水として献上したことが、地名の由来とされているそうですが、この滝はお茶とは関係なさそう。

原全教氏の著書には以下のような記述があります。


十數年前數名の獵人が、一頭の大鹿をこのあたりへ追ひ込んだところ、手負の鹿が、この淺い淵を泳ぎながら水を飲んだ。それが御茶ノ水と云ふ名前の由來である。


なぜこれがお茶ノ水となるのか、現代人にはよく分からないところですが、何やらもの悲しい由来に何となく心が痛んでしまいます。

さて、お茶ノ水ノ滝は直登不可。高巻きは左岸ルンゼから。


 ↑ 左岸ルンゼ全容


 ↑ 滝下の空間を見下ろす


 ↑ ロープあります


 ↑ 沢への下降は容易

高巻きは次の滝もまとめて行いますが、折角なので一旦沢へ降りてみました。


 ↑ お茶ノ水ノ滝の落ち口

すぐ先に別の立派な滝があります。


 ↑ 6m滝?

この滝も登れないので、再び高巻き。
左岸斜面は広く、傾斜もそれほどきつくはないので、高巻きは容易でした。


 ↑ 巻きながら

高巻きを終え、しばらく進むと今度は見栄えのする3m滝が現れます。


 ↑ また滝が見えてきました


 ↑ 釜をもった3m滝

右から容易に越えることができますが、左岸巻きもできるようです。

この先しばらくは、トロを交えながら落ち着いた渓相が続きます。








 ↑ 2条2m滝



■ 六人移り

やがて顕著な4mが現れます。


 ↑ 4m滝が見えました


 ↑ 意外に立派な小滝です

登るなら左壁の直上。左岸巻きは容易です。


 ↑ 左壁全容


 ↑ グレードIII+だそうです


 ↑ 再び穏やかな渓相へ


 ↑ 左岸無名沢の大滝

続いて顕著な倒木と岩組みの滝3mが現れます。


 ↑ 釜は深いです

巻きは左岸。長いロープが斜面に固定されています。


 ↑ 左岸の固定ロープ

高巻きは上部のトイ状の滝もまとめて越えるのがセオリー。
ここを過ぎると、一時的に流れが二つに分かれ、インゼル(中洲)も現れます。


 ↑ 渓が二つに分かれます

やがて右岸になだらかな台地が広がります。









この辺りがどうやら、


六人移り


ピンポイントでどこが六人移りと呼ばれるところなのかは全く分かりませんが、どうやらこの辺りは古くからの伐採事業の基地となっていたことは確かなようです。

原全教氏の著書には以下のような記述がありました。


周圍はもとより森林で、その上流木もあり、薪は豐富なものだ。古來本谷随一の野營地として、推奨されてゐたのも當然である。こゝはまた單に、獵人や登山者の根據地としてのみではなく、安政年間、江戸深川の材木商である太田屋德九郎が、江戸城普請の用材補給のため、數百人の樵夫を引き具して眞木から入り、小金澤全體に亘つて、檜と欅の大伐採を行つた。その際こゝは重要な根據地として、多くの杣が常在したが、ある年の冬期、未曽有の大雪崩が起り、一つの小屋は壊滅して、留守居の杣六人が一度に壓死したと云ふ悲慘事を現出した。それがこの名稱の起りで、或は六人落ツル(落命)の轉訛だと云ふ。


名前の由来はこちらももの悲しいものですが、こんな忘れられたような山の中に人の営みの歴史があったことに驚きを禁じえません。



■ 今日は不動滝まで

やがて右岸から塩地沢が出合うと、今日のゴールはすぐそこ。


 ↑ 塩地沢出合

本流は右に大きくカーブし、突然大滝が現れます。

これが、


不動滝8m








大変見事な直瀑で、黒光りする岩壁と雄々しい白線のコントラストが印象的です。

原全教氏も以下のように絶賛しています。


この瀑は高さに於ては、上流マミヤ澤の出合を形成する、マミヤ瀑に劣るけれども、その境地の幽邃ゆうすい、岩壁の壯大、水量の豐富などの諸點を綜合すると、優に本谷第一位に推さるべきもので下流の鶏淵以來の幽境である。


この滝は見るからに直登不可。高巻きも不可。
ガイド本には、塩地沢から一旦林道に出て、少し先の枝尾根を下降するよう記されています。
まだ余力はありますが、どのみち林道に上がらなければならないので、区切り良く今日はここまで。
ここから先は次回の楽しみにとっておくことにします。


 ↑ 上の林道を目指します


 ↑ 塩地沢橋


今回で全体の3分の2ほど遡行したでしょうか。
次回は、不動滝上からマミエ沢出合までを遡行してみたいと考えています。
さらにアプローチを変えたり、ベースキャンプを立てたりして、上流に広がる大菩薩沢やマミエ沢、その支流を遡るなど遊び方が幾つも思い浮かびます。






          





関東屈指の大渓谷、小金沢本谷。
日本登山体系にはまだ深城ダムが建設される前のルート解説や遡行図が掲載されていますが、発電所工事が終わった現在と比べても、著しい変貌を遂げた訳ではなさそうです。
昭和の頃多くの遡行者が目にした世界と、現在の我々が目にする渓相がどう変化したのか、知る由もありませんが、深遠な渓谷美は今も健在!
その美しさに魅せられてしまうと、何度でも訪れてみたくなるもの。
無我夢中になれる渓として、いつまでも大切にしたい場所になりそうです。



帰りの立ち寄り湯は、「小菅の湯」
小金沢公園から松姫トンネルをぬけて10分ほど。

小菅の湯(金曜休)の情報はこちらをご覧ください




最後までご一読いただき、有難うございました。

※ 画像サイズはスマートフォンで見やすい大きさに設定してあります。



フォトギャラリー

お茶ノ水ノ滝は小金沢本谷を代表する神秘的な美瀑です

お茶ノ水ノ滝の落ち口

直登不可の6m滝

大きな釜をもつ3m滝は右壁を容易に登ることができます

さりげない2条2m滝

大きく深い釜をもった4m滝 左壁を登るとIII+ 巻きは少し戻った左岸から

倒木と岩組みの滝3mは直登不可 手前の左岸ルンゼから越えていきます 

一時的に流れが2つに分かれるところ 中央はインゼル(中洲)

この辺りの右岸台地が六人移りか 江戸時代に雪崩で落命した6名の杣人が名の由来

関東では最高クラスの渓谷美ではないでしょうか

盛夏の泳ぎは爽快です

見事な不動滝8m 林道に出て大きく高巻きます

・実際に行かれる際は、現地の最新情報をご確認ください。
・ご自身の技術や体力に合った無理のない登山計画で山を楽しみましょう。

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