天国の稜線・白峰南嶺から農鳥岳
- 投稿者
-
るんちゃん(おとな女子登山部)
浦和パルコ店
- 日程
- 2021年10月15日 (金)~2021年10月16日 (土)
- メンバー
- 単独
- 天候
- 晴れ
- コースタイム
- 【1日目】奈良田第一駐車場(20分)笹山登山口(90分)水場分岐(210分)笹山南峰(10分)笹山北峰(90分)白河内岳
【2日目】白河内岳(30分)大籠岳(65分)広河内岳(30分)大門沢下降点(35分)農鳥岳(25分)大門沢下降点(100分)大門沢小屋(120分)奈良田第一発電所(30分)駐車場
- コース状況
- ・笹山に最も近いのは第一駐車場です。無料、30台ほど。簡易トイレあり。その先のバス停横(女帝の湯の近道)にも10台ほど停められます。こちらにはきれいなトイレと自販機あります。女帝の湯の駐車場は20台ほど。
・吊り橋を渡ってから左折し発電所を過ぎると登山道が始まります。笹山山頂までは急登ですが、特に危険箇所も無く歩きやすいです。ピンクテープ豊富なので迷う所もありません。
・笹山からはほぼ稜線歩き。マーキングを見逃すと途端にハイマツ地獄となります。
・笹山北峰の先の樹林帯で熊一頭と遭遇しました。
・大門沢下降点から小屋まではつづら折りの急登。小屋から先は渡渉や吊り橋があり変化に富んでいます。
・発電所取水口を過ぎて吊り橋を渡ると、唯一橋のない河原を渡渉します。飛び石伝いに渡るので雨後の増水時は難しそうです。
・水場は登山口から2時間程度登った場所と大門沢小屋のみ。
・日帰り温泉・女帝の湯は受付17時まで。550円。お食事処やカフェなどもあります。
- 難易度
感想コメント
久々にのんびりと縦走がしたくなって、南アルプスの中でも比較的静かな白峰南嶺を歩いて来ました。その名の通り、白峰三山の南に位置し、富士山や南アルプスの名だたる山々を眺めながら、ゆったりと稜線歩きを楽しめます。派手さは無いものの、静かでとても味わい深い山旅を楽しめました。
スタートは奈良田温泉から。笹山へダイレクトに突き上げる尾根を登り、大門沢から急勾配を一気に下るルートを取りました。時計回りだと稜線上に水場が無く、必要な水は全て担ぎ上げなくてはなりません。尾根を2時間ほど歩いた樹林帯の中に往復20分の水場がありますが、出来るだけ早く先に進みたかったので、結局4.5Lの水を下から担いで上がりました。樹林帯は無風で思った以上に水を消費してしまい、夕食後のコーヒーが一杯しか飲めませんでした。あと500mLあればもう少し優雅なお茶タイムを楽しめたと思います。
大門沢から登る場合は最初の渡渉を失敗してはいけないこと、片側切れ落ちた狭いへつりやジグザグの岩場など、変化に富んだ急登をこなす必要があります。心が折れて大門沢小屋で終了する恐れもあったので、時計回りにして正解でした。
笹山までは単調な樹林帯時々急登、鹿の鳴き声をBGMに黙々と登ります。途中でバテないようペースはゆっくりと、水はこまめに摂り、休憩も適度に挟みました。延々と続く登りに飽きてきた頃、ようやく北側が開けて、これから歩く稜線から北岳、農鳥岳が顔を出していました。北岳のシルエットはなだらかな三角形と記憶していたので、槍のように尖った姿を見て日本第二の高峰の貫禄を感じました。
さらに森を歩くと軽快なランナーの方とすれ違いました。トレランスタイルで1日で周回する方も多いようです。私は地道に衣食住を担いでもうひと頑張り。山頂直下は木の根が張り巡らされ、消耗しかけた体力に追い討ちをかけてきます。何とか切り抜けてお昼前に笹山南峰に辿り着きました。
明日できたら農鳥岳も踏みたかったので、もう少し先まで進むことに。南峰から僅かで展望抜群の北峰へ。ここでビバークするという男性と少しお喋りしてさらに先を目指します。
再び樹林帯に差し掛かり西側を巻く登山道を歩いていると、カサカサと落ち葉を踏む足音。鹿でもいたかなと徐に左下方に目を向けると、真っ黒いシルエットに背筋が凍り付きました。そこにいたのは同じくフリーズした一頭の小熊。胸元の白い月の輪がはっきり見えたかと思ったら、向こうから一目散に逃げていきました。我にかえって足早に立ち去り、出来るだけこの樹林帯からは離れることにしました。小熊との距離は僅か3~4m、ここまで接近したのは初めてです。こちらも肝を冷やしましたが、あちらも相当驚いた様子でした。穏やかな一時を邪魔して申し訳なかったです。
気を取り直して再び稜線歩き。ゴーロ帯をよじ登り白河内岳を目指します。午後の日差しに染まる塩見岳を見ながらだだっ広い山頂を歩き、この日のビバーク地に着きました。アーベントロートの農鳥岳と、徐々に青からピンク色に染まる富士山を眺めながら贅沢なサンセットを堪能し、我が家に潜り込みました。
翌朝は3時過ぎに起床、風の強い朝でしたがすっきりと晴れ渡り、薄暗い富士山と雲海の下に朝日がスタンバイしているのがわかりました。日の出を見ながら歩きたかったので、急いで撤収、5時には行動開始しました。
分厚い雲海の地平線から朝日が顔を出した瞬間、山肌は薔薇色に染まり、私もろとも暖かい光に包まれました。思わず手を合わせてしまうほど感動的な光景で、今この場所にいることに感謝したくなりました。これまでいろいろあったけど、これからもたくさん試練はあるだろうけど、前に進んで行こう。そんな気持ちが芽生えた、素晴らしい朝でした。
さらに感動を求めて先へ進みます。景色に気をとられてコースアウト、誰も見ていないのを良いことにハイマツの海をもがきながら必死で復帰するという場面が何度かありました。
大籠岳まではモルゲンロートを楽しみ、広河内岳のピークで雲海と青空のコントラストを眺めた後は、あっという間に大門沢下降点へ。時間があるので予定通り農鳥岳へ向かうことにしました。この辺りから人が増え賑わいが出てきました。広河原から白峰三山を縦走してきた人、大門沢から農鳥まで一気にピストンする人、皆さん様々なルートで歩いてきたようでした。
農鳥岳へはまず東側のお椀状の地形の中を進み、西側に出てガレた岩場を登り詰めると山頂です。西側には北アルプス、北岳へと続く縦走路が見えるはずですが、残念ながら風が強く雲の中。仕方なく早々と下りてきました。
後は下るのみ、稜線ともここでお別れです。しばらく大門沢下降点の鐘の下で、惜しむように辿った稜線を眺めていました。
大門沢小屋まではガレ、ザレの急登、気の抜けない道をひたすら下降します。枯沢を2度ほど渡り整然としたカラマツ樹林帯を過ぎるとようやく大門沢小屋。賞味期限の切れたリンゴジュースを割引してもらい、一気に流し込みました。ダイナミックなトイレも体験し身支度を整えたら、後半戦に突入です。
不安定な木橋を恐る恐る渡った後は、八丁坂と呼ばれる切れ落ちた断崖を下ります。途中ランナーに越されましたが、あんなに細い道をスタコラサッサと駆け抜けられるなんて流石としか言いようがありません。
途中美人林のようなブナの広場があったり、安定した吊り橋や安定しない吊り橋があったり、長いコースの割に変化に富んでいて飽きのこない下りでした。
最後の核心は早川の渡渉。上から見たらあっさり越えられそうでしたが、いざ近付くと微妙に間が空いていて、バランスを崩すとあっという間にドボンしそうな予感。慎重に見極めたつもりが若干水に浸かってしまいました。ここまで来たらあとは長い長い道路をひたすら歩くだけ。ヒッチハイクできるならしたかったです。
駐車場には14時前に到着。お風呂の受付時間には余裕で間に合いました。古民家を改装した風情のあるお風呂で、私好みのぬるめのお湯にたっぷりと浸かり2日間の疲れを癒しました。
最近は単独で出かけることは少なくなりましたが、お一人様の山旅もやっぱり良いものです。来年は南アルプスのさらに南部を歩いてみたいです。
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