南アルプス 戸台川本谷 氷瀑を巡る (甲斐駒ケ岳西面)

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投稿者
伊藤 岳彦
横浜西口店 店舗詳細をみる
日程
2016年02月09日 (火)~2016年02月10日 (水)
メンバー
単独行
天候
曇時々雪 ⇨ 晴
コースタイム
■ 2月 9日(火) 曇時々雪
  戸台駐車場(180分)赤河原分岐幕営地

■ 2月10日(水) 晴
  幕営地(20分)舞姫ノ滝(40分)七丈ノ滝(50分)
  幕営地(180分)戸台駐車場
コース状況
本文をご参照下さい
難易度
Google Map
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感想コメント



戸台川本谷氷瀑巡り

氷瀑鑑賞トレッキングですが、ご一読頂ければ幸いです。



Ⅰ.戸台川本谷概要


甲斐駒仙丈の長野県側アプローチの起点となる戸台を悠々と流れる戸台川。
積雪期の甲斐駒仙丈を目指す方の多くがアプローチとして歩かれるルートです。
戸台川は美和湖に注ぐ黒川の支流ですが、赤河原分岐にて本谷と、仙丈ヶ岳を水源とする藪沢に分かれます。
仙丈ヶ岳に登られた方は藪沢という地名に心当たりがあるかと思います。
対する戸台川本谷は甲斐駒の西面の水を全て集める険しい谷。
長さ3.5km、落差1,500mの比較的小規模な谷ですが、穏やかな中流部から急激に傾斜を増して源流部に多くの滝をつくる登攀的な谷として知られます。
甲斐駒が伊那谷では古来白崩山と呼称されたのは、山頂に広がる風化した花崗岩が白く遠望できることによるものですが、実際に花崗岩が広がるのはむしろ山梨県側で、東側の尾白川や大武川では渓相を明るくする豪壮なスラブを眼にすることができます。



【↑】 これは夏の尾白川です

しかし戸台川は地質学的には粘板岩を主とする古成層という地層になるそうで、まるで陰と陽のように、明らかに東側と西側では趣が異なることが分かります。
これは滝の構成に顕著に表れ、戸台川では花崗岩特有のナメ滝が存在せず、苔を多くまとった垂直の滝が多いようです。
戸台川本谷にも中腹までかつては登山道が存在し、七丈ヶ滝尾根を六合目小屋(旧六合石室)までダイレクトに伸びる登路がありましたが、現在は廃道。
無雪期も戸台川本谷支流すべてが遡行対象となりますが、グレードの高い登攀的な遡行が要求されるので、昨今訪れる方は皆無かもしれません。
それだけに奥深い大自然を体感できる穴場として原始性を回帰させつつある山域であり、まだ見ぬ知らない世界を求めて訪れる価値は十二分にあるように思えます。



しかし人跡を刻むことのない戸台川本谷は厳冬期にこそその真価を発揮します。
決して多くはない水量ですが、見事に氷結した滝はバラエティに富み、本格的なアイスクライマーの方に氷壁登攀の良き修練場を提供しています。
傾斜のある滝を次々と登り詰め稜線を目指すアルパインアイスや、大滝の直登のみに挑むヴァーチカルアイス、枝沢でのゲレンデ的アイスなど技量に合わせてルートを選択できるようになっています。



【↑】 概念図 スマホでご覧ください

主に登攀対象として知られるのは、下流から、上ニゴリ沢・その支流小百合沢・70m大滝「歌宿ノ宿」を抱く歌宿沢舞姫ノ滝舞鶴ルンゼ鶴姫ルンゼ・無名ルンゼ大滝「キリンの首」・約150mの大氷瀑が待ちうける七丈ノ滝沢・その西隣の「象ノ鼻」・本谷五丈ノ滝F1F2上に流れ込む駒津沢・その先奥駒津沢・さらに藪沢双児沢など。



必ずしも全てを見ることができる訳ではありませんが、今回これらの氷瀑の幾つかを巡るトレッキングを行ってみました。
南アルプスを1泊2日で楽しめる変則的なプランとしてこのような山行もありでしょうか。
冬の南アルプスは最低でも3日くらい休みがないと入りづらいものですが、このようなスタイルであれば、2日で行くことができます。
雪山登山の王道からは逸脱したスタイルではありますが、雪深い森の奥に人知れず屹立する氷の造形から何かを感じ取って頂ければ幸いです。
またクライマーの方がご覧になられて氷瀑の状態を確認することに一役担えば大変嬉しく思います。



Ⅱ.氷瀑を巡る


1 赤河原分岐まで

とても静かに水が流れる戸台川流域は、“荒野”という言葉が連想される、開放的でありながらそこはかとなく寂寞とした空間。
遠くに甲斐駒を望みながら、広く開けた河原を自由に歩くアプローチは、大袈裟ですがまるで“この世の果て”を歩いているような気にさせるもので、他では味わえない寂寥感に満ちているような気がします。
重い荷物を背負って、粉雪舞う悪天候のなかを黙々と歩くイメージが私のなかにあるためかもしれませんが、いつも日常離れした不思議な感傷を抱いてしまいます。



【↑】 広大な無料駐車場

戸台の無料駐車場は自己責任ですが、いくらでも車が停められそうなとても広大なスペース。
但し駐車場へ至る北側の坂道が凍結している場合は、夏タイヤでの進入不可。
この場合は戸台大橋前後に駐車スペースを探すしかなさそうです。



【↑】 しばらく右岸を辿ります

まずは第二堰堤を目指します。道もはっきりとしていて、工事車輌の轍があります。



【↑】 第二堰堤は階段で越えます



【↑】 粉雪舞う河原を黙々と歩きます

第二堰堤からは河原を大きく横切り、左岸の踏み跡へ。この辺りはどこでも歩くことができます。



【↑】 苔むした岩が多くあります



【↑】 藪沢出合まで3時間弱



【↑】 渡渉点には橋が架かっています

意外に藪沢は水量豊富なので、橋を使わずに渡渉しようとすると結構難儀しそうです。



【↑】 赤河原分岐の幕営適地

今回は北沢峠まで登る必要がないので、早々に赤河原分岐にて幕営。
樹林帯のなかとても静かな空間です。水は戸台川本谷が伏流しているので、藪沢へ汲みに行きます。
無雪期にここで幕営すると何かと獣に怯えてしまうものですが、厳冬期はそういう心配をしなくてすむます。



【↑】 旧丹溪山荘跡

旧丹溪山荘跡が幕営地より少し上がったところにありますが、まるでお化け屋敷みたいです。
以前はクライマーの多くがこの中にテントを張ると言われましたが、最近はとても少ないかもしれません。



2 戸台川本谷を歩く

二日目は晴天の下、戸台川本谷に入ります。



【↑】 戸台川本谷の奥に進みます

旧登山道があっただけに幾つか赤布が散見されますが、踏跡は不明瞭。
基本的に歩きやすいところを選んで左岸の樹林帯を進みましたが、倒木が多く歩きにくいので、早々に川へ下りてしまいました。
水際でアイゼンを装着し、ここからは沢登りの要領で淡々と遡行。
赤河原分岐から20分ほどで舞姫ノ滝が見えてきました。



【↑】 舞姫ノ滝のあるルンゼ



【↑】 F3である舞姫ノ滝をアップで

舞姫ノ滝はヴァーチカルアイスの登竜門と言われます。
戸台川流域は水量が少ないのでどれも大氷瀑とはいきませんが、岩に浮き出るような氷の造形はどれも見事なものです。



【↑】 さらに上流へ 巨岩帯を巻きながら進みます



【↑】 氷の廊下を歩いていきます



【↑】 氷の小滝を登っていきます



【↑】 氷の階段

氷の造形の美しさに目を奪われながら渓をゆっくりと辿ります。
赤河原分岐から1時間ほどで、今回のハイライトとも言える七丈ノ滝が見えてきました。



【↑】 七丈ノ滝が見えました



【↑】 七丈ノ滝は約150mの大氷瀑

ヴァーチカルアイスの城砦と称される上級ルート。
空中に氷の塊が浮かんでいる様はとても神秘的です。



【↑】 こちらは「象ノ鼻」 氷結状態の良い時は限られるようです



【↑】 結氷は今一つでしょうか

さらに本谷上流には五丈ノ滝が控えますが、今回はここまで。
帰りは注意深く渓を下降しながら、自分のトレースを辿ります。



【↑】 帰路静かな森のなかへ



【↑】 最後に甲斐駒を振り返ります



Ⅲ.終わりに


登山を続ける限り、まだ見たことのない世界への憧憬と飽くなき好奇心は失わないでいたいもの。
私にとって南アルプス厳冬期の谷はこれまで未知の世界でした。
積雪期において、私のような単独行者は基本的にピークハントに終始してしまうものですが、厳冬期においても頂ではなく谷へ眼を向けるスタイルも面白いことに今更ながら気付きました。
雪深い森のなか、真冬でも躍動横溢する水の流れ、そして神秘的な氷瀑が見せる冷徹な貌。
元来沢への関心が高いこともありますが、冬の谷に身を置くことで感じる、夏とは異なる山深さに包まれる感覚は不思議と心地よいものです。
尾白川・大武川・戸台川・三峰川……まだまだ南アルプスには知られざる氷瀑巡りができる場所が幾つもあるので、未知の世界を求める氷瀑トレッキングをこれからも楽しんでいきたいと思います。



※ HTMLを使用したレポート掲載については許可を得ております。


フォトギャラリー

七丈ノ滝①

七丈ノ滝②

象ノ鼻①

象ノ鼻②

舞姫ノ滝①

舞姫ノ滝②

戸台川は荒野を歩くルート

最後甲斐駒を振り返ります

・実際に行かれる際は、現地の最新情報をご確認ください。
・ご自身の技術や体力に合った無理のない登山計画で山を楽しみましょう。

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